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第24話 副業×廃旅館(11)

いつも読んでいただき、ありがとうございます。

前回の続きです。

―――朝露神社―――


朝露神社は温泉街の大通りから東に向かった坂の上にあった。

立派な神社の割に参拝者は一人もおらず、閑散としている。

人の声の代わりに風に揺れる葉の音や鳥のさえずりが聞こえ、神聖な雰囲気を醸し出している。


大きな赤い鳥居を通ると参道の左側に手水舎があり、龍を(かたど)った吐水口からは水が細く流れ落ち、石造りの手水鉢に波紋を広げている。

手水鉢にはオレンジ色に染まった紅葉がいくつか浮かび、波紋に揺れながら秋を彩っている。


「人っ子一人いないな。」

和馬は神社を見回しながら呟いた。

「温泉街を見守る神と温泉の神を祀っている神社だからな。温泉が出ない今は参拝者もいないんだろ。」

係長は手水舎で洗った手を吹いていた。


「かつては参拝客で賑わっていたようですが、今はご覧のとおりです。」

私服に着替えた林巡査部長も手を吹きながら辺りを見渡す。

その後ろで同じく私服の薮下巡査が手を洗っているところだった。


4人は手水舎の向かいにある社務所へ向かった。

そこには、頬杖をついて遠くを見つめる、見るからにやる気のない若い巫女がいた。


「すみません。警察の者ですが、神主さんはいらっしゃいますか?」

薮下巡査はやる気のない巫女に、警察手帳を見せながら声をかけた。

「やばぁ、おじさん逮捕されんの?」

巫女は警察手帳を見て、目を大きく見開いた。


「いや、逮捕とかじゃなく、話を聞きたくて。今いらっしゃいますか?」

「いるけど、ちゃんと話せないと思いますよ。」

「話せない?」

「あ、(たける)さん!この人たち警察でおじさんに用だって。」

巫女は参道を通りかかった白衣にあずき色の袴を着た神職に声をかけた。

驚いた様子の神職の男は小走りでこちらにやってきた。

「警察の方ですか?父が何かご迷惑を?」

神職の男の見た目は少年のように幼い顔をしている。

一見すると、高校生のようにも見え、社務所にいる巫女よりも若いように見える。


「いえ、伺いたい事がありまして。息子さんですか?」

神宮尊(じんぐうたける)です。父はいますが、ちゃんと話せるかどうか…まあ、会っていただければわかると思います。」

尊は本殿の裏にある宮司宅へ4人を案内した。


宮司宅の縁側には朝露神社の神主である、神宮正玄が大の字で眠っていた。

傍らには、4Lの焼酎のペットボトルが2つ転がっている。


「酒くっさ~…。」

和馬は思わず顔をしかめた。

数メートル先からも酒臭さが分かる程、正玄は酒を飲んで潰れていた。

「母が出て行ってから、酒浸りになってしまって…。あの様子だと、たぶん夕方近くまで起きないと思います。」


「こりゃ話は聞けそうにないな。」

林巡査部長は正玄の様子をみて呟く。


「ここの神社でユユイノミコトという、神を知らないか?」

「ここで祀っている温泉の神です。」

和馬に尋ねられ、尊は本殿を指さした。



―――社務所―――



尊は4人を社務所内の応接室に案内した。

8畳ほどの和室には、木製のローテーブルとイスがきれいに並べられ、木製の本棚にはこれまでの朝露神社の歴史や行事に関する本が並べられている。壁には掛け軸と歴代の神主の写真が飾られていた。


神主の写真の中に見覚えのある顔をみつけ、和馬は近づいた。

昨日の朝露旅館で和馬に話しかけてきた男に似ている。

「この人は?」

「祖父の神宮斎です。」


ここの神主だったのか。

だからあの呪文を唱えられたわけだ。


「祖父を知っているのですか?」

「ああ、昨日会った。」

尊は意味が分からず、首を傾げた。


和馬はこれまでの行方不明事件や昨日の朝露旅館で目撃した黒いもの、神宮斎と唱えられた呪文について、尊に説明した。

「つ…つまり、うちで祀っているユユイノミコトが祟り神になって、人をさらっていると?」

和馬の説明を聞き終えた尊は信じられないといった表情をしている。


「おそらく、そうだ。」

「父はあんな感じですが、私が欠かさず毎日供え物や祝詞(のりと)をあげています。それなのに祟り神になるというのは…考えられません!」

「確かに、こんなに立派な神社で祀られている神が祟り神になるなんて俺も信じられない。ただ、あの祟り神を鎮めるために、ユユイノミコトの名前が呪文に入っていたというのも事実だ。できれば、御神体や祠が無事かどうか確認してもらえないか?」


「簡単に言わないでください。御神体は神主ですら、見ていいものではないと聞きます。歴代の神主でも直接御神体を見た者はいません。」

「写真にあるおじいさんも?」

「祖父は私が産まれる前に亡くなっているので、よくわかりません。」


「神宮さん、行方不明になっている若者はまだ生きている可能性があります。御神体について、神社の取り決めがあるのは理解していますが、どうか確認していただけませんか?それによって、若者を救う一歩になるんです。」

係長は尊を真っすぐに見つめ、諭すように話した。


尊は険しい表情で立ち上がり、歴代の神主の写真の前に来ると各先代の顔を見つめた。

先代達の写真の下に四季折々に撮影された朝露神社の写真も飾られている。

写真を見つめた後、尊は先代達の写真に向かって静かに一礼した。


「…わかりました。御神体の確認をしましょう。ただ、御神体を確認するにはそれなりの準備がいりますので、少し時間を頂きます。」



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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