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第6話 副業×呪いの人形(4)

前回の続きです。

助けてほしい。

そう話す係長の目は恐怖と混乱が混ざり合っていた。

係長の肩にまとわりついていた黒い靄は、首まで這い上がっている。


まずい状況だ。


「わかった。まずは店の中に入ってくれ。」

和馬は店のドアを開け、声をかけたが、係長はその場で立ち尽くしたまま、店に一歩も入ろうとしない。目は先程とは違い、虚ろな目をしている。


「ソコニハ ハイラナイ」


明らかに係長の声ではない。

一気に周りの空気が重くなり、和馬は息苦しさを感じた。

心臓がドクドクと耳の中でこだまする。


係長はしばらく立ち尽くしていたが、ゆっくりと踵を返し、立ち去ろうとする。


その瞬間、和馬は急いで店の中に戻り、レジの下から10㎝程度の桐の箱を手にした。

店の外に出ると、係長はまだ店の敷地内にいた。


「おい!」

和馬が声をかけると、係長はこちらを振り返る。

その瞬間、和馬は手にしていた桐の箱を開け、中に入っていた白い粉を係長に吹きかけた。


白い粉のついた係長の顔や体から黒い煙が立ち上がる。

「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

断末魔の叫びを上げながら係長は顔を手で覆い隠し、その場に倒れこむ。


係長の肩から背中に憑いていた靄は拳大程の大きさまで小さくなっている。

和馬は、憑いていたものが弱っているうちに、急いで倒れこんだ係長を起こし、肩を貸して店の中に戻った。


店に入ると同時に残っていた靄は煙のように消えてしまった。

係長の意識はまだ朦朧としている。


とりあえずレジに置いてある椅子に座らせた。

辛うじて目を開けていた係長だったが、やがて眠ってしまった。


――――――


1時間程してようやく係長は目を覚ました。


「目が覚めたか?」

和馬は店の中心にある机でハーブを調合している。

「ここは?」

係長はきょろきょろと店内を見渡した。

「俺の店だよ。覚えてるか?」

和馬はハーブを調合しながら答えた。


「店?そうだ、署で君の住所を聞いて、訪ねて…。君と少し話したのは覚えているが、その先はなんとなくぼんやりしていて思い出せない。」


「あんたに取り憑いているものが意識を乗っ取っていた。相当ヤバいのに狙われているみたいだな。」


「取り憑かれている…。急に顔が熱くなった気がしたが、それもそいつがやったのか?」


「すまん、あれは俺がやった。急を要する状況だったもんで。あれはパロサントの灰だ。」

「パロサント…?」

「聖なる木という意味で昔から南米で魔除けや浄化を目的として重宝されている。燃やした煙以外に灰にも同じような効果がある。いつもは依頼を受けた現場を浄化する目的で使っていたが、直接悪霊に使ったのは初めてだ。目くらまし程度になればと思ってダメ元で使ってみたが、かなりの効果があった。」


和馬は調合したハーブをティーポットに入れ、お湯を注ぐ。


「ありがとう。おかげで助かったよ。心なしか体の調子も良い気がする。」


「気のせいじゃないぜ。この店には変なのが入らないように結界を張っている。あんたにへばり付いていた奴ももう消えている。だから体の調子が良くなったんだ。」

そう言いながら、ハーブティをカップに注ぐと、係長に渡した。


「ジャスミンをベースにミントやレモンバームを入れてすっきりする感じで調合してみた。苦手なら残していい。」

渡されたハーブティは爽やかな香りがして、飲むと頭が冴える感じがした。


「じゃぁ、もうこれで解決したってことか?」

「いや、あんたに憑いていたのは、本体じゃない。たぶん本体はあんたの家に入り込んでいるんだろう。」

「本体が我が家に?どういうことだ?家族はどうなる!?」

「俺が助ける。」

「除霊してくれるのか?」

「俺は、除霊できない。」

「え?」

「俺ができるのは霊と話をして納得させて、成仏してもらうことだけだ。逆を言うと、対話ができない相手には通用しない。除霊はできないけど、パロサントやローズマリーとかあるものでなんとかその場を浄化することはできる。」

「霊が見える人はみんな何かしら技を使って除霊できると思ってた。つまり、君は霊と対話だけはできるけど、除霊という技は使えないから、既製品でなんとかその場を乗り越えているという感じか?」

「そんなところだ。」

「じゃぁ、今回の悪霊が対話できないやつだったら、どうするんだ?」

「人形に詳しい知り合いがいる。万が一、そうだった場合は、そいつに頼ってみるよ。心配するな、これまで副業としてやってきた中で対話できなかったのは少数だけだ。まずは、あんたの家で起こっていることを全部話してくれ。」


