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第20話 副業×廃旅館(7)

前回の続きです。

―――朝露旅館―――



林巡査部長の運転する車に乗り、和馬達は夕焼けに染められた朝露旅館に到着した。

「着いちゃったよ…。」

後部座席の窓から朝露旅館を見上げながら、係長は呟いた。


「こりゃすごいな。」

同じく後部座席に座っていた和馬は窓の外を見ながら声を漏らした。


朝露旅館の周りには、老若男女問わず、多くの人が立っていたのだ。

彼らは半透明で、辛うじてそこに存在しているかのようだった。

そして、皆一様に空を見上げている。


先に車を出た林巡査部長と薮下巡査がこの異様な光景に反応しないことを見ると、やはり彼らはこの世のものではないのだ。


係長の胸ポケットに入っていた藁男も何事かと窓の外を眺めている。

「和馬、何か見えるか?」

「やっぱり夕方からが奴の活動時間みたいだな。」

「どうして!?なんか見えてるだろ!?」

「パパさん、何かあったら藁男の力をかりて、すぐに逃げてくれ。」

そう言い残し、和馬は車から降りた。


「…超怖い…。」

係長は和馬が去った後を見つめながら思わず漏らした。



外から見る朝露旅館は夕暮れに明るく照らされていたが、旅館の中はすでに漆黒の闇に包まれており、耳が痛くなる程の静けさに包まれていた。

和馬は旅館に足を踏み入れた瞬間、妙な圧迫感を感じる。


4人は警察署から持ってきた懐中電灯に明かりをつけた。

懐中電灯に照らされた先には半透明の者たちが立ち尽くし、微動だにせず一様に天井を見つめていた。


和馬は外とは比較にならない程の人数の多さに圧倒される。

旅館に入った時に感じた圧迫感はここからきていたのだ。

警察の記録にはない行方不明者も多い可能性もある。


和馬は懐中電灯を照らし、彼ら一人一人の顔を確認する。

戸田裕也はいない。

ということは、まだ生きている可能性がある。


「戸田裕也のカメラが発見された場所はどこだ?」

和馬は薮下巡査に尋ねた。

「この地下にある物置のような場所です。」

「案内してくれ。」


4人は中庭の前を通り過ぎ、旅館の奥へ進んでいく。

不思議なことに地下室に近づけば近づく程、闇が深くなっていく気がした。



「おい、そっちに行くな。」

突然、話しかけられ和馬は振り返った。



自分たち以外、誰もいない。



声色は一緒にいる3人のものとも違う。



「ど…どうした…和馬…。急に動くとか…やめろって言ってるだろ…。」

係長は声を震わせ泣きそうになっている。

「先輩、大丈夫ですか?泣いてます?」

林巡査部長は横から係長を覗き込みながら尋ねた。

「な…泣いてねぇし。」

「声震えてますって。」

「震えてねぇし!」

係長と林巡査部長は言い合いながら、薮下巡査の後を追ってさらに奥へと進んでいった。


残された和馬はあたりを見渡していたが、声の主は見つけられない。

3人の後を追うため、歩き出したその時―――

「おい、聞いてるのか。」



再び声をかけられ、歩みを止める。

声が聞こえた方に振り向く。



誰もいない。



そこには闇が広がるだけだった。



「話したいことがあれば、出て来いよ。」

和馬は暗闇に向かって静かに話した。



すると、暗闇から静かに顔だけが浮かび上がる。



男の顔だ。



やがて、全身が闇の中から現れた。



男は青白い顔をして、白いシャツに茶色のチノパンを履いている。



和馬は男の気配から、この世のものではないと感じた。




ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

次回もよろしくお願いいたします。

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