第97話『沈黙の聖堂』
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異形の空間を抜けた先、ナスラムの最奥部には巨大な神殿のような建造物が広がっていた。
静寂。
まるで、時間すら凍てついたかのような空間だった。
「……ここが、“中枢”だな」
ユークは重々しい石の扉に手をかけた。
セリナが小声で尋ねる。
「ユーク、感じる? ここ……空気が違う」
「ああ。魔力の流れが止まってる」
ユークは扉を押し開いた。
ギィ……と鈍い音を立てて開いた先にあったのは、白い大理石で造られた円形の大広間だった。中央には、浮遊する石板と、それを囲む六つの石像。
「なんだ……あれは?」
セリナが指差す。
石板からは魔力が微かに漏れ出していたが、ユークの《万能適応》が反応しない。
「……っ?」
ユークは眉をひそめた。
適応の感覚が、完全に“沈黙”している。
まるで、この空間だけがスキルを拒絶しているような——
「《万能適応》が……使えない?」
セリナが息を呑む。
「この空間、スキルを封じる何かがあるのね……」
ユークは拳を握りしめた。
(力が……ない? 今の俺は、ただの人間?)
その瞬間、石像が一斉に動き出した。
ガキィン、と音を立てて鎧を纏ったような巨体が歩み寄ってくる。
「来るぞ!」
ユークはすぐに剣を抜こうとした——だが、その瞬間、
「くっ……!」
腕に鈍い衝撃。
剣の重さが、いつもより遥かに重く感じる。
普段なら適応によって最適化されていた体の動きも、今は鈍い。
万能ではない。今の俺は、普通の剣士だ。
「下がって、ユーク!」
セリナがすかさず援護の光を放つ。
「《セイクリッドバリア》!」
神聖な盾がユークを覆い、石像の一撃を弾いた。
「ありがとう……」
ユークは歯を食いしばる。
(頼らないと決めたはずなのに……)
けれど、今の彼には、セリナの助けがなければ立ち向かうことすら難しい。
石像たちは無言のまま迫ってくる。
その時、ユークの脳裏に過去の記憶が蘇る。
——「俺たちはお前がいなくてもやっていける!」
——「補助だけの器用貧乏が、偉そうにするなよ」
——「……必要ないのよ、あなたなんて」
(そうだ。俺は、弱かった)
(でも、だからこそ……俺は強くなった)
力がない今こそ、証明する時だ。
——スキルに頼らず、自分自身の“意志”で立ち上がる時。
「来いよ……! この程度のピンチで、俺は止まらない!」
ユークは叫び、剣を構えた。
いつかのように完璧ではなくても——彼は戦う。
“万能ではない自分”と向き合う、真の試練が、いま始まろうとしていた。
読んでいただきありがとうごさいます!
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