ハーブティを飲みながら、係長は昨日の夜の出来事を話した。

浴室の出来事、寝室で首を絞められたこと、人形が怪しいと思っていること。


「その人形はどこで手に入れたものなんだ?」

「それが、誰も覚えてないんだ。気付いたら家に飾られていて、特に気にも留めていなかった。」

「人形があると気づいたのはいつ頃?」

「うーん…たぶん、7月頃…?」

「体のだるさが出たのは?」

「それも7月頃だったと思う。悪夢にうなされるようになったのもその頃からだ。」

「十中八九、その人形が怪しいな。人形に入っていた悪霊の一部があんたの体に取り憑いていたから、悪夢をみたり、体がだるかったりしたんだ。そもそも人の形をしている物に悪霊は憑きやすい。話を聞くにそいつは年代物の人形だ。古い人形は前の持ち主の念がこもっていることも多い。早速あんたの家に行って、人形を見たい。」


ピロン♪

係長のスマホの通知音が鳴る。


「娘からだ。――っ!!」

スマホの画面を見て、係長は小さく悲鳴を上げた。


「どうした?」

「うちは家族みんなで猫のふうさんを溺愛していて、日中はリビングに設置しているペットカメラで様子を見たりしている。特に娘は、ふうさんの写真や動画をインスタに載せていて、頻繁にペットカメラでふうさんの様子を見ては、面白い動画が撮れたら、それもインスタに載せている。今、その…娘から送られてきたペットカメラの動画に…」

怯えながら係長はスマホの画面を和馬に見せる。


そこにはソファ付近で人形がゆっくり歩く様子が写されていた。


「怖すぎる…と…とにかく、ふうさんを助けに行かないと!」

係長は顔面蒼白になって震えながら話す。

「早速、家に行ってみよう。どうするかはそれからだ。」



―――楠家―――


「頼む。先に開けてくれ…。」

怯えた係長は自宅の玄関を開けることもできず、和馬に開けさせた。


和馬が玄関を開けると、中は不気味なほどに静まり返っている。

しばらく様子をうかがっていると、リビングからトコトコとシルバータビー色の猫が速足でやってきた。


「ニャァア!」

和馬を見るなり、挨拶をするように鳴くと、ふうさんは和馬の足にすり寄った。

「ふうさん!無事だったか!」

和馬の後ろから顔を覗かせた係長は愛猫の無事を喜んでいた。


「さて、人形を探すか。」

和馬はリビングの方を睨みながら話す。

家の中から悪霊のいる気配は感じられないが、気配を消している可能性も高い。

いつどこから襲ってくるかもわからないため、油断はできない。

ただならぬ雰囲気の中、係長はふうさんを抱き上げ、守りの体制に入る。

和馬は生唾を飲み込み、静かに靴を脱いで、家に上がろうと足を延ばした。


ガチャッ!


「うわぁぁぁ!!!」

突然玄関が勢いよく開き、驚いた係長が大声を上げた。

「ふうさん!!大丈夫!?」

玄関を開けたのは、春子だった。

「パパいたの!?」

「ママ!!いきなり玄関を開けるなよ!!!心臓止まるかと思ったぞ!!」

ふうさんも係長に抱かれながら、驚いた表情で尻尾を膨らませ、パタパタと激しく揺らしている。

「ドアはいきなり開くものでしょ!あの動画を見て、ふうさんが心配で早退させてもらったの!無事でよかったわぁ!…で、どちら様かしら?」


春子は安心すると同時に和馬に目をやった。


「板橋和馬さん、この手の専門家で人形のことで来てくれたんだ。あ、こっちは妻の春子。」

「まぁ、わざわざありがとうございます。妻の春子です。」

「どうも、初めまして。」

「あの人形、何者なの?なんで動いているの?」

和馬は春子に人形のことやこれまで係長が人形のせいで不調だったこと、今朝の様子も説明した。

「パパ…気付いてあげられなくてごめんなさい。」

春子は申し訳なさそうに話す。

「いいんだ。彼のところで悪いものを取ってもらったんだよ。今はもう大丈夫だ。」

「なら良かった。言われてみれば、顔色も良くなっていて、目の下のクマも取れているわ。」

春子はほっとした顔をした。

受け入れの早い奥さんだな…と和馬は思った。

まぁ、あんな動画を見せられたら、誰でも信じるだろう。


「まだ解決はしていない。俺は一時的に悪霊を引き離しただけだ。本体が入っている可能性のある問題の人形を探して確認しないと。」

和馬は再びリビングの方を睨みながら、ゆっくり家の中に上がろうと足を延ばした。


ガチャッ!


