第17話 『王都の闇、迫る暗殺者──ユーク、標的となる』
王都の夜。
石畳の道には街灯が灯り、昼間の喧騒とは打って変わって静寂が広がっていた。
そんな王都の裏通りを、ユークは一人で歩いていた。
(……さっきからつけられてるな)
昼間から感じていた視線は、もはや隠そうともしない気配に変わっていた。
そして今、背後から響く複数の足音。
ユークはため息をつきながら、立ち止まり、ゆっくりと振り返った。
そこに立っていたのは、黒いフードを被った数人の男たち。
顔は布で覆われ、手には短剣やクロスボウが握られている。
「……ユーク・アーデル。貴様には死んでもらう」
静かに放たれた言葉。
それと同時に、暗殺者たちは一斉に動き出した。
ヒュンッ!
一人の暗殺者が短剣を投げつける。
(遅い)
ユークは最小限の動きでそれを回避し、地面を蹴って一気に間合いを詰めた。
そして——
「遅すぎる」
放たれた拳が暗殺者の腹部にめり込む。
ゴッ! という鈍い音が響き、男の身体が数メートル吹き飛んだ。
だが、その瞬間——
ヒュッ!
別の暗殺者がクロスボウを構え、矢を放つ。
「……チッ」
瞬時に回避するが、矢が頬をかすめ、わずかに血が滲んだ。
——この連携、素人ではない。
(こいつら……ただのごろつきじゃないな)
暗殺者たちは、まるで訓練を受けた兵のように動き、戦闘のリズムを作ろうとしている。
しかし——
それは、ユークには通じない。
「……つまらないな」
その呟きと同時に、ユークの戦闘の気配が変わった。
次の瞬間——
ユークの姿が消えた。
「なっ——」
気づいた時には、ユークの剣が男の首元に突きつけられていた。
「終わりだ」
瞬時に後ろへ跳び退る暗殺者。
だが、その動きすら読んでいたユークは、一閃の斬撃を放つ。
シャッ!
剣圧だけで、暗殺者の腕の一部が切り裂かれる。
「ぐぁっ……!」
そして——残りの暗殺者たちも、次々と地面に倒れていった。
ユークは、一人も取り逃がすことなく、全員を無力化した。
だが、その表情は微塵も緩まなかった。
(……今のは、ただの刺客か?)
戦闘は終わった。
だが、戦闘後にやるべきことはまだある。
(……軽傷とはいえ、今のうちに治しておくか)
右腕には短剣による切り傷が一本。
頬にはクロスボウの矢がかすめた浅い傷。
脚には回避時に擦りむいた痕。
どれも致命傷ではないが、放置すれば戦闘の動きに影響が出る。
ユークは片手を軽く掲げ、魔力を込める。
「アドバンス・ヒール」
次の瞬間——
スッ……と、傷が消えていった。
血が止まり、皮膚がなめらかに再生し、筋肉の痛みが瞬時に取り除かれる。
だが、それだけではない。
(……やはり、さらに最適化できるな)
彼の治癒魔法は、普通の回復魔法とは違う。
単なる「治す」ではなく、「どの程度治すのがベストか」を瞬時に判断する。
これは、「万能適応」の能力が関係していた。
かつてパーティーにいた頃、ユークはエレナの治癒魔法を何度も受けていた。そのたびに、彼の万能適応の能力は、エレナの回復魔法の特性を吸収し、さらに効率的な治癒法へと進化させていた。
(エレナのヒールは回復速度は速いが、神経への調整が雑だった)
「痛みを完全に消す」→「急な感覚の変化でバランスが崩れる」
「疲労を一気に回復させる」→「身体がついていかず逆に動きが鈍る」
それらの欠点を、ユークの万能適応は自動的に修正していた。
今、ユークが使うヒールは、徹底的にカスタマイズされたものだった。
「傷の回復は100%」「痛みの遮断は70%」「疲労の回復は50%」
これが、戦闘後に最も適した状態。
疲労を完全に消さずに適度に残すことで、身体が異常を察知しやすくなり、次の戦闘に備えやすくなる。
まるで戦場の医師が最適な治療法を選ぶように、ユークは一瞬でそれをやってのけた。
最後にもう一度ヒールを唱え、全身をチェックする。
異常なし。
ユークはゆっくりと息を吐いた。
(……さて、問題はこいつらの正体だな)
目の前の暗殺者たちに視線を落としながら、静かに次の行動を考え始める。
一方、その頃——
レオナールたちは、王都の裏路地で情報屋と対峙していた。
「……ユーク・アーデル? そいつなら、王都で随分有名になってるぜ」
「やっぱり……!」
「どこにいるの? すぐに会いに行くわ!」
しかし、情報屋は苦笑しながら続けた。
「へへ……会いに行くのはいいが、お前ら、覚悟しておけよ?」
「……どういう意味だ?」
情報屋は、路地の奥を指さした。
「さっき、暗殺者の一団が動いてたぜ。標的は、おそらくユーク・アーデルだ」
「……!?」
衝撃が走る。
レオナールは、拳を握りしめ、歯を食いしばった。
(ユークが……暗殺される?)
彼の頭の中で、「まだ終わりじゃない」という言葉がこだました。
「……行くぞ!!」
こうして、「ユークを狙う者」と「ユークを探す者」が、王都の夜に交錯し始める——。
ユークは、地面に倒れた暗殺者たちを見下ろしながら、静かに考えていた。
(誰が、俺を殺そうとした?)
王女セリナの関係者か?
それとも、王都の貴族たちの派閥争いか?
あるいは——昔の仲間たちか。
その答えを探す間もなく、背後から新たな気配を感じた。
(……今度は誰だ?)
ゆっくりと振り向く。
すると、そこに立っていたのは——
「ユーク……見つけたぞ」
——かつての仲間、レオナールたちだった。
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