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第9話 副業×呪いの人形(7)

前回の続きです。

―――日向町 桃山寺―――


和馬の店から北に向かって車で30分の場所に桃山寺はあった。

昔からある由緒正しい寺であり、人形やぬいぐるみの供養をしている。

到着した和馬は驚いた。


高校生の頃に来た時と比べて、かなり様変わりしていたからだ。

当時は地味な寺があるのみで、他は砂利の駐車場で近所の高齢者が焼団子や漬物を売る店がある程度だった。


それが今、寺の駐車場はコンクリートで固められ、駐車スペースもきちんと確保されている上に、焼団子や漬物の代わりに和モダン風の人形カフェが建てられている。


寺の山門の周りには、紫陽花が植えられており、開花の時期には色鮮やかな花を楽しむことができる。山門を通ると、参道がまっすぐ本堂に続いており、参道脇には、まだ紅葉前のもみじが風に揺れている。


寺務所には、色鮮やかで可愛い人形守りと期間限定の御朱印、桃山寺限定の御朱印帳、御朱印帳収納袋、簡易供養セットなど、様々なものが売られていた。


「ママ!見て!めっちゃ可愛い!このお守り欲しい!」

「ママも見たい!」

春子とあかねは寺務所に向かって走っていった。


「おいおい!2人とも!遊び出来たんじゃないぞ!」

係長は妻と娘を追いかけた。


和馬は親子のやり取りを見ながら、ふと、寺務所の脇にある催事の看板を見た。

人形に関連した催事を開催している。

“9月20日 人形供養ナイト~大切な人形とのお別れ会~(事前予約)”

“9月20日~10月31日 人形の記憶展~桃山寺ナイトツアー~”


「こりゃ、やってんなぁ。」

和馬は思わずつぶやいた。


「板橋。」

後ろから声をかけられ、振り向くと日本人形のような黒髪おかっぱ頭で淡いライラック色の着物を着た綺麗な女が立っていた。


「雛子。久しぶりだな。」

「久しぶりに来たかと思ったら、大層な厄介ごとを持ってきたな。」

雛子はキッと和馬を睨む。

「申し訳ない。でも、今回は本気でやばいやつだ。力を貸してほしい。」


「和馬君、おまたせ!」

人形がプリントされた買い物袋をさげた楠家が戻ってきた。

「お姉さんめっちゃきれい!」

「お人形さんみたいね!」

春子とあかねは雛子にキラキラした目で見つめた。


(やなぎ) 雛子(ひなこ)。この人形寺の娘で高校の同級生。こっちは、楠一家。」

和馬はそれぞれの紹介をした。

「はじめまして!楠あかね、16歳です!」

「楠春子、43歳です!」

「楠隆二、45歳です。」

楠家は各自、しっかり自己紹介をした。


「…面白い家族だな。詳しく話を聞こう。」

雛子は和馬と楠家を連れ、本堂へ向かった。



「随分様変わりしたな。がっつりコンサル入れてるだろ。」

本堂に行く道すがら、和馬は周りを見渡しながら話した。

「檀家が少なくなっている昨今は、どこの寺も神社もコンサルを入れている。」

「葬儀も法要も簡素化されていってるしな。」

「かといって、商売っ気が出過ぎてしまうと、残っている檀家から反感を買ってしまう。あくまでも人形供養の文化や信仰を新たな世代に再構築する目的でやっていることだ。コンサルを入れている側も結構悩みながらやっているんだ。」


