#2-8 スカーフェイス
「おしっ、これで最後か、やっと終わった」
王蟲の残骸塊の最後が虚空に消え、衛星への転送が完了し俺は一息つく。
《狂牛》との戦闘後、街道で投げ捨てた残骸塊を回収するため来た道を遡っていたのだ。
「アキラ殿、さきほどので最後でしょうか?」
「ああ、たぶんこれで最後だ、ここまで連れて来てくれて助かったぜ」
「いえいえとんでもない、アキラ殿の頑張りに比べればこれしき」
無論回収と言っても徒歩でいくわけではなく、こうしてティファの馬に乗せてもらって連れて来てもらったわけだ。
ピュティに関しては一緒に同行してくる気満々だったが、《飛竜》が先の《狂牛》との戦闘で大破し衛星で修理中の今、サブ搭乗者のピュティができることは何もなかったため、レズリーに引き渡した。
無論ピュティはそれに対して、未練たらたらでぐずる子供みたいに駄々をこねていたが、レズリーの懸命な羽交い絞めによりそのまま王都の本家屋敷まで強制連行されて行った。
(また今度フォローしとけばいいか)
恨めしそうにしてたピュティの顔がよぎる。
「よし、日も暮れてきたしそろそろ帰るか」
「・・・」
と俺が声をかけるもティファは心ここにあらずなのか、牛が暴れメチャクチャにされた街道を眺めていた。
「どうした?ティファ?」
「え、あいえ、少し考え事していました」
「ん?」
「私たちがあの状況で、生き延びたことが奇跡の様に思えて、もしアキラ殿が居なければ今頃私は・・・」
どうやらティファは騎士である自分が、ほとんど何もできなかったことに思うとこがある様だ。
「俺の故郷にはいい諺があってな、《終わりよければ全てよし》てね」
「ふふ、なるほどたしかに言えてます」
「それにティファが、ピュティたちを抱えて馬車移動してもらったおかげであの《狂牛》を騙すことができたわけだし」
実際ティファも作戦上頑張ってくれたおかげで二手に分かれることができたわけだ、魔竜と戦わずとも働きとしては十分であった。
「だからさ、ティファも胸を張っていいんだぜ、はは」
そう言って俺は胸を軽く叩くジェスチャーをティファに示す。
そんな俺に吊られて、苦笑しながらティファは自分の胸を叩く。
「ちなみ、今日はそれなりの働きをしたわけだから、晩飯が豪勢になることを期待してるぜ俺は」
「ふふ、そうですね後でレズリーに言っておきます」
暮れた日がやがて夜へと日が変わり、ティファは騎馬の鞍にぶら下っている石の装飾品に触れ、わずかに魔法の言葉を呟くと、石はたちまち青く輝く。
夜の帳が下り街道の両側の森で暗くなった俺たちを青い光が淡く周囲を照らす。
「では行きましょうか、アキラ殿お先にどうぞ」
「あぁ・・・」
お先にというのは先に馬に乗ってくれという意味だ、俺は渾身の力でしがみ付く様に足を引っかける様に乗ろうとするが。
「うぐっ・・・」
乗れない・・・。
いまさらながら馬に乗る知識がなく、テレビドラマみたく力任せで上ろうとしてもうまくいかずズリ落ちてしまう。
そんな四苦八苦してる俺をよそに、筋肉質でがっちりとした白い毛並みの馬は
ズリ落ちる俺の行動に不快の意を示してるのか、尻尾を鞭みたく振り回し、そんな白馬をティファは苦笑しながら宥める。
「アキラ殿、鐙を踏んでください」
「あ、そっか、なるほど」
馬に脚を乗っけるところをティファが指さし、乗る方法が根本的に間違えてたのに気恥ずかしさを感じてしまう。
行きの時はすでに乗っていたティファに引っ張られて乗ったが、今度はなんとか自力で馬に乗れて小さな達成感を俺の中で噛み締めた。
ティファも馬に乗り込もうとした時だった。
「ん?」
馬に乗り込む前に遠くから王都の方から馬の走る足音が聞こえてきた。
それはティファも気づいた様で、凝らしてもみると、いくつもの明かりが灯され、およそ数10頭ぐらいの馬が街道を走り、こちらへと近づいてくる。
「アキラ殿少しそのままで」
「え?お、おう」
やがてその馬の一団もこちらに気づいたのか、俺たちのとこへと近づいてきた。
騎馬は黒く、その手綱を引く者たちはみな異様に漆黒の鎧を纏う騎士の一団だった。
ティファは近づく黒騎士たちに懐に所持していた牌を見せた。
