第29話 副業×廃旅館(16)
―――天野家―――
尊の運転する車から出てきた奈美は、隼人が使っている倉庫に向かった。
「ここに来るとはな。」
浄衣に着替えた正玄は天野家を見上げながら呟いた。
運転席から出てきた尊も御神体を確認した時の浄衣を纏っている。
「うちに何か用か?」
高齢の男性が正玄と尊に話しかけた。
天野しずの息子、芳郎だ。手に水の入ったバケツを持っている。
「ソーラーパネルの会社じゃないようだな。」
「私は朝露神社の神主で神宮正玄と言います。こっちは息子の尊です。今日は天野しずさんにお願いが――っ!!」
話している途中で芳郎は正玄にバケツの水を思いっきりかけた。
「父さん!」
「…1日で2回もバケツの水をかけられるなんて、なかなかないよな。」
正玄は手で顔の水を拭う。
「朝露神社の人間が今さらなんの用だ?」
芳郎は正玄と尊を睨みつけた。
「これまであんたらには何度もあの土地のことを相談してきた。なのに、土地に踏み入るなの一点張りで、何の手立ても打たなかった。おまけにうちのお袋もあんな体になるし…どの面下げてお願いだ!」
「その話、詳しく教えて頂けないでしょうか。お願いします。」
正玄はびしょ濡れになりながら、芳郎に頭を下げた。
―――禁足地―――
「あんた、神宮斎さんだろ。朝露神社の元神主さん。」
和馬が声をかけると、斎は驚いた表情をした。
「知っているのか?」
「あんたの写真を朝露神社の社務所で見た。息子の正玄さんと孫の尊さんも後から来るぜ。」
「正玄…そうか。何も伝えないままだったからな…。」
斎は寂しそうな表情をする。
「林さん…あいつ、一人でなんかしゃべってますよ。」
薮下巡査は和馬の様子を見て、コソコソと林巡査部長に話しかけた。
「もう、俺は何を見ても驚かないよ。」
林巡査は和馬の様子を見ながら呟く。
「昨日も話したが、行方不明の青年を探している。あんたが見たっていう青年だ。あんたが言っていた、始まりを探せっていうのは、温泉の始まりってことだよな?なぜそれが、この禁足地になっているのか教えてもらえないか?」
斎はしばらく、黙って和馬を見つめていたが、やがて重い口を開いた。
「朝露神社の由来は知っているか?」
「正玄さんから聞いた。」
「ユユイノミコトが温泉を出した後、御神体を祀る祠を温泉の始まり…つまり源泉近くに作った。本来であれば、神社もこの場所に建てて、ユユイノミコトを祀る予定だったが、当時の神主は御神体を守るため、あえて別の場所に建てることを決めた。」
「守るって何から?」
「人からだ。当時、温泉として栄え出した朝露村では、御神体を外部の人間から奪われないようにしなければと考えた。御神体を奪われると温泉や温泉から来る恩恵もそのまま奪われると考えていたようだ。」
「だから別の場所に神社を建てて、カモフラージュしたのか。」
「そうだ。そして、本当の祠があるこの土地を禁足地とし、足を踏み入れたら呪われると村人に伝え、更に村人が外部の人間に話さないよう、口外の掟も作った。」
「禁足地のことを口に出すことで呪われたり、不幸になるとかなんとか言って村人から外部の人間に御神体のことが伝わるのを防いだって訳か。」
「そうやって、我々神宮家は御神体を守ってきた。もちろん、このことを知る者は神宮家の中でも神主になった者と側近の巫女だけだ。」




