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第8話 副業×呪いの人形(6)

前回の続きです。

―――楠家―――


コンコン…。


コンコン…。


「ねえ、開けて。」

あかねの声だったり、春子の声だったり、代わる代わる声を変えて窓を開けさせようとする。


コンコン…。


「大丈夫だ…無視して開けなければここに入って来られない。」

係長は小声で家族に話す。

親子は部屋の隅っこに隠れていた。

あかねは声が聞こえないよう手で耳を覆っている。


しばらくして、窓をノックする音はなくなった。

「諦めたか…?」


寝室に静寂が戻る。

それが妙に不気味だった。

心臓の音が耳に響いている。



バンバンバンバン!!!


「うわぁぁ!!!」

「「きゃーーー!!!」」

さっきまでのノックとは違い、窓を強く叩く音が寝室に響く。


驚いた3人は急いで寝室を出て階段で1階に向かった。


「パパ!なんとかして!!」

「外に逃げましょう!早く!」

「待て!家の中にいれば安全だ!」


和馬が来るまでの間、とりあえず1階の廊下で3人は籠城することにした。


春子は玄関の靴箱の中から玄関用ほうきを取り出すと、両手で構え、係長もシャワーサンダルを取り出すと両手に構える。

「そんなので倒せるの?」

あかねは両親の行動に疑問を呈した。

「ないよりはマシよ!」

春子はほうきを構え、周りを警戒しながら答えた。


「にゃっ」

トコトコトコと早歩きでふうさんがやってきた。

「ふうさん!無事でよかった!」

あかねはふうさんを抱き上げた。


2階の窓を叩く音はしなくなり、再び静寂に包まれた。

係長の心臓は今にも体から飛び出そうな程、鼓動が早くなっている。

闇が迫ってくるような圧迫感が3人と1匹を襲ってくる―――



――――――


和馬は年季の入ったママチャリを爆走させ、10分程で楠家に到着した。

静かな住宅街には物音ひとつしない。


カバンから懐中電灯を取り出し、楠家の周りを確認した。

庭と1階部分には異常はなく、次に2階を懐中電灯で照らす。

2階南側の窓の1つが黒ずんで汚れている。


おそらくあそこに人形がいたのだろう。

中に入ろうと必死になっているようだ。

いずれ中に入られてしまう。


―――なぜそこまでこの家族に執着するのか?


とにかく今は、楠家の避難が最優先だ。


――――――


変わらず3人と1匹は1階で籠城している。


ピンポーン!!


