第36話 副業×廃旅館(23)
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
前回の続きです。今回は短めです。
ユユイノミコトが和馬に気を取られている間、係長と林巡査部長、薮下巡査は倒れている裕也に近づく。
「とにかく森の方に運ぶぞ。」
3人は裕也の体を持ち上げると、ゆっくりその場から離れていく。
「我が…寂しい…」
シャン…
「我が…悲しいだと…!」
風が一層強く吹き荒れ、朽ちた木が音を立てて揺れる。
次の瞬間、雷鳴にも勝る程の大きな音が轟き、朽ちた大木が幹から折れ、3人に向かって落下する。
「危ない!!」
林巡査部長は咄嗟に裕也を抱えている係長と薮下巡査を思いっきり押した。
直後に林巡査部長を大木が直撃する。
「林君!!」
「林さん!!」
「我は悲しくない…!寂しくない…!我は…!」
シャン…
鈴の音と共にユユイノミコトの目の前にいつか見た光景が広がる。
人の気配。
神楽鈴。
クロモジの香り。
神前の艶やかな柿やリンゴ、採れたての野菜、新米、御神酒。
我のためにこんなにたくさん…。
シャン…
神楽を舞う年老いた神主と若い巫女。
全ての儀式が終了し、神主と巫女は帰り支度をして山を下りていく。
神主の男も随分と老いたものよ…。
人の命とは…かくも短きものか。
神主の後ろ姿を見つめながらユユイノミコトは呟いた。
少し歩いたところで、神主はふと足を止めた。
そして、ゆっくりと後ろを振り返る。
神主はユユイノミコトの祠の入り口を静かに見つめながら、深く頭を下げる。
顔を上げた神主の顔にはシワが深く刻まれている。
…されど、なんと尊きものか。
シャン…
「林さん!!」
「だ…大丈夫だ…。」
大木の下敷きになった林巡査部長は自力で這い出てきたが、顔を歪め左腕と足を引きずっている。
大木は元々朽ちていたこともあり、そこまでの重量はなかったようだ。
それでも肩は脱臼したようで左腕が不自然に脱力しており、足も痛みでうまく歩けない。
係長は林巡査部長に駆け寄り、怪我の具合を確認する。
「この状態で山を下りるのは危険だ。」
「先輩、薮下と一緒に裕也さんを連れて下山してください。」
「この天候じゃ、また倒木があるかもしれない。私も一緒に残る。」
林巡査部長は係長の言葉を跳ね返そうと思ったが、怪我の状態から自分ことはもとより、ユユイノミコトに向かっている和馬や神楽を舞う正玄やしずに何かあった時に守るのは難しいと分かっている。
「薮下…短距離走の県大会に出たんだろ?お前の作戦通り、裕也さんを背負って急いで山を下りろ。そして、応援を呼んでくれ。できるか?」
「任せてください!!!!!!」
薮下巡査はキラキラした目で答えるや否や、裕也を背負い、紐で自分と裕也の体を素早く縛った。
そしてクラウチングスタートの体勢をとる。
息をゆっくり吐きながら、目を閉じて下を向く。
そして意を決したように前を向くと、成人男性を背負っているとは思えないスピードで森に向かって走って行った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
次回もよろしくお願いいたします。




