第34話 副業×廃旅館(21)
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
前回の続きです。
「人は我に願いを乞い、我が力を使い果たす。されど、願いが叶えば我を顧みぬ。我を忘れるとは…なんと忌々しきことよ。」
裕也に憑依したユユイノミコトは和馬の首を絞める手に力を入れた。
和馬は酸欠で気が遠くなるのを感じる。
「和馬!!」
「おい!!!手を放せ!!」
薮下巡査はユユイノミコトに向かって、震えた手で銃を構えている。
「小賢しい…。」
ユユイノミコトはゆっくり薮下を睨みつけた。
「っ!!ぐはっ…!!!」
途端に薮下巡査は首元を掻きむしりながら苦しみ出す。
「薮下!!」
林巡査部長は薮下巡査の元に駆け寄った。
薮下巡査の顔はみるみる赤黒くなっていく。
掻きむしっている首は傷つき、血がにじんでいく。
全員殺される…。
シャン…
その時、地上から鈴の音が聞こえた。
鈴の音と共に、ユユイノミコトの動きが止まり、上を向く。
シャン…
再び鈴の音。
「神楽鈴…。」
ユユイノミコトはそう呟くと和馬の首を絞めている手を放した。
同時に薮下巡査も解放される。
和馬と薮下巡査は大きく激しく空気を貪るように肺に送り込む。
ユユイノミコトは石階段からゆっくり地上へ向かった。
―――祠(地上)―――
シャン…
鈴の音が朽ち果てた森の中に響く。
まるで、その場が一気に清められていくようだった。
祠の入り口前はいつの間にか祭場が整えられていた。
神饌。
四角く掃き清められた地面。
そして、神楽鈴とクロモジの枝を持った巫女が静かに座っている。
巫女の顔は白い布で隠されていた。
巫女の左後ろには同じく白い布で顔を隠した神主が座っていた。
掃き清められた場所の外には尊も座って儀式を見守っている。
朝露神社では、神楽と祝詞の時に神主と巫女は神の顔を見ないように白い布で顔を隠すことになっている。
尊も神の顔を見ないよう俯いて、神が出てくるその時を待っている。
ザッ…ザッ…
入り口の中から歩くような物音が聞こえた。
空気が張り詰め、経験したことのない威圧感がその場にいる全員を包み込む。
来た。
「何があっても祝詞と神楽は続けるんだよ。」
しずは静かに正玄に話す。
ユユイノミコトは入り口から外に出ると、祭場を見渡す。
威圧感と恐ろしい気配に正玄も尊も手が震え出し、冷や汗が頬を伝う。
シャン…
しずは再び神楽鈴を鳴らす。
シャン…
正玄は畏れを鎮めるため、目を閉じ、深呼吸をする。
吐く息すらも震えている。
シャン…。
ユユイノミコトはゆっくり正玄としずに向かって歩いて来る。
シャン…
ダメだ。怖い。
正玄は目を閉じたまま、動けない。
次第に体が震えているのを感じる。
シャン…
すると、脳裏に父が祝詞を捧げ、神楽を舞う姿が現れた。
『正玄。』
シャン…
父の声が聞こえ、目を開ける。
遠くで風に揺れる葉の音が聞こえ、やがて体全体が優しい風に包まれた。
シャン…
正玄の目から一筋の涙が流れる。
シャン…
「掛けまくも畏き
朝露の大神、ユユイノミコトの御前に畏み畏み白さく―」
シャン…
正玄の口から自然に祝詞が流れ出る。
「遠き古よりこの山に鎮まり、木々を渡る風を聞き、清き水の流れを見守り
この地と人々を守り給いし大神よ―」
シャン…
「今ここに、御前を清め奉り、代々伝えし神楽を奉納せんとす
願わくは、この音を聞き給え、この声を聞き給え、この祈りを受け取り給え―」
シャン…
「どうか荒ぶる御心を鎮め給い、この地に残りし者どもを見守り給え
朝露の大神、ユユイノミコトの大前に畏み畏み白す―」
シャン…
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
思った以上に長くなってしまいました。
次回、クライマックスです。




