第25話 副業×廃旅館(12)
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前回の続きです。
尊は浄衣に着替えると、手水で口と手を洗い、御神体を祀っている本殿へと向かった。
本殿は、神主が祝詞を奏上する外陣と御簾で隔てられた内陣に分かれている。内陣には御神体を安置している。
尊は外陣に入ると、内陣に向かって二礼二拍手一礼で拝礼し、祝詞を唱えた。
「畏み畏みも白す。
朝露の杜に鎮まり坐す 湯守の大神よ。
畏れながら御前をお改め申し上げます。
我らが神威を乱すことなきよう、どうかお許し給え。」
祝詞を唱え終えた尊は緊張した様子で外陣の奥、御簾の前に立ち、深く一礼する。
御簾を通して見る内陣は薄暗く、静寂に包まれていた。
歴代神主の誰も見ていない御神体を自分が見る緊張と恐れが尊を襲う。
外から風に揺れる葉の音が聞こえ、やがてその風は尊の頬を撫で、御簾を揺らした。
尊は深呼吸すると、再び内陣に向かって深く一礼し、静かに御簾を下から巻き上げると上部に紐で固定した。
内陣の中央には、一段高く設けられた神座に樹齢数百年のヒノキで作られた厨子が鎮座していた。
尊は厨子の前で深く一礼し、両手で小さな金具に触れ、息を整えるとゆっくり扉を開いた。
厨子の中には白衣に包まれた桐箱が納められている。
尊は静かに白衣の結び目を解くと、桐箱の蓋をゆっくり開けた。
慎重に中を覗く。
…何もない。
見えたのは、桐箱の底だった。
尊は空の桐箱を見ながら状況が分からず混乱した。
御神体はどこかのタイミングで盗まれたのか。
そもそも御神体は最初からなかったのか。
だとしたら、これまでずっと空の本殿に祝詞を唱え、供物を捧げていたのか。
信じていたものが崩れ去り、尊の心は奈落の底へ落ちていくような感覚だった。
――――――
「御神体はなかったようだな。」
本殿から社務所の応接室に戻って来た尊の青ざめた表情から和馬は悟った。
「…厨子の中には御神体はなく、空の桐箱だけでした。」
「じゃあ、あれはユユイノミコトの祟り神で間違いないってことか。」
係長は昨日見た黒いものを思い出し、身震いする。
「誰かに御神体を盗まれた可能性は?」
力なく椅子に座った尊に薮下巡査が尋ねた。
「私も考えましたが、本殿の外陣に入る鍵は社務所の金庫に保管されています。祈祷の依頼でもない限り開けません。まあ、依頼なんてありませんけど。金庫の暗証番号は私と父しか知りません。」
「お父さんが酒を買うために売った可能性は?」
薮下巡査は踏み込んで更に質問する。
「父は、あんな状態ですが、御神体を売るほど愚かではありません。」
尊はまっすぐに薮下巡査を見つめ答えた。
「歴代の神主で御神体を見た者はいないと言っていたが、昨日会ったあんたのじいちゃんは祟り神がユユイノミコトだと知っていた。御神体についても何かしら知っている可能性はあるが、丸腰でまた朝露旅館に行くのは、流石に無謀だよな。」
和馬は歴代神主の写真の前まで来ると、神宮斎の写真を見た。
「神宮斎のことを知っている人から聞いてみるのもありですね。」
薮下巡査はメモを取りながら、考えている。
――――――
バッシャッ!!!
「っ!!!!だ…誰だ!?水かけたのは!?」
思いっきり水をかけられ、びしょ濡れになった神宮正玄は飛び起き、酒臭い息で怒鳴り散らかした。
「父さん、御神体とじいちゃんのこと、教えて欲しいんだけど。」
水が入っていたバケツを持った尊は父を睨みつけた。
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