「うわぁぁ!!!」

「「きゃーーー!!!」」


突然、インターフォンが鳴り、3人は悲鳴を上げた。


「おーい!大丈夫か!?」

玄関の外から和馬の声が聞こえた。


それでも3人は本当に和馬なのかという疑念を捨てられない。

「あ…合言葉を言え!」

係長は怯えた声で話す。

「…決めてないだろ。」

「くっ!!そうだった…!!」

「じゃぁ、私たち家族と和馬くんでしか知らないことを教えて!」

春子は思いついたとばかりに話す。

「えーっと…いや、知り合って数時間じゃ、わからんって!!」

「電話すればいいじゃん…。」

あかねは冷静に突っ込む。

「そ…それがあった!!」

係長はパジャマのポケットからスマホを取り出すと、和馬に電話をかけた。


無事に本人確認が終わった和馬は、家に入ることができた。


「家の外を確認したが人形はいなかった。でも2階南側の窓が1つ黒ずんで汚れている。そこから入ろうとしたんだろう。」

「寝室だ。寝室の窓から声をかけてきて…しまいには窓を壊す勢いで叩いてきた。」

「人形が中に入ってくるまでは時間の問題かもしれない。朝までうちの店に避難しよう。」

和馬に言われ、楠家はバタバタと避難の準備を始めた。


「あ!スマホ忘れた!」

いざ、避難するというタイミングであかねは大事なことを思い出す。

「スマホなんかいいだろ!早く逃げるぞ!」

「パパ、あたし女子高生だよ!?スマホないと生きていけない!!」

そう言って、あかねは2階の自室に向かった。

「待ちなさい、あかね!」

係長はあかねを追いかけて階段をのぼった。

2階に着いたところで、自室からスマホを持って走ってきたあかねに出くわす。

「パパ行くよ!!」

そう言い放ち、あかねは階段を駆け下りていく。

「早いな…。待ちなさい…!」

係長は同じく階段を降りようとしたところ、背後から視線を感じ、振り向いた。


「っ!!!!!」

声にならない悲鳴を上げ、係長は腰を抜かす。


廊下の出窓に黒カビに覆い尽くされた真っ黒な顔の人形が鋭い歯を見せながらニヤッと笑ってこちらを覗いていた。


ガン!ガン!


人形は勢いよく顔を窓ガラス叩きつける。


ガン!

ミシッ…


ガン!!

ミシッ!!!


窓に亀裂が入り、段々亀裂が広がっていく。


ガン!ガン!ガン!


なおも人形は笑いながら窓に顔を叩きつける。


係長は腰が抜けてしまい、立ち上がることができない。


すると肩に重いものが乗る感覚があった。

「シャァァァァァァァァ!!!」

ふうさんが係長の肩に乗り、人形に向かって威嚇した。


人形はふうさんをみると急いでどこかに逃げて行った。


人形が去った後も窓を見つめたまま固まっていた係長の顔をふうさんが手を優しくちょんちょんと触る。


「…ふうさん…ありがとう…助かった…。」

係長は肩に乗っているふうさんを抱きしめた。

ふうさんは喉を鳴らして満足そうな表情をした。


「おい!いくぞ!」

和馬が階段下から声をかけた。


楠家の車にとりあえずの荷物を積み込むと楠家の3人と1匹は和馬の店に向かった。




―――月の草 2F―――



「ドアと窓にパロサントと塩を混ぜたものを撒いてきたから、とりあえずは安心だ。」

それを聞いた楠家の3人は安心した表情になった。


和馬はソファに座っている楠家にハーブティを淹れる。

係長は膝にふうさんを抱え、淹れたてのハーブティをゆっくり飲み込み、ほっとした表情を見せた。

春子とあかねもハーブティの香りを楽しみながら、味わっている。


「あの人形に憑いているのは悪霊だ。最初から悪霊だったのか、どうかは分からない。でも人形自体がかなりの年代物だから最初に憑いていた霊がこの世の未練や執念によって悪霊に変わった可能性が高い。」


「いや、むしろもっと(たち)の悪いやつかもしれない。」

和馬はマグカップに入ったハーブティを見つめていた。


「どういう意味だ?」

「あいつから感じるオーラというか、空気感というのが、今まで関わってきた霊とはまるで違う。この世に未練や執着のある悪霊からは悲しみや怒りを感じるのに、あいつからは喜びを感じた。」

「それって…」

「人を苦しめることを喜んでいるようだった。こうなると、対話で交渉する手法は意味がない。」

「じゃぁ、どうするんだ?」

「知り合いに日向町(ひなたまち)で人形寺をやってる奴がいる。明日そこに行って、協力してもらえるか聞いてみる。」

「その人形寺ってこれ?」

あかねはスマホの画面を和馬に見せた。

そこには、“人形供養センター! 桃山寺”と書かれたホームページが表示されていた。


「そこだ。…いつの間にホームページなんてやってたんだ?」

「インスタもやってるみたいだよ。ほら。」

あかねはインスタの画面を和馬に見せた。


「ここの人形寺って最近綺麗になって、人気らしいよ!お守りも可愛くて、人形型のおみくじとか!御朱印長とかもきれいだし!中に人形カフェもできたみたいで、そこの抹茶ラテがめっちゃ美味しいって友達が言ってた!あたしも明日行きたい!」

「あかね、遊びじゃないぞ。」

「そうよ、あかね。ママも行くわ。」

「ママ!観光じゃないんだって!」


なんか調子狂うな、この家族。

和馬は親子のやりとりを眺めながらハーブティをすすった。


「まぁ、全員で行ってもいいと思うぞ。」

和馬の言葉に春子とあかねは目をキラキラさせる。


「ただし、会うのは血も涙もない女だけどな。」


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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