第33話 副業×廃旅館(20)
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前回の続きです。
―――禁足地―――
「ということで、朝露神社の神主は代々、祠の場所と神楽や祝詞を伝承していったんだ…あんたも斎さんから聞いていたと思うけど…ちょっと!ちゃんと聞いてたのかい!?」
「はぁはぁ…いや…き…聞いてっ…聞いてるっ!!」
正玄は息も絶え絶えになり、今にも死にそうな顔でしずを背負って山道を歩いている。
朝露旅館から山に向かって歩き出した時、正玄はしずにそれとなく朝露神社のことやユユイノミコトについて尋ねたところ、しずは正玄が斎から伝承されたと思い込み、これまでの朝露神社の歴史や祠が別の場所にあること、斎と行動を共にしていた巫女としての苦労を話し始めたのだ。
「御神体を守るとは言え、禁足地だけじゃなく、口外の掟も…そんなことをしてまで御神体って守らなきゃいけないのでしょうか…。」
尊は朝露神社の歴代神主が行ってきたことに対して嫌悪感を示した。
「当時は禁足地や口外の掟を設けることがこの村を守る最善の方法だったのさ。御神体を奪われてしまったら源泉が出なくなるどころか、この村の衰退を招くと考えられていたからね。けど、朝露神社にとっては守っていたつもりでも、何も知らない村の人らにしたら得体の知れない恐怖がすぐ近くで起こっているのに何もしてくれない神社という風に見えていたのさ。」
しずは正玄の背中を叱咤激励するように叩きながら話した。
正玄は歩みを止めて、肩で息をしている。
「父さん、大丈夫?俺、変わるよ。」
「はあはあ…!だ…大丈夫だ!!俺が…俺が背負う!!!!」
正玄はそう話すと、再び歩き出した。
「似ているね…斎さんもそうやって色んなもんを一人で背負っていたよ。」
しずは遠い記憶の斎を見るかのような目をしている。
「斎さんはね、この状況を変えようとしていたよ。歴代の神主も、斎さんも人知れず大きな秘密を一人で抱えていた…その孤独感と恐怖心は想像絶するものだろうよ。斎さんが突然亡くなってしまって、どうしようかと思ったけど、ちゃんとあんたに託していったんだね…安心したよ。」
しずの話を聞きながら、正玄は生前の父を思い出す。
思い出の中の父はいつも難しい顔をしていた。
正玄は神主の家に生まれたにも関わらず、神を信じていなかったし、若い頃は神主の仕事は一年を通じて同じことを繰り返す変わり映えのないつまらないものだとバカにしていた。
田舎で悠々と暮らす父より、大学進学を機に家を出た自分の方が都会の荒波に揉まれ、苦労して生きてきた、そんな思いが徐々に胸の中で大きくなり、家を出てから実家と距離を取るようになった。
しかし、自分の知らないところで父は一人で孤独に戦っていたのだ。
「…さあ、こっから先が本番だよ。」
しずの言葉に正玄は顔を上げ、目の前に広がる光景にぞっとする。
目の前には、すべてが枯れた森が広がっていたのだ。
正玄と尊はこれまで感じたことのない嫌な気を感じた。
「ここから先が禁足地だ…気を引き締めていくよ。」
しずは正玄の背中をより一層力を入れて掴んだ。
―――祠―――
「ここから出られないってどういうことだ?」
和馬は裕也に尋ねた。
「何度かここから逃げ出そうとしたけど、そのたびに意識を失って…というか、乗っ取られて、出られなかった。」
裕也は震えながら頭を抱えた。
「乗っ取られる?」
「意識はあるけど、体が意識とは違う動きをするっていうか…。」
「怖すぎる…。」
係長はボソッと震えた声で呟く。
「意識が乗っ取られる前に私が裕也さんを抱えて走って逃げます!」
「そういう問題じゃないと思うぞ、薮下。」
薮下巡査の突拍子もない提案に林巡査部長が静かに突っ込むが、なおも薮下巡査は高校時代に陸上の短距離走で県大会に出場した話を始め、林巡査部長と係長に静かになだめられた。
「あいつは神が祟り神になった姿だ。今、この村にある神社の神主が神楽と祝詞を捧げるため準備してくれている。あいつの活動時間は夕方から明け方にかけてだ。今のうちに外に出て神主たちと合流する方が安全だ。」
「祟り神…意識を乗っ取られた時に怒りとか悲しさ、寂しさみたいなものが混ざったぐちゃぐちゃした感情が意識の中に入ってきた。何があったか分からないけど、すごくつらい感情だった。」
「意識を乗っ取られたってことは、つまり同化したってことだ。だからあいつの感情を感じることができたんだ。」
「助けられるのか?あいつを。」
「ああ。だから、あんたも協力してくれ。」
和馬の言葉に裕也はゆっくり頷いた。
「まずは、ここから出るんだ。」
和馬は裕也の体を支え、ゆっくり裕也を立たせる。
係長も裕也に肩をかした。
歩き出そうとした次の瞬間―――
裕也は俯いたまま、動きがピタリと止まった。
和馬は先程まで感じなかった威圧感を感じ始める。
「きた…!」
和馬は辺りを見渡す。
係長と林巡査部長、薮下巡査も同様に何かを感じているようで辺りをキョロキョロと見渡していた。
「旅館で感じたのと同じ…あの威圧感です…!」
薮下巡査は声を震わせながら周りを見渡す。
「早く出るぞ!」
和馬が全員に声をかけ、裕也を動かそうとする。
が、裕也はびくともしない。
急に藁男が係長に勢いよく飛びつき、係長はそのまま勢いで裕也の腕を放し、尻餅をつく。
「パパさん!?」
和馬は尻餅をついた係長に声をかけたのも束の間、それまで俯いていた裕也が急に和馬に顔を向けた。
「っ!!!!!」
和馬は裕也の顔を見て小さく悲鳴を上げた。
裕也の目は白く濁り、口は耳まで裂けていた。
和馬は裕也から離れようとするも、裕也の手が瞬時に和馬の首を絞める。
「我が依代に断りもなく触れるとは。人の身でなんと無礼なことをする。」
裕也の声じゃない。
裕也の口から出た言葉は野太く、地を揺らすような声だった。
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いよいよ佳境です。
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