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49話 予選と苦難とⅧ

 ――まずい。


 はっきり、俺は焦っていた。

 第9試合で俺たちが獲得したのは、たったの1ptだ。順位ポイントが加算されるようになる12位にぎりぎり満たない13位だったこともあり、道中で拾えた1キルのポイントのみに留まってしまっていた。

 それに加えて、6位、7位のチームが追い上げていた。


 不自然なのは、1位であるse1en率いるチームの動きだった。

 最終ラウンドで、se1enたちはあきらかに6位チームが有利になるように立ち回っていた。わざわざ高所を降りて、6位チームの障壁となるチームと衝突しに向かっていた。ミスで崖から落ちてしまったようにみせかけていたが、あれは故意だろう。

 理由はわかっている。

 俺たちのチームを、どうにかボーダーから落とすためだ。

 結果として、6位のチームはチャンピオンを取り、大量キルもあいまって、一気に全体3位にまで浮上してきた。


 今、俺はBグループの最終10試合を観戦している。

 さきほど6位となったチームが、最終ラウンドの円縮小にともなって、じりじりとした駆け引きをおこなっている最中だった。


「リキッドジェル最後のひとつはkeiにあげて! そう、で、縮小が岩まで入ったら〈アドレナリン〉吐いて、右のパーティに圧かけて前に押し出して」


 そう指示を出すリーダーの女性は、俺も顔を知っている。

 B組の海谷ララさん、プレイヤー名はkaira。バレーボール部にでも所属していそうな長身の女子で、実際にスポーツは得意分野だそうだが、その実彼女がもっとも長けているのは、人気FPS〈Revenant〉の腕前だ。

 どこかの有名チームのアカデミー(養成所)に入っているらしく、プロ入りも秒読みと言われている。電甲杯でもRevenant部門で出場が確定しているようだが、趣味ゲーとして楽しんでいるルシオンのほうにもエントリーしているようだった。


 つまるところ、赤城さんが警戒していた他ゲーのプロ枠というわけだ。

 実際、今もかなり優れた立ち回りをみせている。ルシオンのほうに本気を出せば、こっちでもプロ入りが狙えるのではないかとさえ思わせるほどだ。


 だが、俺は内心で彼女のチームの敗北を望んでいた。ほかの多くのギャラリーに混ざって、俺だけは応援せずに事態を眺めている。

 ここがこのままチャンピオンを取ると、まずい。キルポイントも多く、ここで一気に加算があって、4位にまで浮上するだろう。


 頼む。負けてくれ……。

 およそ委員長らしからぬ俺の願いは、しかし届けられることはなかった。

 俺の悪い予感は、だいたい当たる。海谷さんたちは広く取ったスペースを活かして周囲を殲滅して、チャンスを逃さずに勝ち切った。


「やたっ、大逆転~~!!! みんな、超ナイスだったよ~っ!」


 完勝に喜び合う海谷さんたちチームメイトから、俺は顔をそらした。

 このマッチの得点は、驚異の20pt――暫定4位に上昇した。

 俺たちのチームは、ここにきてボーダーに乗ってしまった。



 最後の第10試合こそは、どうにかポイントを稼がなければならなかった。

 現在6位のチームとの点差は、たった6ptだ。

 ここでまた俺たちがポイントを取れずに終わってしまい、6位チームがマッチ4位か5位くらいにまで入れば、それだけで逆転となってしまう。

 向こうが初動ファイトに勝ってキルを取ってしまえば、条件はもっとゆるくなる。


 どうにか、しなければ。

 どうにか……。


「それでは、これよりAグループの最終第10試合を開始します」


 スタッフのコールがあって、俺たちは最後のマッチに潜った。

 結局、構成はかえていない。付け焼刃の変更になるよりも、慣れたままの編成で臨んだほうが勝率が高いはずだという赤城さんの意見に、俺が同意したからだった。

 だが、それが正しい選択なのかはわかっていなかった。

 ひょっとしたらべつのキャラが、べつのスキルのほうがよかったのではないか。

 そんな疑惑を抱きながら、最後のランドマークであるビッグバンに降り立った。


 ビッグバンは、マップの中心部にある巨大な施設だ。

 ここが当たりであるかどうかというのは、むずかしいところだ。理由は、ひとつのチームで漁るには手に余るほどの、その広大さにある。

 きちんと捜索できれば装備は潤沢になるが、かわりに敵チームの侵入を許しがちだ。そして今は、なによりもその展開がこわい。


「赤城さん、はやめに移動しておかないか?」

「そう? ん-、もうちょい漁ってよくない? さすがにまだ装備が弱いし。ねー翠ぴ、パパテラみつけられた?」

「まだみつからない。アタッチメントもろくにない」

「ほら。もうちょい整えてからにしよーよ」

「そ、そうか。わかった」


 パパテラというのは、翠が気に入っているアサルトライフルのことだ。一種のレーザー銃で、丸くて大きな弾がポポポと出ていく、ふしぎな使用感の銃だ。

 俺や赤城さんはほとんどすべての銃を扱えるが、初心者の翠は、まだ一部の銃しか満足にリコイル(銃の反動制御)ができない。

 翠を万全の状態にするためというなら、しかたがないか……。

 そう思う反面、いやにリラックスしてプレイする赤城さんのことが、俺は気になっていた。

 本戦に進めるか進めないかの瀬戸際だというのに、赤城さんはやけに飄々としている。まるで、普段のカジュアルマッチに潜っているときのようだ。


 右上に表示されている部隊数に、俺はちらちらと目線を送っていた。

 ふいに、それがひとつ減る。20チームから、残り19チームへ。

 まるで水面から一瞬だけ顔を出せたときのように、急に呼吸がラクになった。そうだ、これで最後のマッチなのだから、このまま荒れてファイトが起きてくれ。

 俺たちのあずかり知らないところで、部隊数が減ってくれ……。


「いいんちょくん、そろそろ移動すんよー!」

「あ、ああ」


 マップ西側の安全地帯に向けて、俺たちは移動をはじめた。

 最終マッチは、俺が想像していたよりも大荒れだった。銃声が届きやすいラキュトスとはいえ、ほとんどひっきりなしに戦闘音が届いてくる。

 おそらく、暴れているのは8,9位くらいのチームだろう。半分のチームをキルしてチャンピオンを取れば、ぎりぎりで5位に浮上できるかどうかといったポジションのところが、まるで台風のように各地で諍いを起こしている。

 こうした荒らしプレイを防ぐためにキルポイントには上限が設けられているルールも多いのだが、今回はそうした制約がなかった。


 ともあれ、俺たちはキルポイントの獲得争いに関与する必要はない。

 あくまでいつもどおり、セオリーどおりに安置へ向かい、陣地取りゲームとしてのルシファー・オンラインをプレイする。場所を取るために必要であればファイトをして、無理そうだと判断したらすぐに退く。

 赤城さんは、そのつもりでIGLを務めているはずだった。


 が――。

 不測の事態は、いつだって起こりうるものだ。


 突如として、俺のフィラリアが攻撃を食らい、ダウンした。

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