第35話 副業×廃旅館(22)
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前回の続きです。
正玄は丁寧に一礼する。
シャン…
正玄は横に置かれたクロモジの枝を持つ。
シャン…
正玄としずはゆっくりと立ち上がり、両手を広げる。
シャン…
2人は一歩踏み出す。
シャン…。
2人は身を返し、白い袖が空中で弧を描く。
シャン…
一歩踏み出す。
シャン…
身を屈め、片足を軸に体を傾ける。
シャン…
腕を大きく振る。
シャン…
クロモジを持つ手を上げ、身を返す。
シャン…
神楽が続く中、祠の入り口から和馬達が現れた。
和馬は目の前の神楽に目を奪われる。
正玄としずの動きは何度も神楽を一緒に舞ってきたかのように寸分のずれもない。
2人が身を返すごとにクロモジの香りが辺りに漂い、神楽鈴の音と共に醸し出される神聖な雰囲気に圧倒される。
ユユイノミコトは香りと音を確かめるように目を閉じる。
シャン…
シャン…
シャン…
しばらくして裕也の体から全身を真っ黒な長い毛で覆われたユユイノミコトが抜け出た。
次の瞬間、裕也は全身の力が抜けてその場に倒れ込む。
ユユイノミコトは、その場で神楽を見つめている。
「神楽など…今さら捧げても遅い。我を祀ることをとうに忘れたのは誰ぞ。長い年月、我を顧みなかった人よ。」
話しながらユユイノミコトは徐々に浴衣を着た小さな男の子へ姿を変えていく。
その目は白く濁り、口は裂け、恐ろしい見た目だった。
「我は忘れ去られたのだ。その罪、その無礼…思い知るがよい。我が怒りをその身に刻み込んでくれる…。」
ユユイノミコトが空を見上げるとみるみる青空に灰色の雲が広がり、雷が轟く。
風が強く吹き荒れ、雨が激しく降り出した。
正玄は天候の変化に驚き、動きを止めた。
「神楽を止めるんじゃないよ!舞い続けるんだ!」
しずは構わず神楽を舞い続ける。
正玄はしずの言葉で再び神楽に集中する。
ユユイノミコトの近くで倒れた裕也は動かない。
「俺があいつの気を引く。その間にパパさんたちは裕也さんを救助してくれ!」
和馬はユユイノミコトに向かって歩いて行った。
「おい、和馬!」
「薮下、動けるか?」
林巡査部長は入り口横に座る薮下巡査に声をかけた。
薮下巡査の横には藁男が心配そうに薮下巡査の背中を撫でている。
「もちろんです…!」
薮下巡査は親指を立てて、無理やり笑顔を作る。
「ユユイノミコト、あんたは怒って当然だ。」
和馬はユユイノミコトに話しかけながら近づいていく。
「人ごときに何が分かるというのだ?」
ユユイノミコトは和馬を睨みつける。
すると、雨風がさらに強く吹き荒れ、空で稲妻が光る。
「我は忘れ去られ、祀られることもなく、我の存在そのものを踏みにじられたのだ。その痛みも屈辱も…人などに分かるものか!」
「悲しかったんだな。」
シャン…
「悲しい…?我が悲しいだと…?戯言を申すな!」
「昔、神々の戦いで傷ついたあんたは、この村の人たちの優しさに触れて人を好きになった。だから温泉を出して、この村の人たちの生活を支え、見守ってきたんだ。」
シャン…
ユユイノミコトの目の前に温泉が湧き出た時の村人の驚きと歓喜の表情、神楽や祝詞を捧げている朝露神社の神主や巫女、温泉に入っている村人の笑顔が現れる。
シャン…
「あんたは村人を大切に思っていた。けど、自分の存在を忘れられてしまった。怒って当然だ。けど、本当は怒っているんじゃなくて、悲しくて寂しかったんじゃないか。」
シャン…
「我は…。」
シャン…
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