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#2-9 人は信じたいものを信じる

 

 「満腹満足、ふぅ」


 部屋に入るや否や俺はベットに倒れ込み、体をふかふかなベットに身を預ける。

 機械の残骸拾い後、ティファに案内されるがまま ピュティの本家屋敷へと足を赴き、ドリアドネ邸の凄まじいさに感嘆覚えずには居られないのは記憶に新しい。

 屋敷はカーティラ街でピュティが住んでた屋敷をゆうに超える広さと大きさで、立派な装飾や彫刻が配置され、吊り下げられた宝石の様な光る大きな魔鉱石が夜の照明の様に屋敷の周囲を照らす。

 さらに大きな花園もあり長らく主人ピュティが不在でも庭師が手入れは怠らなかったのが伺える。

 そんなどこぞのホテルよりも豪華な屋敷で、若造でしかない俺にとっては贅沢な食事に大きな風呂も用意され、とても身も心も満足した状態で戦闘で疲れた体を労わり休ませていた。


 「ふぅ、あ・・・そうだ・・・」


 俺は思い出した様にさきほど、夕食後メイドから部屋に差し入れで貰った薄い緑色液体が入った薄荷酒の存在を思い出し、ベットの備え付けの机においてあるコルクで栓をされ綺麗な装飾で象られた酒ビンに手を伸ばそうとし・・・。


 「なんだよっ、アリス・・・」

 「駄目ですよ、マスター」


 伸ばした手を幼女の小さな手がそれを遮り、片手は人差し指を立て左右に振り『チッチッ』と安い効果音を口ずさみ、お前にはまだ早いと意思表示をする。


 「お酒は20歳からですよ」

 「お堅いな、一口ぐらい別にいいじゃないか、この世界じゃそんな法律なんて存在しないしさ、ピュティなんか10代からこの薄荷酒飲んでたて話さっきメイドから聞いたし、だからさ」

 「だ~~~~め~~~~ですぅ!私の目の黒いうちは絶対にNGです!」

 

 両手で×印を作り、大きく顔の頬をむくっとさせ絶対不動の意思を崩さずアリスは答える。


 「若いうちからお酒は体の悪影響です、なによりエルフと人間では体の作りが違い上、アルコール分解酵素の分泌の差があるので、ピュティがやってたからマスターもやっていいとはなりませんよ」

 「ちぇ、はいはい、わかりましたよぉて」

 「よろしい」


 別に凄く飲みたかったわけではなかったが、ミント味のお茶に嵌ってた俺は、ミント味のお酒はどうゆうものか少し気になったのでこっそり試したくなっただけであったのだが、アリスからの鉄壁のNGに早々に薄荷酒は諦め、俺は大の字になって天井を見上げる。

 吊り下げられた照明としての魔鉱石を頼りに、天井から広い部屋の中をゆっくりと視線で眺め、綺麗に整頓された部屋や彫像品の数々、壁に立てかけられた風景画がまるで自分が貴族になった様な感覚になる。

 体を大きく包む白いシルクの布で包まれた羽毛布団が心地よく、食べて風呂入ってすぐ寝るという甘い悪魔的誘惑に負けそうになってしまう。


 「しかし、ピュティてほんとにお姫様だったんだな」


 ただの庶民でしかなかった俺にとってこんな凄い部屋に住むことなんて到底考えられなく、妹と住んでたの2DKの賃貸アパートの間取りを思い出して、なんか切なくなってきた。


 「・・・舞・・・どこに居るんだろな・・・」


 まだどこかで眠りについてる妹の舞を考え、月明かりさす窓の外を眺め、その向こうの光源たる月をいつしか眺めてた。

 月は一部が欠けており割れた月の欠片が傍に寄り添う様に空を彩っていき、儚くも幻想的な光景が広がる。

 仮にだが俺がなんの知識もなく、この世界にいきなり放り投げられ、この風景をみれば、きっと俺はは異世界にきたのだろうと錯覚するに違いない。

 冷凍睡眠から目覚めてマリアにいろいろレクチャーしてもらったおかげで、ここは5万年後の地球だとは理解こそしてるが、まだどこか現実味がないのもまた事実だった。



 ―コンコン



 「・・・ん?」


 満腹とふかふかのベットのお陰で、胡思乱想とまどろむ雑念と意識が掻き混ぜられるのを甘受し、ウトウトし始める俺の意識を何かが現実に引き戻す。

 気のせいだったのだろうか窓に何かが叩く音が聞こえる、だが冷静に考えればここは屋敷は4階建てで客間として使わせてもらってるこの部屋は3階に位置し、こんな夜中で窓の外から誰かが叩く音なんてあるわけがない、だから俺はその幻聴を無視しまたまどろみの渦に戻ろうと意識を混濁させウトウトしようとするが・・・。


 ―コンコンコンコンコンコンコンコンコン!!!


