第6話 最弱への転落と呪いのコーヒーカップ
つかまり立ちという最強の機動力を手に入れた歓喜から一転、私は完全なる「最弱」へと転落した。
大火傷を負った私の体は、分厚い包帯でぐるぐる巻きにされ、まるでミイラのようになっていた。焼け付くような痛みが全身を支配し、ハイハイはおろか、寝返りを打つことすらままならない。圧倒的なレベルダウンである。
今回の私の愚行の代償は大きかった。熱湯を真っ向から浴びた上半身と両腕には、一生消えないケロイド状の痕が残ってしまったのだ。成熟した精神を持ちながら、赤ん坊の愚かな本能に敗北した結果がこれである。私はベッドの上で身動き一つ取れないまま、自業自得の代償として、その事実をただ静かに達観して受け入れていた。
レベルが初期値以下にまで落ち込み、痛みで力なく泣くことしかできない私に対し、母は不眠不休で付きっきりで看病をしてくれた。憔悴しきった顔で私を抱きしめ、優しく撫でてくれるその姿は、まるで無償の愛で無限の回復魔法をかけ続けてくれる「ヒーラー」のようだった。彼女の温もりに触れるたび、己の愚かさへの申し訳なさと、深い感謝の念が込み上げてきた。
一方で、大ダメージを受けていたのは私だけではなかった。父である。
娘の体に一生残る傷を負わせてしまったという凄まじい後悔と自責の念は、彼を「十字架を背負う騎士」へと変貌させていた。
聞くところによると、事故の後、父はすべての元凶であるあの「無骨な花柄のコーヒーカップ」を粉々に砕こうと、何度も床や壁に激しく投げつけたらしい。しかし、どういうわけか、そのカップは傷一つ付かず、全く割れなかったのだという。あまりにも理不尽でタフすぎる。
結局、割ることを諦めた父は、己の罪と自責の念を一生忘れないための「呪いの装備」として、仕方なく今でもその花柄のカップでコーヒーを飲み続けている。その不器用で哀愁漂う姿を想像すると、少しだけ可笑しくて、同時に胸がギュッと締め付けられた。
そして、我が家における最大の重要人物について語らねばならない。あの修羅場の中で唯一冷静に救急車を呼んだ、三歳の兄である。
そもそもは私が兄の回避行動を勘違いし、無理やり飛びついて引き起こした事故だ。それにもかかわらず、パニックに陥る大人たちを尻目に的確な行動で私の命を救った彼は、もはや「単なる出来のいい兄」という枠を完全に超越していた。彼は私にとって、絶対的な上位者であり、「命の恩人(真の勇者)」として確定したのである。
動けないミイラ状態のまま、私はベッドの上から我が家のパーティメンバーたちに思いを馳せた。
私の体には痛々しい痕が残ってしまった。だが、この強烈な事件を通してひとつの確かな真理に辿り着いた。我が家はなんだかんだで、不器用ながらも深い愛に溢れている。
……ただし、兄が一番優秀であるという絶対的序列だけは揺るがないが。
家族たちの温かい愛情と気配を感じながら、私は包帯の中で静かに、深い眠りへと落ちていった。
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