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50話 予選と苦難とⅨ

 その攻撃を食らった瞬間は、俺はなにが起きたのか把握できなかった。

 ――死んだ。だが、なぜ。

 直後に、すぐに事態を理解する。


「――キルゼムか!?」


 狙撃を食らったのだ。それも、意識の死角からの。

 頭を撃ち抜けば一撃必殺のスナイパー〈キルゼム〉で、俺はどこからか狙い撃たれたようだ。

 だだっ広い荒野を移動している最中だったが、つねに射線は気にしていたから、まさか即死するとは思ってもいなかった。

 

「いいんちょくん、こっち来れる? こっちの岩陰!」


 赤城さんの指示に従って、ダウンした状態の這うかたちでの移動していると、さらなる追い打ちが入った。

 俺のフィラリアが確殺されて、石像となる。

 そのときになって、俺は自分がどこから撃たれているのかを把握した。


 遠く、遠く離れた鉄塔。

 そのうえに陣取っている、ひとつのパーティ。

 リザルト画面に、俺を殺した敵の名が表示された。


 ――se1en!


 あれほど離れた場所から正確にヘッドショットを狙えるとは、すさまじい腕前だ。さすが、今やスナイパーを持たせれば全一と謳われているだけのことはある。

 が、もちろん敵を褒めている場合ではなかった。


「翠ぴ! 来たほうに〈ビジョン〉使える!?」

「使った。敵はいなさそう」

「よし、じゃいったん戻って! たぶん詰めてくるけど、あたし抑えておくから、翠ぴは逃げて!」

「了解」


 赤城さんの言ったとおり、se1enのパーティが来襲してきた。

 ひと足先に来たのは、ドリファスという狩人モチーフのキャラクターだ。

 ドリファスはサーチ型だが、優秀な固有アビリティを持っており、ロープとフックを使ったアクションで、ほかのキャラクターよりもすばやく移動することができる。


 このうえないピンチの状況で、俺は赤城さんに謝罪した。


「すまない、赤城さん。俺のせいだ。俺のミスで、こんなことに……」

「なに謝ってんの。まだ負けてもないし、かりに負けてもいいんちょくんのせいじゃないのに」


 ゲーム画面を凝視して、迎撃のために銃を構えながら、赤城さんは言った。


「むしろ、ここまでこれたのはいいんちょくんのおかげだよ。予選の前半、うまくやれなくてあたしがヘラってたのに、いいんちょくんがハイパーキャリーしてくれたから、こんなに順位があがったんじゃん。あたし、ほんっとに最高のチームメイトをみつけたんだなって、うれしかったんだよ」

「……赤城さん」

「それにね、このままいいんちょくんに頼り切りじゃダメだって思ったんだ。電甲杯を優勝するには、もちろんあたしもちゃんとやんないと。だから……こういう局面でくらい、かっこいいところみせないとじゃん――ねっ!」


 言い切ると同時、赤城さんはピストルの〈ウィジット〉を撃った。

 ロープアクションで迫っていたドリファスの、その脅威の移動速度をものともせず、空中で二発の弾をヒットさせる。

 こちらを舐めた詰め方だったとはいえ、想像以上の被ダメに焦ったドリファスが、着地と同時にストレイフして、遮蔽物に隠れた。

 それを読んでいたかのように、赤城さんのマレイユが詰める。スキル〈アドレナリン〉を吐いて移動速度をあげると、敵を逃がさずに近接戦闘にもちこんだ。


 体力満タン(フルヘルス)の赤城さんと、すでにアーマーが削れている敵のドリファス。その勝敗の結果は、火をみるよりも明らかだった。


「すごい……」


 思わず、俺はそう口に出してしまっていた。俺がウィジットを持たされていたとして、同じプレイはまずできないだろうと思わせるほどの射撃精度だった。


 が、問題はここからだ。

 残り二枚――そのうち片方はse1enだ――が、今度は同時に迫りくる。

 そのときだった。


 se1enの操るオルフェが、突如としてグレネードに吹き飛んだ。ダウンこそしなかったものの、それなりのダメージを受けて、いったん彼らが退いていく。

 それは、赤城さんが投げたものではない。

 となれば、答えはただひとつ。


「別パ!」と、赤城さんが叫んだ。

 そう、別パーティの乱入だ――しかも、方角を考えるにse1enたちの背後からの奇襲となっている。

 すなわち、これはチャンスだ。

 倒したドリファスの物資も奪わずに、赤城さんは一目散にその場から逃げ出した。se1enたちが応戦しているあいだに、すたこらと戦線から離脱する。

 さしあたり安全と思われる場所まで逃走すると、赤城さんは大きな声を出した。


「セーーーフ!! うわ、超ラッキーだったぁ!」


 先に離れていた翠と合流したときになると、右上のキルログに情報が流れてきた。se1enたちが撃退したのは、やはりというべきか、どこのパーティにも喧嘩を売っている現在8位のチームのようだった。

 迎撃されたことで、彼らの予選通過の芽は摘まれてしまったことになる。

 ともあれ、俺たちは九死に一生を得たかたちとなった。


「翠ぴ、遠回りして北から入るカンジにしよっか?」

「了解」

「てかごめんねー、いいんちょくん。コア回収できなかったー」

「いや、それはいいんだが……」


 このマッチはすでにリタイアとなった俺は、となりの席に座る赤城さんに目をやって、目を丸くしてしまった。

 赤城さんが、頬のとなりにピースを作って笑っていたからだった。

 見る者の胸を刺すくらいの、それはなんとも魅力的で、満開のひまわりのような笑顔だった。


「えへへ。どだった? かっこよかった? さっきのさ、クリップいきじゃない?」

「ああ……すごかったよ、かなり驚いた」

「いいんちょくん、惚れちった? だとしたら困っちゃうなー♡」


 自分のプレイに酔いしれる赤城さんに、翠の冷静な声でつっこみが入った。


「それはあなたのかんちがい。理由は八個ある。すべて教える。まずひとつに……」

「それあとで聞くね、翠ぴ」


 どうやら、必要以上に気負いしていたのは、俺だけだったようだ。

 俺は椅子のうえで思わず脱力してしまいそうになった。

 もちろん、実際にはだらしない姿勢は取らない。俺はここでは委員長で、委員長とはつねに背筋を伸ばしているものだからだ。


 普段の調子でプレイする赤城さんは、その後もいつもどおりのプレイをみせた。翠をともなってのデュオ潜行で、じょうずにマップを立ち回る。

 途中の交戦では、2on3の不利な状況でも敵を倒して、4ptにもなるキルポイントを稼いだ。

 どうにか悪くないポジションを陣取り、最終戦にも絡んだ。

 先に落ちてしまった翠の物資を引き継ぎ、さすが上級者というべき粘りをみせて、マッチ4位を記録した。


 第10試合の獲得ポイントは、11ptとなった。

 総合点数は78pt。

 全体3位に返り咲き――俺たちの予選通過が、確定した。

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