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第11話 副業×呪いの人形(9)

更新が遅くなってしまい、申し訳ありません。

前回の続きです。

―――楠家―――



楠家の窓は固く閉ざされ、パロサントとローズマリー、塩を混ぜたものを窓枠に沿って撒かれている。

唯一、リビングにある掃き出し窓の1つが開け放たれ、目の前には係長が1人ソファに座っていた。


まさに生餌の入った罠だ。

係長は人形がいつ現れるか分からない恐怖と戦っている。


一方、和馬は庭にある物置の裏に隠れていた。

和馬の額には気配を消すための印である「×」が直接炭で書かれている。



今夜は風もなく、聞こえるはずの虫の声もしない。

冷たく不穏な空気が漂っていた。

―――その時だった。



ズズッ…




ズズッ…




窓の外から少しずつ何かを引きずりながら、ゆっくり近づく音が聞こえてきた。


係長の心臓が騒ぎだす。

脂汗と共に顔から血の気が引く感じがした。


「き…きた…!近づいてきた…!」

係長は雛子から渡されたインカムで知らせた。


和馬は、そっと物置裏からリビングの掃き出し窓やその周辺を確認するが、まだ人形の姿は見えない。



「ピッ…こちらあかね!家の周りで何か動いてるっぽい…!少しずつリビングの方に近づいて行ってる!」

月の草でモニターを見ているあかねから連絡が入る。

やがて家の角から人形が体を引きずりながら現れた。




ズズッ…




ズズッ…




ゴトッ…




窓に人形の小さな手がかかる。


「ひっ…!!!」

係長は小さく悲鳴を上げた。


ゆっくりと掃き出し窓から人形が顔を覗かせる。

その顔は前に見た時よりもさらに多くの黒カビに覆われていた。

口元は大きく横に裂け、醜く歪んで鋭い歯を見せながらニヤニヤ笑っている。


人形はゆっくりと室内に入り込むと、床を這いながら係長に近づいてくる。

係長は恐怖で固まり、声を出すことも、立ち上がることもできない。



「ヒヒヒヒヒ…!」


人形は係長との距離をじわじわと縮めていく。

室内に人形が床を這う音と不気味な笑い声が響く。



すると、庭から和馬が駆けつけ、他の窓と同様にパロサントの灰とローズマリー、塩を混ぜたものを窓枠に沿って撒いた。

同時にリビング横のダイニングキッチンから雛子が現れ、人形の前に立ちはだかる。

雛子も額に「×」が書かれていた。


和馬はリビングに入ると、人形の背後を取り、雛子と人形を挟み込んだ。


「お前はここでおしまいだ。」

雛子はそう言うと着物から1枚の札を取り出す。


()りし怨念、形に宿る者よ。名を失い、声を閉ざし、器に還れ。我、縁を断ち、ここに―――っ!!」


「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!」

人形は静寂を切り裂くような不気味な笑い声を上げた。

そして、野獣のように荒く息を吐きながら、人形の背中から黒い靄を出す。

黒い靄は徐々に大きくなり、やがて巨大な蜘蛛の形になった。

蜘蛛の顔の部分には、人形が張り付いている。



「な…なんか形が変わってるんですけど!?」

係長は恐怖で叫びながら腰を抜かす。



「こいつ…一体何なんだ…?」

和馬は巨大化した姿にあっけに取られた。

次の瞬間、蜘蛛の足が和馬の腹部を捉えた。

和馬の体が浮く。

そのままリビングから庭へと叩き出された。



状況をうまく飲み込めないまま、和馬は背中から庭に落ちる。

背中の痛みでうまく息が吸えない。


「板橋!!」

遠くで雛子の声が聞こえた。

痛みに耐え、意識が遠のきそうになるのを必死に踏ん張ることしかできない。



雛子は庭に飛ばされた和馬に視線を向けたものの、蜘蛛が背中から触手のようなものを出し、自分を襲ってきたため、助けに行くことができない。

触手はムチのようにしなり、かなりのスピードで襲ってくる。雛子は攻撃をかわしながら、蜘蛛との間合いを詰めていく。


手の届く位置まで間合いを詰めたところで、持っていた札を蜘蛛の体に貼り付けた。

次の瞬間、札は一瞬にして黒カビに覆い尽くされ、ボロボロに敗れていった。


驚いた雛子の一瞬の隙を狙って、蜘蛛の触手が雛子の首を掴み、締め上げた。

雛子は抵抗するものの、触手はびくともしない。


もう一本の触手が蜘蛛の背中から伸び、係長に襲い掛かる。

