第17話 副業×廃旅館(4)
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前回の続きです。
廃旅館を出た係長は斗南警察署に連絡し、経緯を説明。
正式な手続きを経て、戸田裕也の失踪事件に関わることを許された。
まず4人は二手に分かれて聞き込みをすることにした。
林巡査部長と薮下巡査は商店通り、和馬と係長は廃旅館から近い場所の集落に向かった。
山の木々は葉の一部を赤や黄色に染め出し、初秋の爽やかな風に吹かれ、踊っているかのように揺れている。
車で山間の木々が鬱蒼と茂る道をしばらく進んでいくと、視界が広がり、目の前に金色の稲穂が揺れる広大な田んぼが現れた。田んぼは道路を挟んで左右に広がっている。
道の先には転々と集落の家がある。
どの家も大きく、母屋と農機具を収納する納屋が設けられていた。
集落の一番手前にある一際大きな家に車を停めた。
敷地内には他に軽トラックと黒いセダンの2台が停まっている。
和馬は車から出ると木の葉と土の香りを感じ、思わず深呼吸して肺いっぱいに空気を吸い込み、香りを楽しんだ。
「帰れ!!!二度と来るな!!!」
突然、怒鳴り声と水を撒くような音が納屋の方から聞こえてきた。
2人が向かうと、納屋の近くで黒い長靴を履いた家主と思われる高齢者の男性がバケツを持っていた。
「おい!何すんだよ!!」
天野と呼ばれる男性の目の前にはピチピチのスーツを着た20代くらいの若い男がずぶ濡れで立っている。
さっきの水を撒くような音は、この高齢の男性がバケツで若い男に水をかけた音だったようだ。
「お前しつこいぞ!うちの土地はお前みたいなのに売るもんか!さっさと帰れ!!」
「この…くっそじじい…」
男は凄んだ態度で睨みつけた。
「どうかしましたか?」
係長は男の態度を見てすかさず声をかけた。
「あ?誰だ、お前?」
男は係長を睨みつける。
「斗南警察署の楠です。」
係長は警察手帳を男に見せる。
「け…警察?あ…いや…ただちょっと…この辺を回っているだけで…。」
警察手帳を見た男は、途端に態度を一変させた。
「営業ということですか?会社の名前を教えてください。」
「あ、いや…。」
「メガソーラーエナジー株式会社だとよ。いきなり家に来て、土地を売れって迫って来やがった。」
「いや!迫ったとは違います!売ってくれないかというお話をしに来たところで…。」
「でも天野さんは売らないと言っていますし、お帰りになった方がいいと思いますよ。」
係長は優しく伝えながらも、威圧感のある雰囲気を出す。
男は何も言わず、急いでその場を後にした。
「パパさんって、本当に警察なんだな。」
和馬は初めて毅然とした態度の係長を見て思わず感心した。
「うん…まぁな。」
「で、警察がこの年寄りに何の用だ?」
天野は係長を睨みつけた。
「この間の失踪事件と朝露旅館について教えてほしい。」
和馬は係長の後ろから顔を覗かせて言った。
―――
「そういえば、旅館のところにパトカーが来てたな。」
天野は係長と和馬を縁側に座らせ、煎茶を淹れた。
同じく縁側には天野よりも更に高齢の女性が背もたれのある椅子に座って眠っている。
天野は自分の母親だと紹介し、煎茶を母親の湯飲み茶わんに淹れた。
「母ちゃん!お茶!淹れたからな!」
天野は母親に大声で声をかけるも、一向に起きる気配はない。
「あの日、何か見たり、聞いたりしていませんか?」
係長は出されたお茶を飲みながら尋ねた。
「さぁな、その時間は畑に行ってたし、何も見てないな。」
「朝露旅館が廃業したのはいつ頃ですか?」
「もう20年以上前だな。開業して1年ぽっきりで廃業しちまったんだ。」
「1年?それはどうして?」
「どういうわけか、温泉が出なくなっちまったんだよ。なんとか温泉を出そうと調査もしたらしいが、原因ははっきりわからなかったらしい。社長さんは別の温泉から湯を運ぶことも考えたみたいだけどよ、コストばっかりかかるってんで、諦めたらしい。」
天野は煎茶を飲み干し、係長と和馬の湯飲みに煎茶を注ぎ足す。
「朝露旅館を建設中もしくは営業していた時に何か事故か事件があったとか聞いてないか?」
和馬は天野からお茶を淹れてもらいながら、尋ねた。
「聞いてねぇな。」
「あの土地にまつわる噂とか言い伝えとか知らないか?」
「あんたら、行方不明事件の捜査で来たんだろ?土地の噂とか言い伝えが何の役に立つんだ?」
天野は笑いながら和馬に聞いた。
「事件の捜査に役立つかもしれません。」
「あの辺りにはクマも出るし、その若い奴はクマにでも襲われたんだろう。これ以上、調べても無駄だろうよ。そんなことよりもソーラーパネルの奴らがこの辺でしつこく営業をかけているのを止めさせてくれねぇか?ここの警察に言ってもさっぱり見回りにもこねぇからよ。」
そう話しながら、天野は立ち上がった。
「そろそろ畑に戻らねぇと。じゃぁ、ここの警察の奴らに見回るように言ってくれよ。」
天野はそう言い残し、納屋の方に戻って行った。
「なんとなく、話を逸らされた気もするな。」
係長は天野が歩いて行った先を見つめながら、和馬に話す。
「話したくないことがあるんだろ。」
ガサッ!
突然、物音がして駐車場の方を見ると、軽トラックの横に一人の若い男が立っていた。
男は目が合うと、慌てて視線を逸らし、その場から逃げるように納屋とは反対側の倉庫に立ち去った。
係長と和馬は顔を見合わせ、男の後を追った。
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