一行は本堂の入り口から中に入り、長く続く廊下の先にあるきれいな和室に通された。

「おじさんとおばさんは?」

座布団に座りながら和馬は雛子に尋ねた。

「呪いの人形展に出かけている。明日帰ってくる予定だ。」

「相変わらず、人形好きだな。」

「お寺の中に入るの初めて!」

あかねはきょろきょろと辺りを見渡しながら楽しそうに話す。



5人が座ると、襖がすっと開いて、赤い着物を着た50㎝程の大きさのおかっぱ頭の日本人形が入ってきた。

手には緑茶が入った5人分の湯飲みがのったお盆を持っている。

「からくり人形?かわいい!」

あかねはスマホで動画を撮り出した。


人形は、一つ一つ、ゆっくり湯飲みをテーブルに置くとぺこりとお辞儀をして部屋から出ていった。

「あんなに細かい動きができるなんて、昔の技術ってすごいのね!」

春子は感心した表情で人形を見送った。


「あれはからくり人形じゃない。魂が宿って勝手に動いているだけだ。」

雛子は人形が持ってきたお茶を飲みながら話した。


「「「…え?」」」

楠家の3人は、一斉に雛子を見た。


「怖がることはない。あの子は君たち家族を歓迎しているんだ。きっと前の持ち主もお客さんに対して同じように対応していたんだろう。」

「襲ってくることはないのか?」

係長はぞっとした表情をして雛子に聞いた。


「全くない。」

「怖くないのか?」

「怖くない。それに、あの子の淹れるお茶は絶品だ。」

「確かに。」

あかねは出されたお茶を飲みながら言った。


「魂の宿った人形は愛情をかけてもらった持ち主との記憶を頼りに生きている。勝手に動いたりするのも、大好きな持ち主の姿を探しているだけだ。人に害がなければ、そのままにしておいてもいいが、寂しい気持ちが募っていくと、悪霊になってしまう可能性もあるからな。様子をみて供養している。」


「なんか切ないね。」

あかねは寂しそうな顔をする。

「人も人形も寂しい気持ちがあるのは変わらない。それより、そっちの話を聞かせてくれ。」


係長と和馬はこれまでの経緯を説明した。

和馬は人形に破られた袋をカバンの中から出して、テーブルに載せる。


「これは予想以上にやばいのと関わっているな、板橋。」

雛子は出された袋をじっと見ながら声を低くして話した。

「人形と話そうとしたけど、全くダメだった。それに、あいつは悪意に満ちていて、息が詰まりそうな感じがした。」

「これは呪いの人形で間違いない。誰かが君たち家族を呪い殺そうとしている。」

「呪い!?」

係長は思わず声を出した。


「心当たりはあるか?」

「いや…ない…ただ、警察なんて職業をやっていると誰かから恨みを買うこともある。」

「呪いの人形と悪霊が憑いた人形って何が違うの?」

あかねは雛子に尋ねた。


「呪いの人形は呪いをかけようとする者の儀式によって生まれる。呪う相手を不幸にさせるまで執念深く追い続ける。一方で悪霊が憑いた人形はもともと存在する悪霊が勝手に人形に取り憑いている状態だ。悪霊の性格によって気まぐれに人を不幸にさせたり、助けたりする。」

「だからあの人形は俺には目もくれずに楠家に戻ったのか。」

「ただの人形を呪いの人形にできるってことは、霊能者とか和馬君みたいな祓い屋とかが関わっているってこと?」

あかねはさらに雛子に尋ねた。

「そうとも限らない。今は情報社会の時代だ、ネットで調べれば本物の呪いもすぐに知ることができる。あとは呪う相手に対しての強い怒りと憎しみがあれば、一般人でも呪いの人形を作れてしまう。」


「パパ、何したの?」

春子は係長を非難の目で見つめた。

「いやいや、パパじゃないかもしれないだろ!ママやあかねの可能性もあるじゃないか!」

「いや、それはないと思う。」

和馬は冷静に否定した。

「俺が最初に警察署でパパさんを見た時、肩から背中にかけて黒い影がこびりついていた。でも、ママさんとあかねちゃんにはそれがなかった。つまり、呪われているのは、パパさんだ。」

「くっ…俺かよ!!!」

「「うわー。」」

春子とあかねは白い目で係長を見つめた。


「警察組織に対しての不満程度では、ここまで強い呪いにはならない。おそらく個人的な恨みがあるのかもしれない。」

雛子は冷静に話した。

「本気で身に覚えがない…どうしたら助かるんだ?俺を恨む奴を捕まえないと無理なのか?」

「人形の呪いを解けば大丈夫だ。」

「できるのか!?」

「準備が整えば大丈夫だ。おそらく、今夜も楠家に現れるだろう。そこで呪いを解く。」

「でも、パパを恨んでいる人がわからないと、また呪われちゃうんじゃない?」

ほっとした表情をみせた係長の横であかねはなおも雛子に尋ね、係長はぞっとした顔をする。


「その可能性もあるが、恨んでる相手もただでは済んでいないだろうから、すぐにまた呪うということは難しいだろうな。」

「どういうこと?」

「呪いは、呪いをかけた奴に跳ね返ってくるんだ。そこは対価交換って感じかな。あんなに強い呪いをかけたから、そいつの命も危ないと思うぜ。」

和馬はお茶をすすりながら話した。

「自ら業を造り、自らその報いを得る。」

雛子はそう言うと、立ち上がり、部屋から出て行った。


少しして戻ってきた雛子は平らな木箱を持っていた。

テーブルに木箱を置くと、中には筆や炭、お札、色鮮やかなお守り袋が4つ入っている。


「呪いをかけた奴は一旦置いておくとして、まずは作戦会議と準備をする。題して、パパの呪いを解こう作戦だ。」

「ネーミングセンス…。」

雛子の独特の作戦名に静かに突っ込みを入れつつ、和馬も気を引き締めた。


読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いします。

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