第23話 副業×廃旅館(10)
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前回の続きです。
光が消えた後も4人はその場を動けずにいた。
和馬は黒いものに接近された影響で頭痛と吐き気に襲われている。
さっきのは、霊や怨霊じゃない。
あれは…きっと。
男が唱えた呪文は一時的な効果しかないだろう。
すぐにまたあれが戻ってくるはずだ!
「に…逃げるぞ!」
和馬はやっとのことで声を絞り出した。
和馬の声を聴いた3人はすぐさま部屋から駆け出す。
和馬は波打つような頭痛に耐えながら、出口に向かう。
ロビーに出ると、さっきまでいた人たちがいなくなっていた。
ロビーだけじゃなく、旅館の外にいた人たちも消えていた。
林巡査部長は硬い表情のまま運転席に乗り込む。
助手席に座っている薮下巡査は青白く、今にも吐き出しそうな顔をしていた。
係長も青白い顔をしているものの、呪いの人形に襲われた経験もあってか、林巡査部長や薮下巡査ほどのダメージはないようだった。
ただ、胸にしがみついている藁男をぎゅっと抱きしめていた。
――――――
4人は朝露支所に到着すると、小さな打ち合わせ室に向かった。
しばらく無言が続いていたが、薮下巡査が口火を切る。
「あれは…何なんですか!?何が起こったんですか!?それに…そいつは何ですか!?」
薮下巡査は相変わらず青白い顔をしながら、矢継ぎ早に質問し、係長の膝にちょこんと座っている藁尾を指さした。
「彼は、藁男だ。藁人形で出来ているから家族で名付けた。」
係長は真面目に答えると、藁男はピッと薮下巡査に向かって片手を上げて挨拶した。
「いや、そういうことじゃなくて!なんで動いてんですか!?」
薮下巡査はさらに混乱していく。
「薮下、落ち着け。」
それまで沈黙を守っていた林巡査部長は薮下巡査を制した。
「落ち着いてられないですよ!あんなの見ちゃって!夜寝れませんよ!!」
薮下巡査はどんどんヒステリックになっていく。
「おそらく、あれは神の一種だと思う。」
和馬の言葉に3人は驚きの表情で和馬を見つめた。
「神様ってことか?あ…あれが?」
係長は怯えた表情をして膝の上の藁尾をぎゅっと抱きしめた。
「神は神々しく、美しい見た目をしているっていうのは幻想だ。中には恐ろしい見た目をしていたり、人が一目見ただけで死んでしまうような見た目をしているものもいる。」
「待ってください!じゃあ、この失踪事件はすべて神様がやってるってことですか?」
「そうだ。つまり、今回の失踪事件は神隠しだ。」
小さな部屋に和馬の言葉が響く。
「和馬君の言う通り、神隠しだとしたら…」
「林さん!?こいつを信じるんですか!?」
「薮下、お前も感じただろ。あの威圧感と急に自分の気持ちが落ちるような、死にたくなるような…それに、あの光。あれを人がやっているとは到底思えない。」
「あいつに接触したのなら、戸田裕也はもう死んでいるんじゃないですか?」
薮下巡査はあの時の光景を思い出し、青ざめている。
「いや、生きていると思う。」
和馬は3人に朝露旅館の外とロビーで見かけた人たちのこと、その中に戸田裕也がいなかったことを話した。
「なるほど…じゃあ、戸田裕也が生きているとして、助けるためにはどうすればいいんだ?あの人形の時みたいに儀式で祓うのか?」
「俺も神様を相手にするのは初めてだ。この手の専門家に解決方法を聞いてみるよ。」
「和馬君、本当はプロファイラーなんかじゃないんだろ?」
林巡査部長の問いかけに、和馬と係長はお互いに顔を見合わせた。
和馬は2人に本業はハーブティ専門店を経営していて、副業で祓い屋をやっていること、係長の家で起きた呪いの人形のこと、今回の失踪事件について戸田裕也の姉の依頼で来たことを明かした。
「なるほど…。」
林巡査部長は頭を抱え込む。
「林君に迷惑はかけないようにする。だから、戸田裕也を見つけるまでは協力してもらえないか。」
「まあ…お互いにクビにならないよう、上への報告はなんとか誤魔化しましょう。」
「林さん、俺もう逃げたいっす…。」
「俺も…。」
――――――
『それは、祟り神だな。』
4人が座る机の真ん中に置かれた和馬のスマホからこの手の専門家である、雛子の声が響いていた。
『本来、神は人と共存し、信仰によって力を得る存在だ。その根底には慈悲や役割がある。一方で祟り神は本来の役割や名前を失い、怒りや孤独に飲まれた神と言える。』
「怒りや孤独…。」
和馬は神と接触した場面を思い出す。
『自らの存在を保つために人をさらって生贄のように命を奪っているのかもしれないな。』
「神隠しにあって、命取られるとか悪夢だな。」
薮下巡査は青ざめながら、ぽつりとつぶやいた。
『板橋の言う通り、朝露旅館にいた人影は祟り神に命を奪われた者たちだ。その中に戸田裕也がいなかったのであれば、まだ生きている可能性は高い。』
「どうすれば助けられる?」
『神は祓えないからな。本来の神に戻すしかない。』
「本来の神に戻すって…どうやって?」
『祟り神になったきっかけがあるはずだ。例えば、信仰心がなくなって祠が放置されているか、何かの原因で帰る祠を失ったか。そういった原因を取り除いて、神の怒りを鎮めるための神楽を捧げ、きちんと供養することが重要だ。』
「じゃあ、神楽を踊れる人を探して朝露旅館で踊ってもらえれば、万事解決ですね!」
薮下巡査は意気揚々と話す。
『祟り神の本当の名前が分かればな。』
「本当の名前?」
『神楽は神によって違う。ただでさえ怒りや孤独を抱えている祟り神だ。違う神の神楽を踊れば、逆効果になるだろう。』
「本当の名前か…。」
『板橋、祟り神が消える前に呪文が聞こえたって言ったよな?神に唱える呪文には神の名前が入っていることがある。何か覚えてないか?』
「そういえば…ユユイノミコトって聞こえた。」
『おそらく、それが祟り神の本当の名前だ。』
「名前だけじゃ何の神か分からないな。」
『近くに神社はないのか?』
「あります!朝露神社。温泉街の神様を祀っているとかって。」
薮下巡査はスマホで朝露神社を検索した。
『そこの神社で聞いてみろ。何かしらのヒントが見つかるかもしれない。戸田裕也もその神の祠かゆかりの場所にいるかもな。』
「なるほどな、さすが雛子。」
『相談料はこっちに帰ってきたら請求するからな。』
「…はい。」
『まいどあり。』
雛子はそう言い残すと通話を切った。
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