 いや幻聴じゃない、はっきりとした窓を叩く音が、先ほどと違って無遠慮になんども叩き、部屋の主である俺が窓を開けるまで何度でも叩きつける気でいる。


 「マスター、呼んでますよ」

 「・・・」


 ベットから身を起こし、仕方なくいまだに叩きつける窓に近づき、窓を開く。


 「なにやってるんだ・・・おまえ」


 窓の外から白い手が伸び窓枠を掴み、部屋の中へよじ登ろうと大きな胸を窓枠に引っかけ、胸を軸にその人物はよじ登ろうとしていた、さすがに危なっかしいので手をつかみ部屋の中へと引き込んだ。


 「はぅ、寒かったよぉ」


 その破天荒な行動をする人物は無論ピュティであり、ピュティは薄いバスローブの様なローブを纏い、かすかにはだける太ももや大きな胸の谷間は僅かに鳥肌になり、夜の肌寒さを外で耐え凌いでたのが判る。

 おもむろに窓の外を覗いたが、遠くの4階からおそらくピュティの寝室から壁伝いに魔法で土壁の足場を作って、こちら3階まで階段の様に下りてきたのだ。


 「まったくなんの用だ、こんな夜に」

 「えへへ、夕食会にアキラ居なかったから、今どうしてるかなて見に来たの、いろいろ話したかったし」


 ピュティの底抜けな屈託のない笑みに肩をすくめ、つまり用はないけど、暇で遊びに来たてとこだろう。

 そんなピュティに室内の椅子を用意し、そこにピュティを座らせ、向かい合う様に俺はベットの傍に座る。


 「ほれ、ピュティこれ着けとけ」

 「あ、これ、うん」


 俺が手渡したのは、荷物で折りたたまれたヘッドフォンタイプの映像網膜投射の支援デバイスをピュティは受け取り、飛竜リンドヴルム召喚時にすでにアリスから使い方を教わってたらしく、それを首に巻きつけ、小気味いい機械の起動音と共に首に針を刺され一瞬だけビクッとなり、連動する様に大きな胸も地震がおき、胸が振動でプルンプルンしててちょっとだけ眼福ではあった。

 俺を見つめる蒼い宝石の様な瞳に電子の走査線が走り、リンクが繋がった。


 「はう!」

 「やぁ、デカピュティさきほどぶり」

 「アリスちゃん!ずっとそこに居たのですか?!」

 「いましたよ、貴女が夜這いしかけて来たとこからずっと見てましたよ」


 気づけばアリスは当たり前の様にちょこんとピュティの足にのっかり、足をばたつかせ定位置を確保していた。

 AIの情報をデバイスから網膜投影により認識を確立し、音声は骨伝道により伝わり、ピュティはようやくアリスという見えざる存在を認識できたわけだが、突然にアリスがすでに足に座ってたことにはびっくりしたのは言うまでもない。

 それでもピュティは順応能力が高いのか、質量を持たぬ幼女のAIアリスをまるでそこに居るみたいに手を回し、抱きかかえる様に座り直す。


 「えへへ」

 「なんでピュティは嬉しそうなんですか?」

 「アリスちゃん可愛いから、こうしてると可愛い妹が増えたみたいでちょっと嬉しいかなて」 

「・・・ふむ、可愛いならよしとしましょう」


 そんなピュティの言葉に気を良くしたのか、ぶっちょ面のことが多いAIの電子表情はわずかに和らいだ様な気がした。

 

 「でねいろいろ聞きたいこともまだまだあって」


 そう俺に向き直ってピュティは口を開く。


 「判ってますよ、聞きたいこと」

 「え?」

 「なんで《狂牛ミノタウロス》は自分を狙ったかでしょ?」

 「は、はい、なんでそれを」


 すでにお見通しとばかりにアリスは会話を開始し、ピュティはそれに乗っかる形でうなずく。


 「AIフィリアットの自白を信じるならば、ピュティの噂が広がり彼らの惑星大変革派カタストロフィノヴァの顔に泥を塗ったことが彼女らの沽券にかかわるといったとこですね」

 「・・・噂、やはりこんなことになるとわかれば無理にでも兵士たちに口止めを命令するべきでした・・・」


 無論ピュティも自らの噂については周知してるのだろうけど、人々を苦しめてきた竜を葬ったという噂の人物が現れれば、人々はその噂の真偽など気にせず飛びつく、どの時代のどんな人も結局のところ自分の信じたいものを信じる、おそらくそれは知能をもつ全てに当てはまるのかもしれない。