「うわぁぁぁ!!!」

再び、玄関が勢いよく開き、驚いた係長が大声を上げた。


「ふうさん!!!」


今度はあかねが勢いよく玄関に入ってきた。

「あ…あかね!?いきなりドアを開けるなよ!!」

「パパ?ママ?なんでここにいるの?ってか、いきなり開かないドアってなに?あと、この人誰?」

「板橋和馬さん。あの人形のことで、パパを助けてくれてるのよ。和馬さん、こちら娘のあかね。」

春子は和馬をあかねに紹介した。

「はじめましてー。パパがお世話になってます。」

「あぁ、どうも。」

「それより、学校はどうしたんだ!?」

「仮病で早退してきました!」

あかねはドヤ顔で答えた。

「もう、あかねったら!」

「それより、あの人形やばくない!?動いてたじゃん!」


なんか調子狂うな、この家族。

和馬は春子や係長にした説明をあかねにも繰り返した。


気を取り直して、家に上がって、リビングに向かった和馬はあたりを見渡した。

人形はリビングや横のダイニングキッチンにはいない。

春子とあかねも一緒に人形を探していた。


「おーい、見つかったか?」

係長は玄関で靴を履いたまま、ふうさんを抱っこしていつでも逃げられるように待機している。


「和馬さん!いたー!人形いたよ!」

あかねは2階から和馬を呼んだ。

慌てて和馬と春子が向かうと、2階廊下の出窓に何事もなかったかのように座っている。


和馬は人形を持ち上げて確認するも、悪霊の気配は全く感じられなかった。

「ここで除霊するの?」

あかねは和馬に尋ねた。

「いや、俺は除霊できない。霊と話をして交渉したり、気持ちを受け止めたりして成仏できるようにしている。」

「カウンセラーさんみたいね。」

「逆に対話ができない霊では俺の手法は使えない。それに、悪霊の気配も感じられない。」

「この人形には何も憑いていないってこと?」

「いや、そうとも限らない。力のある悪霊は自分の気配も消せるからな。他に悪霊の拠り所になるものがあれば、そっちに映る可能性もある。一応、家の中を確認させてもらう。あと、この人形、預からせてもらうぜ。」

そう言って、和馬はリュックから黒い布の袋を取り出し、人形をその中に入れた。

「その袋は?」

「俺の知り合いが作った呪いの人形回収袋だ。内側に御札が縫い付けてある。」

「和馬さんってプロなんだね。」

「いや、これは副業だ。」

リュックに黒い袋をしまった和馬は代わりに乾燥させたローズマリー、パロサント、パロサントの灰が入った袋を取り出した。


「手伝ってくれ。あかねちゃんだったね、ローズマリーを家の窓や外に通じるドアに吊るしてほしい。」

「らじゃ!」

あかねは和馬からローズマリーを受け取って、1階に向かった。


「ママさんは、パロサントに火をつけて煙が出たら、家の中の廊下と部屋をまわって煙を充満させてほしい。俺はパロサントの灰を撒いていく。少ししたら、窓を開けて、掃除機で灰を吸う。」

「わかったわ!」

春子はパロサントを受け取ると1階に向かった。


「パパは?パパは何したらいい?」

玄関から怯えた声で係長は声をかけてきた。

「パパさんは何もしなくていい。そこにいてふうさんを守ってくれ。」

和馬は1階に向かい、カバンを玄関に置くと、パロサントの灰を撒きだした。


楠家の浄化は2時間近くかかった。

「家の中で悪霊の拠り所になるところがないか確認したけど、特に見つからなかった。浄化も念入りにしたし、一応安全だ。」

和馬は家の中を見渡しながら話す。

「よかった。これでパパも安心して眠れるわね。」

「ありがとう、助かったよ。」

係長はほっとした表情でお礼を言った。

「いや、まだ解決はしていない。本体が出てきてないからな。俺は帰って、この人形を調べてみる。念のため、今夜窓は開けないように。何かあれば、ここに連絡してほしい。」

そう言って、和馬は店のカードを渡した。


「ハーブティ専門店?和馬さんの本業?」

「まぁ、素敵!ハーブティ好きなのよ!今度お邪魔するわね!」

「ぜひ来てください。ご要望に合わせて調合もさせてもらってます。」

「え、あたしも調合してほしい!」


あかねと春子にハーブティの説明も一通りした後、和馬は楠家を後にした。



―――月の草―――


「さて、ゆっくり話そうじゃないか。」

店舗の中にある机に置いた人形の入った袋に向かって和馬は話しかけた。

相変わらず、人形から悪霊の気配はない。


長期戦になりそうだ。



ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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