第21話 誰もいない一本道
母からの決定的な拒絶を受けたあの夜から、私はますます一人で過ごすことが多くなっていた。
保育園から帰ると、祖母に一声だけかけて外へ出る。静かな田舎町を、まるで自分の居場所を探すかのようにあてもなく徘徊するのが、5歳になっていた私の日常になっていた。
誰もいない公園のブランコに揺られ、静寂に包まれた神社で石段を上り下りし、小さな本屋さんの軒先を眺めてから家へ帰る。話し相手もなく、ただ風景だけが流れていく孤独な散歩道。それは、幼い心が自らを慰めるための、静かで侘しい儀式のようなものであった。
その日も、私は一人で家路についていた。
田んぼの横を抜ける、見晴らしの良い一本道を歩いていた時のことである。前から、一人の女性がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
艶やかな黒いロングヘアが美しい、セーラー服を着たお姉さんだった。
道幅はそれほど広くない。すれ違うために、私は道を譲ろうと右へ一歩避けた。
すると、お姉さんも私と同じように右へ避けたのである。
「あっ」と思い、今度は左へ避ける。すると、お姉さんもまた左へと動いた。
右、左、右、左。
まるでお互いの心を写し鏡にしているかのように、何度繰り返しても、二人揃って同じ方向へと動いてしまう。
田舎町の誰もいない静かな一本道で、私とお姉さんの奇妙なすれ違いのステップは、おそらく五分ほども繰り返されただろうか。
普通なら困惑するか、不気味に思うほどの異様な長さである。しかし、当時の私にとってそれは、久しぶりに味わう「誰かとの楽しいふれあい」であった。完全に孤立していた私の世界に、見知らぬお姉さんが真っ直ぐに付き合ってくれている。その事実がどうしようもなく嬉しくて、私の心は次第にポカポカと温まり、弾み始めていた。
すっかり楽しくなって、私はステップを踏みながらお姉さんの顔を覗き込んだ。
ふと視線が合う。お姉さんは、とても綺麗で、そしてひどく寂しそうな笑顔を浮かべて、私を見つめ返してくれた。
何も言わなくても、その微笑みだけで痛いほど伝わってくるものがある。彼女の瞳は、親元を離れ、誰からも必要とされていないように感じていた私の深い孤独を、静かに包み込み、寄り添ってくれているかのようだった。
「仁覚ちゃん……そんなところで一人で何やってるんだい?」
突然、後ろから声が響いた。
買い物からの帰りだろうか、少し離れたところから祖母が不思議そうに私を見ている。
「一人で行ったり来たりして、楽しいのかい?」
えっ、一人?
私はハッとして、すぐに視線を祖母からお姉さんのいた場所へと戻す。
しかし、そこには誰もいなかった。隠れる場所などどこにもない、見晴らしの良い真っ直ぐな一本道。それなのに、あの美しく寂しげなお姉さんの姿は、まるで春の陽炎のように跡形もなく消え去っていた。
「……ここに、お姉さんいたよね?」
呆然としながら祖母に尋ねる。しかし祖母は首を傾げ、私がたった一人で、道の真ん中を右へ行ったり左へ行ったりしているところしか見ていないと答えた。
祖母の目には見えていない存在が、私には見えていた。
初めて「他人が見えていない人がいる」という事実に気づいた瞬間だった。しかし、不思議とそこに恐怖や不気味さは微塵もない。
あの美しい人が何者だったのか、幽霊だったのか幻だったのかは分からない。ただ、あの誰もいない一本道で私とステップを踏み、寂しそうな笑顔を向けてくれたあの時間が、カラカラに乾ききっていた私の心を少しだけ温かく満たしてくれたのだという、静かな救いの余韻だけが残されていた。
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