 「人の口に戸は立てれません、それよりピュティはもっと懸念すべきことがあります」

 「?」

 「こほん、では」 


 そういいアリスは視界にいくつもの人物の画像を表示し、ピュティにもその画像ウインドが見えたのか、空中に絵や文字を作る魔法の様な技術に感嘆と驚きが混じり、不思議そうに表示された画像に目をやる。

 表示されたいくつもの顔写真、いずれもピュティが知ってるいる面々で。


 「近衛騎士シュバリエや仕女さんのみなさんがどうかしたのですか?」


 そのいくつもの顔写真は普段身の回りの世話をしていたメイドたちや、今回馬車の護衛を勤めてた騎士たちも含まれていた。


 「主観で構いません、この中で弱みがあり貴女を裏切りそうな人は誰ですか?」

 「ふぇ?」

 「おいおい、いきなり乱暴すぎないか」


 はい、この人ですとは無論ピュティが言うわけもなく、ピュティの顔がわずかに動揺するのが俺でもわかった。


 「裏切るだなんてそんな・・・みなさんは私が、子供のころからよくして頂いてたお兄ちゃんやお姉ちゃんみたいな存在で」

 「では、絶対にいないと?」

 「はい!長く私に仕えた皆さんを信じてます!」


 アリスの懸念はもっともだった、今回王都までの護衛はカーティラの街を出る直前まで数箇所あるダミーのルートが用意され、そのうちのどれかの道を通るかは直前まで俺もピュティも知らず。

 そしてその後は逃走劇に発展したわけだ、ダミールートやダミー馬車などはあくまで人的な不測の事態に備えてとしてのことだった、だが結果としては魔竜ドラグーン狂牛ミノタウロスが正確に待ち伏せをし俺たちは飛竜リンドヴルムで応戦することになった。

 また敵AIがほのめかした情報からも、ピュティたち陣営の中の誰かが裏切り行為をする者の存在を示唆することになる。

 だが一方、千に一つもの可能性として狂牛ミノタウロスがたまたまあの場で遭遇し戦況の不利にでまかせの情報で俺らを攪乱してるだけの可能性もあることも捨てきれない。

 結局のとこ真実は逃亡した敵AIフィリアットしか判らない。


 「では、ピュティ、もう一度だけ表示してる全員の顔を見てください」

 「うん・・・」


 ピュティは促されるまま表示された全員の顔写真に一つ一つ目を通す。


 「よろしい、では再度聞きます、裏切りそうな人物はいないのですね?」

 「・・・はい、居ません」

 「なるほど・・・では、このお話はここまで、おそらく私の杞憂です忘れてください」

 「う、うん」


 もっと深堀するのかと思いきや、呆気なくその話題をアリスは切り上げる。

 どうやらそれはピュティも俺と同じことを考えてたのか、きょとんとしていた。


 

 「じゃ、じゃさ、俺もいいかな」

 「はいなんですか?アキラ」

 「その女王様に会わせて貰えるて話だけど、進展は?」

 「あ、はいその件ですね」


 当初の俺の目的である妹を探す、地下施設の情報が確かであれば、その手がかりをどうゆうわけだかこの国の女王が握っていた。

 正確にはこの国の女王の傍にいたAI《EXEエグゼ》の持つ特権で《中央電脳ブレイン》に情報開示を求め、正確な妹の現在地を得る、そのためにピュティのツテを頼らざるおえなかったのだ。


 「実は・・・使者を王宮へ出したのですが、指名の儀を控えてる間は誰とも会わないというのがいままでの通例らしく、王女とて例外はないとのこと」

 「ふむ・・・なるほどな」

 「ごめんなさいアキラ・・・すぐには力になれなくて・・・、でも指名の儀が終われば、必ず女王おかあさま会わせます!」

 「まぁ、気にするな、待つのは得意だからさ」


 申し訳なさそうに言うピュティを安心させるため俺はそう言う、5万年も寝てたんだいまさら数日ごときで俺は動じはしない、なによりちゃんと会えて妹の情報を得られるなら数日ロスしようとも惜しくはない。

 

 「ふむ、ではここまで、ピュティそろそろ戻った方がいいですよ」

 「え?」


 気が付けば屋敷が騒がしくなっていた、耳を済ませれば上の階でメイドたちの足音がバタバタと何かを探し始めている。

 

 「なんだ?」

 