「白銀士か、こんなとこで何をしている?」
「我が主のドリアドネ殿下の遺失物を探してました、夜も更けてきたので切り上げて今から帰るとこだ」
「ふむ、そちらの耳無しは?」
「彼はドリアドネ殿下の食客です、手を借りて探し物の手伝いをして貰っていた」
「・・・」
まるで職務質問を受けてうかの様な錯覚を受ける、黒騎士の鎧兜の下から覗く鋭い眼光から目を逸らさない様当たり障りのないにこやかな表情を俺は作る。
「おい、貴様名は?」
「あ、アキラです、アハハ(汗)」
「・・・」
「へへ・・・(汗)」
「どこの出だ」
「え、あのえーと・・・」
「なんだ?答えられないのか?貴様こっちへこい」
しまった・・・怪しまれてる、この上なく怪しまれてる、てかどうしよう、細かいこの世界の個人の設定を特にまだ決めてなかったことに俺は後悔した。
そもそも曖昧な状態で受け入れてくれたピュティがおかしいのだ、普通なら来歴不明なやつは真っ先に怪しむわけだ。
「おい、待て、先ほどの話を聞いてなかったのか!」
そんな俺に助け舟を出したのはティファだった。
「彼は、ドリアドネ殿下の大事な食客だ、貴様の指図は受けない」
「そうは言うが、時期が時期だ、怪しいやつは取調べを受けてもらうのが決まりだ」
ティファと先頭で職務質問をしてる黒い騎士の間で険悪なムードが形成される、ヤバイ・・・どうしよう。
「よい、よい、そこまでにしておけ」
そんな険悪なムードを引き裂いたのは、黒騎士の後方の団からの声かけだった。
「で、ですが、この時期です、怪しい者は・・・」
「くどいっ!」
「はっ!」
言い合っていた黒騎士は喝を入れられすぐに引き下がり、後方の黒騎士の一団は道を空ける様にして、その人物は現れた。
その人物は周囲と違いより装飾が施された鎧を着、乗り込む馬も一回り大きい黒い軍馬が周囲を威圧する。
「久しぶりだな、ティファ・バロニクス」
「お久しぶりです、殿下」
「そちは相変わらず堅いのう」
その人物が何者かを察したティファは片足を地に付き、頭を下げ膝まづく、俺も降りて頭下げるべきかどうか困ったのだが。
「構わぬ、そちらも楽にせよ」
「はっ!」
「・・・!」
ふとその人物と俺は目が合ってしまった。
蒼い瞳と整った凛々しい顔、癖のある金髪を後ろに束ね、周囲を威圧する鎧がなければさぞかし美しいエルフの女性なのが判る、だがその美しさを全て否定する様な特徴が顔に刻まれていた。
顔の右半分を覆う火傷顔。
そのティファに殿下と呼ばれた女性は、顔の右半分が火傷の跡があり、見たら忘れることができないほどの威圧感を周囲に放っている。
「殿下、こんな夜にどこへ?」
その女性は俺との合わせた目線を外し、視線を声の主ティファに戻す。
「あぁ、牛の《魔竜》がどれだけ街道の被害を起こしたのか、警邏してたのだ」
「そう、でしたか・・・」
「しかし、なんとも無茶苦茶にしてくれたものだ」
「かの牛はドリアドネ様を執拗に追い回されまし、不本意ながらこの様な状態を・・・」
照らされるここまでの沿道、《狂牛》の巨体によって踏みにじられた無残な跡が至るとこに点在してた。
ちなみに仕方なかったとはいえ、一部痕跡は俺が投げつけた残骸塊やピュティの土魔法のが原因でもあるが、ここは全責任をあのAIフィリアットに擦り付けておこう。
「かの古き竜たちにとって、われらなど虫けらなのだろうのう」
「・・・」
女性は自らの黒く変色した火傷跡の顔を鋼籠手で撫で目を細め虚空の空を眺める。
「まぁよい、私はまだ見回っていく、そちらも戻るがよい」
「はっ!殿下もお気をつけください」
そう言ってその女性は後方に待機していた黒騎士たちに合図を送り、俺らを無視して移動していく。
そして俺が乗っている馬を女性は横切り最後に目が合った。
夜で暗かったから判り辛かったが、間近で見るその女性はピュティに似た蒼い宝石の様な瞳、だがピュティの蒼い宝石とは違い、かの女性の蒼い宝石はどこか濁っていた。
悲観、無常、厭世、諦観、かすかに見せるその濁りと目が合い、俺は言い知れぬ不安が内から湧き上がる。
「そちが、アキラだな」
「あ、はい・・・」
『愚妹が世話になったな』
---




