第22話 副業×廃旅館(9)
いつも読んでいただき、ありがとうございました。
前回の続きです。
4人が逃げ込んだのは、かつて従業員の更衣室と思われる部屋だった。
部屋には壁付けのロッカーが四方八方に設置されており、部屋の奥には小さな窓が付いていた。
「あそこの窓から出られるかもしれない。」
林巡査部長は急いで窓に近づいた。
男が通るには少し狭い気もするが、他に道はない。
「何で逃げたんですか!?」
訳も分からず逃げて来た薮下巡査は窓を開けようとしている林巡査部長と和馬を交互に見ながら尋ねた。
「和馬…俺は別に逃げた理由を聞かなくても大丈夫だからな。」
係長はなんとなく理解しているようだ。
係長の胸ポケットから藁男が顔を出す。
「薮下、説明は後だ。今は、この窓を開けるのを手伝ってくれ。」
普段から冷静沈着な林巡査部長の手が震えているのを見て、薮下巡査はそれ以上、尋ねることはなかった。
和馬は部屋のドアに沿って、パロサントと塩、ローズマリーを混ぜたものを撒いた。
気休め程度でも足止めできれば。
「くそ!開かない!」
林巡査部長と薮下巡査はどうやっても開かない窓と戦っていた。
「別の出口を見つけましょう!他の部屋に窓があるかもしれませ…っ!!!」
その時、ドアの外から今まで感じたことのない威圧感が漂ってきた。
体が床にめり込むような感覚に陥る。
ドアに沿って撒かれたものがみるみる黒くなり、ゆっくりとドアが開いた。
そこには、全身を真っ黒な長い毛で覆われたものが立っている。
背丈は人よりも大きく、まるで大きな黒い布を被ったゴーストのようだった。
和馬はその姿を見て、恐怖とは違う、静かな畏れを感じた。
「な…なんだよ…あれ…。」
薮下巡査は青ざめた顔で入り口に立っているものを指さした。
林巡査部長も係長も同様に入り口に視線を送っている。
どうやら和馬以外にも見えているようだ。
ただならぬ気配を感じた藁男は係長の胸ポケットから飛び出し、50㎝大の大きさになって床に着地すると、ファイティングポーズを取った。
「藁男!手を出すな!これは…手を出してはいけない存在だ。」
和馬の忠告を聞くと、藁男は少し怯えながらも係長の近くに行き、守るように両手を広げた。
まずい状況だ。
自分が持っているハーブや塩では太刀打ちできない。
雛子からもらった護符も効果はないだろう。
他に使えるものはないか。
和馬は必死に考えを巡らせるが、打開策は出てこない。
そうこうしているうちに、黒いものはゆっくりと部屋に入って来た。
これまで以上に強い威圧感が4人を襲う。
体が思うように動かない。
黒いものは和馬に向かって真っすぐ近づいて来た。
威圧感と吐き気に襲われ、気を失いそうになる。
和馬と黒いものの距離が1メートル程度になったところで、黒いものから漆黒の手が伸びて来た。
触れられたら、死ぬ―――。
根拠はない。
それでも本能が理解していた。
あれは人が触れてよいものではない。
和馬はとっさに思うものの体が動かない。
漆黒の手はじわじわと近づいてくる。
手は今にも和馬の鼻先に触れそうだ。
次の瞬間、ドアから誰かが入って来た。
廊下で声をかけて来た男だ。
「畏み畏み申す!湯結命よ!静まり坐せ!神威を忘れず、今は眠り給え!」
男が唱えると、黒いものは眩しい光に包まれた。
しばらく光に包まれていたが、やがて光は消え、辺りには和馬達4人だけが残されていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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