 ん?上の階、つまり4階、ピュティが居た階・・・そしてかのピュティがいまここに居る、そしてそもそも何故ピュティは屋敷の壁を伝ってここまできたのか・・・。


 「ピュティお前・・・」

 「ナンノコトカナ~アキラ、アハハ」

 「何故目を逸らす・・・はぁ、またレズリーにキレられる前に戻っとけ」

 


 目を逸らしカタゴトになるピュティに溜息をしつつ、帰るよう促す、この自由気ままのお姫様に振り回されるレズリーやティファの心労が目に浮かぶ。

 ピュティは席を立ち首に巻きつけてるデバイスを外そうとするが 


 「ピュティ、それ持っててください、それがあればある程度離れててもマスターとも会話ができます」

 「ふぇ、いいの?アリスちゃん」

 「いいですよ」


 アリスから思いがけないプレゼントを貰い、顔に花が咲いたかの様に笑顔が浮かぶ。


 「ありがとうアリスちゃん、私も今度何かあげますよ!」

 「いえ、期待してないので結構です」


 そういい、ピュティはアリスの好意に甘え、首のデバイスを付けたまま来訪時の窓を開け、小さく詠唱し魔法で壁に足場をつくり上の階への道を再度作る。


 「えへへ、じゃアキラまた明日、おやすみなさい」

 「おう、おやすみ」


 嵐の様にシンデレラは石壁の階段を上る、念のため上の階の遠くの部屋の一室の窓から中へとよじ登ったのを見届けた。


 「・・・寝るか」

 「お~」 


 気づけばアリスは寝巻き姿の衣装に変わり、一体いつのアニメのセンスだか頭には寝るときにつけるあの謎の帽子まで被り、ウサギのパッチワークが入った枕を片手に俺の寝る意思に同調する、無論寝ることがないアリスにとってそれはAIジョークではあるわけだが、何気にそのピンクのパジャマ似合ってるなと内心思っていた。


 「あ、そうですマスター」

 「ん?なんだ」

 「これらの人物は警戒のため覚えといてください」

 

 視界のウィンドに表示されたのはさきほどピュティに問いた、ピュティ周辺の関係者名簿の写真だった。

 質問の時にピュティの付けてたデバイスから、心拍や視線の泳ぎから計算して人数を相当絞ったのだろうか、数名まで絞り込まれており、その中には見知った騎士たちやメイドの顔ぶれが並んでた。


 「やっぱりまだ疑ってたんだな、まぁしかし・・・これは・・・また・・・、なんだろ、人を疑うてのはいい気分はしないな・・・」

 「でも警戒は必要でしょ?じゃ私は衛星で《飛竜リンドヴルム》の修理に専念します」

 「あいよ」


 パジャマ姿の幼女はそのままブツリと映像を切り、AIの意識体を遥か上空で待機してる攻撃衛星に移動する、そんなさまに深い溜息をつき俺は床に付く。

 

 



 ---

 


 

 ―コンッコンッ


 「・・・ん?」


 まどろむ意識の海に不意にまた窓を叩く音、レム睡眠期に物音でアキラは目を覚ます。

 すでに深夜遅く、またピュティが来たのかとアキラが若干ウンザリしつつ窓枠に近づき開け放つが、当然こんな夜深くに来訪者居ず、わずかに冷えた夜の空気が窓へと流れ込む。

 

 「あれ?」


 まさかとは思ったが、幸いピュティとてそこまで非常識ではなく、念のため遠くにあるピュティの部屋側を見てもどこも灯りは付いておらず、アキラは自分が建物の軋み音を聞き間違えたのかとぼんやりした頭で、頭をボサボサと掻く。


 「なんだこれ?」


 このまま窓を閉めベットに戻ろうとしたアキラが不意に窓枠に封筒が貼られていることに気づき、それを剥がしおもむろに封を開け中に入っていた一枚の紙を取り出す。


 「?!」


 眠気まなこのアキラが封筒の中の紙に書かれた文字の違和感に気づき、一気に覚醒していく、慌てて窓を再度開き周囲を確認するが、封筒を貼った怪しい人物は無論見当たらず、それでも周囲を何度も確認をする。


 「一体誰が・・・?」


 アキラは思案する、アリスが衛星で集中し地上に居ないとき、電脳リソースの大半はアリスの作業に割くため、会話を除くエルフ文字の自動翻訳は切っていた、だからこそ気がついた。

 紙にはたった一文だけ翻訳されていない文字、それはアキラ程度の学力でも意味は判っていた。

 エルフ文字とは違う、人類文字。




 ― Who are you?(お前は誰だ?)




 それは人類時代最も使われた国際言語の英語で書かれた一枚の紙切れだった。


 

 

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