第12話 『ドラゴンを討伐したSランク冒険者、無名のはずが王都で話題に?』
森を抜けた先に広がる城壁都市ガルス。
この都市は王都へ続く街道の分岐点として栄えており、多くの商人や冒険者が行き交う活気あふれる町だ。
堅牢な城壁に囲まれた町には、王国紋章の旗が掲げられた門が二つあり、それぞれに鎧をまとった兵士たちが立っていた。
ユークは通行税を支払い、城壁をくぐる。
(……王都に近づくほど、街が整備されてるな)
以前いた小さな村と違い、石畳が敷かれ、街並みもきれいだ。商業ギルドの建物や、貴族らしき者が馬車に乗っている姿も見える。
通りを歩いていると、武具を売る露店の前で騎士風の男が剣を見比べていた。
「この剣は王都で流通しているのと同じか……?」
「へへっ、良い目をしてるね旦那。こいつは鋼鉄とミスリルの合金で——」
(なるほどな……やっぱり王都の影響が強い街って感じか)
交易の要所としての役割を担っているガルス。
この街での情報収集は、今後の旅を進める上で役に立つかもしれない。
市場の近くを歩いていると、数人の商人たちが熱心に話し込んでいるのが耳に入った。
「おい、聞いたか? 二日前、西の森でドラゴンが討伐されたらしいぜ」
「ああ、俺も聞いた! たった一人で仕留めたSランク冒険者がいたってな!」
「そんなヤツいたか? どこのギルドにも所属してねぇらしいが……」
ユークは一瞬足を止めたが、何事もなかったように歩き続けた。
(……やっぱり噂になってるか)
考えてみれば当然だった。
ドラゴンは高位の魔物で、討伐となれば国の記録に残るレベルの大事件だ。
それを単独で仕留めたのだから、話題にならない方がおかしい。
——とはいえ、噂が広がるにつれて、どうにも内容が誇張されていっている気がする。
「どこかの国が秘密裏に育てた英雄かもな」
「いや、封印されていた伝説の戦士だったりしてな!」
(……いや、ただの旅人なんだけどな)
なんとなく気まずくなりながらも、ユークはギルドへ向かうことにした。
ギルドの重厚な扉を開けると、中は騒然としていた。
壁には討伐依頼や探索任務の紙がびっしりと貼られ、中央には巨大な掲示板がそびえ立っている。
受付カウンターの前には複数の冒険者たちが列をなし、各々が報酬の受け取りや新たな依頼の申し込みをしていた。
だが、それ以上に目立ったのは——
「なあ、聞いたか? ドラゴンを討伐したSランクの新入りの噂!」
「ああ、どこのギルドにも所属してねえんだろ? どんなヤツだ?」
「まさか、伝説の戦士の再来じゃねえだろうな!」
まるで都市伝説を語るかのような盛り上がり方だ。
ユークは眉をひそめながら、カウンターに向かった。
だが、その瞬間——
「……おい」
渋い声が響いた。
振り向くと、黒髪のひげ面の中年男が腕を組んでユークを見つめていた。
ギルドの奥から歩いてきた彼は、明らかに普通の職員とは違う雰囲気を持っている。
「お前が、ユーク・アーデルか?」
鋭い視線が突き刺さる。
「……そうだけど?」
するとギルドマスターは顎を撫で、深く息をついた。
「やっぱりな……ちょっと奥へ来てもらおうか」
一方、その頃——
王都の王宮では、王女セリナが豪奢な玉座に腰掛け、報告を聞いていた。
背後には金の装飾が施された大理石の壁、天井には細やかなステンドグラスの窓がはめ込まれている。
「無名のSランク冒険者が、単独でドラゴンを討伐しました」
「無名? どこの貴族の出でもないの?」
「はい。どこのギルドにも正式には所属せず、王族とも関係がないようです」
セリナは微笑み、椅子の肘掛けに指を滑らせた。
「興味深いわね……彼を王都に招きなさい」
翌日、ユークがギルドで宿の手続きをしていると、突然ギルドの扉が開かれた。
「ユーク・アーデル殿!」
青い軍服をまとった使者が、恭しく頭を下げる。
「王女セリナ様より、王都への正式なご招待を賜っております」
ギルド内が静まり返る。
ユークは心の中で絶望した。
(……めんどくさくなってきた)
こうして、ユークの望まぬ英雄伝説がまた一歩進んでしまったのだった。
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