第26話 副業×廃旅館(13)
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前回の続きです。
「ったく、父親に水かけるなんて、とんだバカ息子だな。」
神宮正玄はびしょ濡れになったTシャツを絞りながら息子の尊を睨んだ。
水に濡れていても酒臭さは残っている。
無精ひげを生やし、顔は酒の影響で赤く、目がすわっているが、神宮斎に似ている。
その時、和馬達の後ろから、誰かが走ってくる音が聞こえる。
社務所にいたやる気のない巫女だ。
「やばっ!逮捕劇、見逃しちゃった!?」
スマホを片手に走って来た巫女はカメラアプリを起動した。
「奈美ちゃん、父さんは逮捕されないって。」
「え~なんだ~。つまんないの。面白い動画撮れそうだったのに。」
「尊、そいつらは誰だ?」
正玄は和馬達4人を睨みつけた。
「朝露旅館の行方不明事件を調べている警察の方たちだよ。その事件に湯守の大神が関係している可能性があって。」
尊の話を聞いているのか、いないのか、正玄は縁側の濡れていない部分に座り、ズボンのポケットから煙草を取り出すが、湿っていて吸えそうにない。
「毎日祝詞を捧げているのに、そんなことないって思って…俺、御神体を確認したんだよ。そしたら…!」
「御神体なんてなかったんだろ。」
正玄は湿った煙草の箱を握り潰した。
「知ってたの!?」
「母さんが出て行った後に俺も御神体を見に行った。」
「なんで、御神体を?」
「なんでだろうな…たぶん、何かにすがりたいと思ったからだろうな。」
正玄は遠くを見るような目をしている。
「父さん。」
「親父が死んで、急遽実家のここに戻ることになったが、母さんは元々、ここでの暮らしを望んじゃいなかった。それでもここに慣れてくれるって信じて、俺は跡取りの仕事を必死に頑張った。毎日祝詞も捧げて、母さんとお前の幸せを祈った。けど、結局このざまよ。」
正玄はそこまで話すと、気持ち悪そうな表情をして口元を抑えた。
腹から何かがこみ上げてくるような動きを繰り返している。
ゴクッ…。
どうにか吐き気を飲み込んだようだ。
奈美はその様子をみて、神主宅に入って行った。
「俺が毎日祝詞を捧げ、祈っていたのは空の箱だったんだ。笑えるだろ?」
正玄は自ら嘲笑する。
「そんな前から…。」
尊は愕然とし、黙り込んでしまった。
「おじさん、水。」
神主宅から戻った奈美はコップの水を正玄に渡した。
「…ありがと。」
「俺たちが朝露旅館で見たのは、ユユイノミコトが祟り神になった姿だ。ここに御神体がないのであれば、どこかに放置されている祠があるはずだ。」
和馬は朝露旅館での出来事を正玄に話した。
正玄は信じられないといった表情をしていたが、やがて覚悟を決めたように話し出す。
「御神体がないと知った後、俺はここにある古文書を手当たり次第読み漁ったが、御神体について、別にあるという記載は見つからなかった。けど、今の話を聞いて、1つ思いだしたことがある。親父は月に2回、巫女を連れて山修行を行っていた。月2回の修行って多い気はするし、お袋は浮気してるんじゃないかって疑っていた。」
正玄はコップの水を一口飲み込んだ。
「でも、その山修行が本当は湯守の大神に祝詞と捧げに行っていたとしたら、月2回も山に入った理由としては辻褄が合う。」
「その山って村の北にある森のことか?」
和馬は天野隼人の話を思い出す。
朝露村の北にある森は、誰も立ち入ってはいけない禁足地として村に伝わっている。
「そうだ。クロモジの自生している森で、そこからさらに北は誰も踏み入ってはいけない禁足地になっている。」
「父さん!そこに湯守の大神の隠された祠があるってこと?」
「おそらくな。」
正玄は再びコップの水を一口飲み込んだ。
「またあそこにいくのか…。」
係長はがっかりした表情を浮かべ、呟いた。
「いや、それにしても捜索範囲が広すぎますよ!朝露旅館の近くとは言え、森は広いですからね。」
薮下巡査はスマホの地図アプリを開いていた。
確かに、森は広く闇雲に探すのは危険だ。
もう少し範囲を絞れないか。
和馬は神宮斎とのやり取りを思い出す。
「もう一つ、親父さんが“始まりを探せ”って言っていたが、何か心当たりはあるか?」
「始まり…か。湯守の大神の始まりってことであれば、神社の由緒ってことになる。」
「教えてくれ。」
「湯守の大神である、ユユイノミコトは神々との闘いで深手を負い、この地に逃げて来た。瀕死のユユイノミコトを哀れに思った村の若者は傷の手当てをし、供物を捧げた。やがて回復したユユイノミコトはその若者とこの村に深く感謝し、この地を見守っていくことを誓った。そして、持っていた剣を地面に突き刺すと勢いよく温泉が湧き出た。以降、この村は温泉街として繁栄していった。」
「その若者がここ、朝露神社の初代神主です。でも、今の話で何かヒントになるものはないような…。」
「温泉が湧き出た場所って、つまりは源泉ってこと?」
奈美はスマホをいじりながら尋ねた。
「そうか、温泉が湧き出たところ、つまり始まりだ。そこに隠された祠がある。」
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