第16話 『落ちた英雄、輝く新星──王都に渦巻く陰謀』
王女セリナとの謁見を終えて数日が経った。
ユークは王都の生活に少しずつ慣れ始めていた。
賑やかな市場には新鮮な果物や豪華な装飾品が並び、広場では吟遊詩人が美しい旋律を奏でている。
街の外れには広大な訓練場があり、兵士たちが槍や剣を振るう姿が見られる。
だが、ユークはその光景の中に微かな違和感を覚えていた。
(……何かがおかしい)
街を歩けば、冒険者たちの視線を感じることが増えた。
遠巻きに見てくる者、わざと距離を取る者、明らかに話をしていたのにユークが通ると黙る者——
まるで「王都で歓迎される英雄」として見られながらも、「何か異質な存在」とでも思われているようだった。
ユークは小さくため息をついた。
(目立つのは嫌なんだけどな)
気を紛らわせるため、ギルドへ向かう。
ギルドの扉を開けると、中の冒険者たちが一瞬こちらを見るが、すぐに何事もなかったかのように視線を逸らした。
「……あいつが、ユーク・アーデルか?」
「やっぱり噂通りの雰囲気だな……」
「王女に気に入られたらしいが、貴族どもが黙ってるとも思えねぇな」
ひそひそとした会話が聞こえてくる。
ユークはあまり気にせずカウンターに向かおうとしたが、その前にギルドマスターが現れた。
「ユーク、お前に個別の依頼が来てる」
「……個別の依頼?」
ギルドマスターは少し渋い顔をしながら、奥の部屋へと促す。
応接室に入ると、上品な装いの貴族が座っていた。
「お会いできて光栄です、ユーク様」
彼はにこやかに微笑みながら、丁寧に礼をする。
しかし、ユークは一目で分かった——この男の目は「何かを企んでいる者の目」だと。
「……用件は?」
「私はレインズ侯爵と申します。近頃、王都近郊の村で魔物の出没が増えておりまして……あなたにぜひ解決していただきたく」
確かに、冒険者への依頼としては普通のものだった。
だが、ユークは直感的に思った。
(こいつ、本当にそれだけが目的か?)
ここ数日感じていた「監視の視線」と、この貴族の動き。
王都の貴族たちの間でユークを取り込もうとする勢力と、警戒する勢力があるのではないか——
「……分かった。依頼は受ける」
それだけ言うと、貴族は満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございます、ユーク様。王国はあなたの力を必要としておりますので」
——その言葉の裏に、どんな思惑があるのか。
一方、王都の片隅。
レオナールたちは、安宿の薄暗い一室にいた。
昨日まで「勇者」として王国から支援を受けていた彼らだが、今は無職同然。
資金援助は打ち切られ、ギルドからの信用も失われた。
「……どうするのよ、レオナール。まさか、本当にこのまま……」
「私たち、もう“勇者”じゃないのよ……?」
ギルドのカウンターで、彼女たちは初めて自分たちが「ただの一般冒険者」に落ちぶれたことを痛感した。
Eランク降格。
王国からの剥奪宣言。
そして——ユークの存在。
「……まだ終わりじゃない」
呟いたその声には、以前の自信ではなく、焦燥と嫉妬が滲んでいた。
「ユークがどれほど強くなろうが関係ない……!」
「俺たちは、俺たちの力で……必ず這い上がる……!」
しかし、彼は知らなかった。
この「這い上がるための道」が、さらに深い闇へと足を踏み入れることになることを——。
その夜、ユークは王都の路地裏を歩いていた。
魔物討伐の準備のため、武具の補充に向かう途中だった。
しかし——
カツン……カツン……
背後で、誰かの足音が響く。
(……またか)
最近、王都での「監視」の気配は続いていた。
だが——
今回は違う。
ユークは立ち止まり、背後を振り向いた。
すると、そこには黒いフードを被った数人の男たちが立っていた。
顔は布で隠され、彼らは確実に武器を手にしている。
「……ようやく、正体を現したな」
すると、男の一人が静かに言った。
「ユーク・アーデル。貴様には死んでもらう」
その瞬間、鋭い殺気が迸った——。
読んでいただきありがとうごさいます!
この作品が面白かったら、感想、ブグマ&評価(下の星マーク)をお願いします!