「パパさん…!にげろ!!!」

雛子は絞り出すように声を出した。


係長は触手をかわしながら、リビングの扉を開ける。

蜘蛛は雛子の首を絞めたまま、係長を捕まえようと追いかけてくる。


係長は階段下の納戸に飛び込み、ドアを閉めた。

追いついた蜘蛛は納戸のドアを激しく叩く。

係長は開けられないようドアを体で押さえているものの、今にも壊されてしまいそうだった。


このまま殺されるのか――


係長が死を覚悟した時、雛子に言われたことをふと思い出した。


『もし、私と板橋に何かあって、パパさんを守れない時にはこれを使ってくれ。』

そう話すと、雛子は藁人形を係長に手渡した。

『必ず守ってくれる。』


係長はズボンのポケットから藁人形を取り出す。

「我は汝が友。救い給え。その恩、決して忘れず、必ず報いよう。」

係長は雛子から教えてもらった呪文を唱え、藁人形に息を吹きかけた。


しばらくすると、藁人形が小刻みに震え出す。

「うわっ!」

係長は思わず悲鳴をあげた。


藁人形は手の平サイズから50㎝程の大きさに成長した。

大きくなった藁人形は係長を見上げると、まるで挨拶するかのように右手を上げる。

その姿は不思議と怖くなく、むしろほっとする存在に思えた。


「お前、俺を助けてくれるのか…?」

係長が藁人形に尋ねると藁人形はピッと敬礼した。


藁人形は今にも壊れそうなドアを開けると、蜘蛛の下に滑り込み、跳ね起きのような体勢になると、思いっきり両足で蜘蛛の腹部を蹴り上げた。


蜘蛛は大きく跳ね上がり、床に崩れ落ちる。

藁人形は床に倒れた蜘蛛にエルボードロップを決め、さらに素早く抱え上げ、ジャーマンスープレックスを決めた。


「つ、強い…。」

係長は藁人形の戦いっぷりに感嘆の声を出した。


藁人形からの攻撃を受けるたびに蜘蛛は小さくなっていく。

それでも藁人形の攻撃は止まらず、連続パンチを繰り出す。

やがて蜘蛛は形を保てなくなり、黒い靄となって消えていった。

残された人形が床の上に倒れている。


「た…倒した…!!」

係長は恐る恐る納戸から出てきた。

藁人形は振り返って係長を見ると、右手をピッと上げた。


「お前…命の恩人だ。ありがとう。」

係長は声を震わせながら藁人形に感謝した。

藁人形は恥ずかしそうに頭をポリポリ搔いている。


「さっきのプロレス技、すごかったな!どこで覚えたんだ?」

藁人形は褒められて嬉しいのか、ぴょこぴょこと飛び跳ねていたが、急に動きを止め、素早く係長に突進してきた。


「うわっ!!」

係長は驚いて声を上げたが、次の瞬間、藁人形の胸に黒い触手が突き刺さり、そのまま廊下の壁に打ち付けられた。


係長は触手が伸びてきた方に振り向くと、人形の背中から一本の黒い触手が伸びていた。

人形は係長を睨みつけ、にやっと不気味に笑っている。


突き刺さった黒い触手から黒カビがじわじわと広がり、藁人形は苦しそうにもがいていた。


「くっそ…!!このやろぉ!!」

係長は人形に向かって行く。


「パパさん!!どけ!!」

背後からそう言われ、後ろを振り向くと、そこには和馬が塩素系洗剤のボトルを持って立っていた。


和馬はボトルのキャップを開け、人形に向かって、ボトルごと投げつけた。

人形に当たったボトルから出た塩素系漂白剤が人形にかかる。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


耳をつんざくような悲鳴を上げながら、人形の黒い靄は消えていった。


刺さっていた黒い触手が消え、藁人形は壁からずり落ち、床に落ちる寸前で係長が受け止めた。


次の瞬間、リビングから雛子がかけつけ、人形に札を貼る。

()りし怨念、形に宿る者よ。名を失い、声を閉ざし、器に還れ。我、縁を断ち、ここに封ず!」

雛子は呪文を唱えた。


人形はぴくりと震えた。

もう一度、ぴく、ぴく、と小さく痙攣する。


やがて完全に動きを止めた。



「…おわった…。」

係長は藁人形を抱えたまま呟いた。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

次回、完結です。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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