↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
43/114

39話 予選と苦難とⅡ

 校内予選の第一試合が幕を開けた。

 翠に合わせるかたちで学校のPCルームで参加することになったが、本来であれば各自が家でカスタムマッチに接続している。

 いつもの個室ということもあり、あまり大会らしくない静けさでゲームは始まった。


 ルシファー・オンラインのカスタムマッチは、待ち受け中はそれぞれのチームが画面に一覧のかたちで表示される。

 みな自分のアカウントで参加しているから、当然表示されているのは本名ではなく、ゲーム内IDだ。

 なかには、見覚えのある有名なIDもいくつか混ざっていた。

 俺たちでいっても、赤城さんはQG_Airi*という、いつもの有名アカウントで参戦している。

 それに対して、俺と翠は新たに作ったアカウントでの参加だ。翠はSui_the_Sword、俺はKumakuma_iintyokunである。


 ……いや、待て。


「Kumakuma(くまくま)_iintyokun(いいんちょくん)……? こんなIDにした覚えはないが……」


 なんだ、怪奇現象か?


「あ、それさっきいいんちょくんがトイレ行っているあいだに変えといた! かぁいいっしょ?」


 ほっぺのとなりでブイする赤城さん。

 まるで功績を讃えてくれといわんばかりの笑みだ。

 俺は適切な反応ができなかった。赤城さんという生き物は、頻繁に俺の委員長マニュアルでは対応できない行動をとってくる。


「わたしも恥ずかしい名前に変えられていた。どうにか事前にきづけてよかった」

「超ざんねんなんだけど! Suipii(すいぴー)_Princess(プリンセス)でよかったじゃん」

「そんな名前でプレイするくらいならすべての試合で溶岩に身を投げる」


 ちなみに、翠が使っているのはRTA大会に参加するときのおなじみのハンドルネームである。


「しかし、翠、お前の推察力なら俺のIDにも手が加えられていたことにきがつけたと思うのだが」

「彼女のやったことのなかでは褒められる行為。なぜなら、クマクマという名前はかわいい」

「でっしょー? 翠ぴ、わかってるー!」


 試合を目前にして緊張感のない会話をする俺たちだった。

 だが、どちらかといえば、これはいい傾向だといえるだろう。俺は大会経験がほとんどないが、ガチガチに緊張して試合に臨むよりも、リラックスしているほうが結果に恵まれるだろうということは、容易に想像できる。


「あ! マッチを開始します、だって!」

「各自、スキルピックをまちがえないようにな」

「だいじょうぶ。すでにプリセットしてある。それよりも、ランドマークをまちがえないほうが大事」


 翠の言うとおりだ。ルール説明を読むに、着地地点をまちがえたらその時点で失格になるそうだから、これだけは慎重におこなわなければならない。


 ランドマークというのは、ルシオンのマップにあるいくつかの拠点のことだ。その拠点は合計で二十に及び、これはチーム数と合致するようになっている。

 電甲杯においては、各チームがどのランドマークに降下するか、あらかじめ大会側に決められている。

 本来であればどこに降りてもかまわないのだが、大会では話がべつだ。バトルロワイアルというゲームの仕様上、自分たちが選んだ場所が混み合う拠点だった場合、実力よりもただの運で勝負が決まってしまうことも多いからだ。

 また、たとえば同じ拠点に五チームが降りたとして、生き残ったチームは大幅に装備が強化されることになり、そのマッチでチャンピオンを取る確率がぐっとあがる。


 そうした運要素を排除するための措置が、このランドマークの遵守制度だ。

 このランドマークにも当然場所や規模によって当たりやはずれがあるのだが、試合すべてがべつの場所に指定されていて、総合的にみればおおよそ均等になるように作られている。


「初戦のランドマークは錬金場であってるよね?」


 チームの主導権を握る赤城さんが、再三の確認を取ってくる。

 俺が肯定すると、見慣れた魔界の島に俺たちのチームが降りていく。


 着地。

 いよいよはじまった。


     *


 初戦の安置の引きは、かなりよかった。というより、すべてにおいて運に恵まれていたといえる。

 俺はアサルトライフルのペインバッカー、赤城さんはピストルのウィジットといった、おのおのの得意な武器が即座にみつかったのに続き、三人ともハイグレードなアーマーを身につけることができた。


