第98話『剥き出しの本能』
刃がぶつかり、火花が散る。
ユークは全身を使って、石像の重たい剣を受け止めた。
身体が重い。呼吸が乱れる。適応スキルが働いていない今、その一撃一撃が、骨の芯にまで響いた。
「ぐっ……!」
蹴り飛ばされる。地面を転がり、息を整える暇もなく、もう一体が間合いを詰めてきた。
「くそ……!」
ユークは横に転がりながら、石像の足元へ剣を突き立てた。
だが、硬い。
相手の質量も耐久も桁違いだった。《万能適応》があれば、もっと正確に、もっと効率的に動けたはずだ。
だが、今のユークに残されたのは、鍛えた“地力”と、積み重ねてきた“経験”だけだった。
「ユーク! こっち!」
セリナの声と共に、光の魔弾が飛び、石像の注意を逸らす。
「ありがとう!」
その隙を見逃さず、ユークは地を蹴った。
脇腹に走る痛みに歯を食いしばりながら、石像の背後へ回り込む。
(目も、速度も、鈍ってる……それでも!)
敵の振り下ろす刃の軌道を読み切り、紙一重で躱す。
「――はぁっ!」
そして、脇腹への一撃。
硬い装甲を砕くには至らなかったが、動きにわずかな乱れが生じる。
「……この程度じゃ、倒れないか」
ユークは再び距離を取る。
(《万能適応》がないと、ここまで力が出せないのか……?)
そう思った時だった。
石像の一体が突然、膝をついた。
「……!?」
そして、背中に浮かび上がった魔法陣が、音もなく砕け散る。
「……まさか」
ユークは気づいた。
――この空間に適応しはじめている。
スキルではなく、自身の身体と感覚が、“沈黙の聖堂”という異質な場に順応し始めている。
(そうか……これが“本物の適応”か)
与えられた力に頼るのではなく、己の意思で掴み取る“成長”。
ユークの中で、静かに何かが芽吹き始めていた。
「……セリナ。もう少し援護を頼む」
「ええ。あなたなら、できるはずよ」
次の瞬間、ユークは石像へと再び飛び込む。
剣は今度こそ、装甲の継ぎ目を貫いた。
“万能ではない”からこそ見えた道。
スキルがなくても、戦える。
「……行こう。こいつらをすべて倒して、“本当のナスラム”の核心へ!」
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