第25話 小さな画面の秘密
「知らない。どうやって作るの?」
無垢な疑問を浮かべて首を傾げた私に対し、ケイちゃんは少し得意げな表情で携帯電話のボタンをいくつか押し、その小さな液晶画面を私の目の前へと突き出した。
チカチカと光る数センチの枠の中に映し出されていたのは、薄暗い部屋の中で絡み合う、裸の大人たちの姿だった。
五歳の私には、画面の中の人間たちが何をしているのか全く理解できない。苦しんでいるようにも、何か奇妙な儀式をしているようにも見えた。しかし、それを操作するケイちゃんの真剣な横顔から、それが決して「ふざけた遊び」ではないことだけは幼いながらに感じ取っている。
「こうやってね、男の人と女の人がくっつくの」
ケイちゃんは小さな画面を見つめたまま、淡々と説明を始める。親元を離れた田舎町で私が初めて受けた、それはあまりにも唐突で、妙に生々しい「性教育」であった。
「男の人の精子と、女の人の卵子っていうのがくっつくと、お腹の中に赤ちゃんができるんだよ」
セイシ。ランシ。
ウルトラマンの図鑑に載っている怪獣の名前よりもずっと難しく、初めて耳にする言葉の響き。私は瞬きをするのも忘れ、小さな画面が放つ薄明かりと、ケイちゃんの口から紡がれる未知の知識を、ただ静かに浴び続けていた。生命が作られるというその仕組みは、当時の私にとって、魔法か何かのように不思議で圧倒的なものに思えたのだ。
さらに彼女は、少し声のトーンを落とし、大切な秘密を打ち明けるようにこう付け加えた。
「あたしね、もう『初潮』がきているの」
ショチョウ。またしても知らない言葉である。目を丸くする私に、彼女はそれが「赤ちゃんを産める準備ができたという体の合図」なのだと教えてくれた。
血が出るのだというその事実は、五歳の私にとっては痛い怪我を連想させる恐ろしいものに聞こえる。
しかし、それを語るケイちゃんの横顔には怯えなど微塵もなく、むしろ自分の身体の成長を受け入れた、静かな誇りのようなものが滲んでいた。
画面の中の絡み合う映像の意味も、卵子や精子という言葉の正確な定義も、当時の私にはまだ半分も理解できていなかったと思う。
しかし、自分の身体に起きている変化を静かに受け入れ、生命の誕生という世界の壮大な仕組みを教えてくれた隣の従姉が、ひどく遠く、そして途方もなく「凄い大人」に見えたことだけは鮮明に覚えている。
ついさっきまで一緒に画面を覗き込んで笑い合っていたはずの親しみやすいケイちゃん。彼女が今、命を創り出す準備を終えた完成された存在として、私の目に眩しいほど大きく映っていた。
その壮大で不思議な話を聞き終えた直後のことである。
ふと、自分の股のあたりに、今まで経験したことのない奇妙な違和感を覚えた。冷たいような、それでいてじんわりと温かいような、得体の知れない感覚。まるでお漏らしをしてしまったかのような焦りに駆られ、私はハッとして自分のズボンを見下ろす。
「ケイちゃん……なんか、変な感じがする。お漏らししちゃったかも」
怒られるかもしれないとおずおず打ち明けた私に対し、ケイちゃんは嫌な顔ひとつせず、ふわりと優しく微笑みかけてくれた。
「大丈夫だよ。あたしも、今同じだから」
彼女はそう言って、安心させるように私の頭を撫でてくれたのである。
それが初めて触れた大人の世界に対する身体的な興奮や、無意識の生理的な反応によるものだということなど、五歳の私が理解できるはずもない。しかし、「赤ちゃんが産める」という完成された大人であるケイちゃんと、今の自分が『同じ状態』になれたのだという事実が、私の心をひそかに満たしていく。
少しだけ背伸びをして、秘密の共有者として大人の階段を一段登れたような感覚。私は下半身の奇妙な違和感を抱えながらも、憧れのお姉さんと同じになれたことがどうしようもなく誇らしく、嬉しい気持ちで胸をいっぱいにしていた。
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