 なにより、翠の操るチェリーパイが次の安置を読むために必要な魔力塔が、俺たちのランドマークの傍にあったのが大きい。


「翠、どうだ」

「今、読む。……表示された。第三ラウンドは、溶岩城から南にかけて」


 溶岩城から南一帯。

 俺は、となりに座る赤城さんに目配せした。


「これは、つまり……」

「ほぼまちがいなく、最終安置はガイナだね」


 赤城さんの略したガイナとは、ガイナブリッジというランドマークだ。

 俺たちのいる錬金場からは、かなり近い。ヘルズウェイクという全体マップの南側で、なんならご近所さんだといえる。

 となれば、逆に採れる選択肢は多くなるということだが……。


「んー、先入りする構成じゃないし、練習どおり第四ラウンドまでは外郭気味に安置取ってく方向にしよっか? キルは基本的に漁夫、というかちょっかい狙いで」

「それなら、行くべきは兵舎施設の北側とかか?」

「それがいいと思う! で、あたし、やっぱウィジットじゃなくてスナイパー持ってく! いいんちょくんは、長物はペインのままでよさそ?」

「ああ、四倍スコープを拾っていく。これでいい」


 装備を整えると、さっそく部隊ごと移動をはじめた。

 とりあえずの目的地である兵舎施設は、最終ラウンドにこそ入っていないが、そのかわり周辺に集まる部隊を上から撃てる好立地となる。

 また、あとから安置に入ろうとしたときに、X軸は隆起する岩、Y軸は橋の下で、それぞれある程度の射線を切ることができる。


 悪くない作戦だ。キルを狙いつつ、チャンピオンにも絡める。

 問題は、その好立地をうまく獲得できるかだが――。


「! 敵いる、正面の、たぶん右側の建物!」


 翠のコールで、俺たちは臨戦態勢に入った。

 離れた場所にいるはずの敵部隊の情報が取れたのは、翠にセットしてもらっているサーチ系のスキル〈ハイビジョン〉によるものだ。

 このスキルは、発動中に近くの敵部隊の位置を教えてくれる。

 デメリットは、こちらが察知したことを敵に知られること、複数部隊がいる場合でも一部隊しか教えてくれないこと。


 だが、この状況なら後者は問題ではない。まだマッチがはじまって序盤、この場所に潜んでいる敵は、はじめに兵舎施設がランドマークだったチームのはずだからだ。

 そして前者も、おそらく問題にはならない。

 なぜなら――。


「ここファイトね! グレ投げた、準備される前に速攻で落とすよ。あたしアド入れるから!」


 赤城さんの速攻のコールが終わるより前に、赤城さん自身が行動を起こしていた。

 アドというのは、アタッカーのスキル〈アドレナリン〉だ。ごく短時間のあいだだけ、移動スピードと火力が上昇する。

 発動する際に足を止める必要があるから、戦闘を仕掛ける側が使う際にかなり有用な大人気スキルだ。


 赤城さんの操るマレイユの仕事は早かった。

 チームがばらけて、三人中ふたりで建物を漁っていた敵チームが集合するより先、得意のSMG〈ワルツ〉で片方を落としてしまう。

 それによって、マレイユのパッシブ効果が発動。

 本業はダンサーであるマレイユが、舞踊モードに入る。敵のダウンを取ると、みずからの足がはやくなるのだ。

 アドレナリンとの相乗効果もあり、この状況のマレイユはアタッカーとして無類の強さを誇る。


「無理、逃がさないよ」


 二階に退避していた敵を追い詰め、赤城さんが無慈悲にダウンを取った。さながらバーサーカーだ。

 これで二枚、残りは――。


「クマ、たぶん奥側の建物の屋上、足音がした」

「了解」


 サーチ役に徹している翠から情報をもらい、俺は行動に出た。

 拾っておいた特殊アイテム〈リフトアップ〉を使い、さっさと建物の屋上に上がる。味方が落とされて逃走中の最後のひとりの背中がみえた。

 俺はペインバッカーのスコープを覗きこんで、直後に発砲した。


 まだ序盤のせいか、アーマーの強度が弱い相手が倒れる。

 それと同時に、相手のキャラは石像と化した。ルシファー・オンラインでは、部隊が全滅すると身体が石になり、そこから生前に持っていた物資を奪えるのだ。


「ナーーーーイス、いいんちょくん、最高のサポ! あと、もちろん翠ぴも! コール冷静すぎて絶対初心者じゃない!」

「赤城さんこそ、あの速度で二枚落としは尋常じゃないよ」

「……わたしは、あいかわらず銃を撃つ必要がない」


 練習どおりに事が進み、とりあえず俺は安堵した。

 この序盤で3キルというのも非常に大きい。このマッチは……かなりの得点が狙えそうだ。


「じゃ、ささっと漁って、奥側の建物取る感じで。翠ぴは、リキャスト終わり次第でサーチスキル回してもらってだいじょぶだから! それと……」


 赤城さんのてきぱきした指示を聞きながら、俺たちは第一試合を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。