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40話 予選と苦難とⅢ

 試合は、赤城さんの描いた絵のとおりに進んだ。

 最終安置は、予想どおりガイナブリッジ。第4ラウンドの残り9部隊の局面を、俺たちは6キルで部隊の欠けなし、かつ好立地で過ごせていた。


「いいんちょくん。これ、チャンピオンみえるくない?」

「ああ」


 長物《スナイパー》を持ち、遠く離れた場所にスコープを向けて、敵を発見したら撃ちつつ戦局の確認をしていた俺たちは、そう合意した。

 チャンピオンがみえる。

 つまり、この試合が勝てるマッチだということだ。

 以前赤城さんが言っていたように、何試合も執り行って総合ポイントを競う大会では、無理にチャンピオンを狙わずに、可能なかぎり順位点を獲得するという戦法が推奨される。

 だがそれでいて、もちろん現実的に狙える場面では、チャンピオンを取りに行くことは肝要だ。なにせ、マッチ1位になると獲得できるポイントが段違いだからだ。


 そして今回は、まさしくそういうマッチだった。


「もう動き出しとこっか。チャンピオンポジ、たぶん橋の側面だから、今のうちに先入りしといたほうがいいね」

「だが赤城さん、たぶん対岸のパーティも同じことを――」

「――うん、狙っていると思う。だけど、移動でやられることはないんじゃないかな。ちょっかいくらいはかけてくると思うけど、あっちうしろに二部隊いるでしょ、たぶんこっちにかまけてらんない」


 なるほど、いい読みだ。

 ルシオンでは、思い立ったが吉日、翠を連れて俺たちはよりよいポジションをめざして移動しはじめた。

 が――


「平地に出たらモク焚くから、ついてき――」


 先頭の赤城さんの指示が終わる前に、ダァンと銃声がした。同時に、チームに警告音が走る。

 ——Sui_the_Swordがダウン

 左下に表示されているUIで、翠の操るチェリーパイが真っ赤に染まっていた。


「一撃でやられた。どこからかわからない」

「っ! うしろ、たぶんソロでハイド!」


 赤城さんがコールをくれる。俺も、それしか考えられなかった。

 銃弾が浴びせられ、俺の操るフィラリアも被弾する。かなり優れたエイムで、アーマーがごりごりと削られた。

 敵もフィラリアであるようだった。ここでは回復の手段は採れない。岩陰で敵の出方を窺っているうちに、赤城さんが戻ってきた。


「カバーおねがい!」


 その指示に従って、俺は冷静に対処に努めた。もとを辿ればただの不意打ち、敵が一枚なら俺たちに負ける要素はない。

 実際、赤城さんは、ほとんど一方的な屋外戦を演じた。

 予想外だったのは、岩上に躍り出た敵が、ダウンした翠に撃ちこんできたことだった。


「なに……っ!」


 俺が驚いたのは、その一矢報いるような攻撃で、きちんと翠から確殺を取ったからだった。

 やられた――。ダウンした翠は、きちんとシールドを張りながら後退していたというのに、ほんの少しだけ防御範囲から漏れていた足先かなにかに被弾してしまったか。


「まじいーーーーーー?? うわごめん、あたしが落とすの時間かかったせいだーー!」

「しかたないさ。まさかキルゼムでハイドしているやつがいるなんて思わなかった」 


 キルゼムというのは、敵が使ったレア武器の名だ。特別な物資箱からしか手に入れられない、頭部なら一撃必殺で敵を倒せる狙撃武器だ。


「さいあく、足ひっぱられただけなんだけど!」


 チェリーの石像から生体コアを引き抜いて、赤城さんは悪態をついた。

 たしかに、俺もムカついていた。なぜなら、敵の行為は勝つために最適な行為ではなかったからだ。ひとりだけになってしまい隠れていたのはいいが、さっきのタイミングで発砲してしまえば、どのみち今のようにやられてしまう。

 ここでたった1キルを取るよりも、順位を伸ばしてポイントを稼ぐほうが見込みがあっただろうに。


「ごめん。わたしが油断していたから」

「や、翠ぴのせいじゃないよ。あれ、だれでもやられる災害みたいなもんだから! それより、ちょっと作戦を変えないとねー……」


 思案顔になった赤城さんと俺は、その場でインスタントな会議をおこなった。

 結局、そのマッチは3位で幕を閉じることになった。理由は、単純に一枚欠けてしまったことでもあるし、俺たちが翠のスキル頼みの構成をしているせいでもあった。


「やー、惜しかったなぁー、ごめーーん!」


 赤城さんは、毎回全部が自分のせいかのように謝る。それも、IGLという重要なポジションを任されているという自負のせいか。


「これは1位取れたねー。やー、ほんとおっしい」

「だが、ぜんぜん悲観する結果じゃない。部隊としてのキル数は7だから、かなり好調な滑り出しだ。次の試合も、この感じを保とう」

「ん、そだね。じゃ、次もがんばろーー!」


 気を取り直しての次のマッチに、俺たちはエントリーした。

 このとき、俺は内心かなり安堵した気持ちでいた。

 普通に動けて、普通にやれそうだったからだ。最終ラウンドを迎える前にあれだけ部隊が減るということは、思ったよりも手練れが少ないことを意味する。


 ——いけるぞ、電甲杯本戦


 もちろん気が抜けたというわけではなく、次のマッチも、俺は真剣にプレイした。

 そして、当然の事実に気づくことになる。第1試合は、どのチームも緊張のなかでプレイしており、普段どおりの実力が出せていなかったこと。

 そして、LC学園高等学校は――全国から粒ぞろいのゲーマーたちが集まっているということを。



     *



 予選開始から3時間以上が経過して、1時間のインターバルに入った。半日かかる予選の、昼休憩ということだ。

 俺たちチームの状況はというと――。


「……なにがよくないんだろ。キャラ構成? それともあたしのムーブに問題があるか。こんだけ外ムーブが多いとリング外郭を取っているときにリスクが大きいのは間違いないけど、でも構成的に最適解なのはあってるはず。てか、どうしてこんなに外ムーブ多いんだろ、メタの逆じゃん、変だよ……」


 メディア棟のラウンジにて。

 アセロラジュースを片手に机に突っ伏して、ぶつぶつとひとりごとを言う赤城さん。

 黙々とサンドイッチを食べ進む翠。

 そして、どうすればいいのかわからずに右往左往する俺、という構図だった。 


 これまでの戦績は、こうだ。


 第2試合、7位、1キル。

 第3試合、3位、1キル。

 第4試合、16位、0キル。

 第5試合、7位、2キル。


 現時点の総合順位、8位。


 そう――予選の50%を過ぎたこの段階で、俺たちは窮地に立たされていた。

 現状は、平均からすればずっと上のポジションにいる。

 ただし、上位とのポイント差がどんどん無視できない開きになっていた。


 現在トップ3のチームは、正直いってかなり圧倒的なスコアだ。暫定1位のse1enのチームなどは、すでに5試合中3試合もチャンピオンを取っている。

 キル数も申し分なく、正直盤石の位置だ。

 それに対して、俺たちのチームはまだチャンピオンを取れていない。

 なんだかんだでマッチ1位を取らなければ、獲得ポイント的に厳しくなるのは当初からわかっていたことだ。だから、10試合中2試合はチャンピオンを取りたいね、という話を赤城さんとはしていた。

 にもかかわらず、結果は出せていない。

 最終ラウンドに絡めるような立ち回りはできているが、1位を取れるような争いにはあと一歩のところで届いていないというのが、現状だ。


 なにより、第4試合の16位が痛手だった。キルも0で、俺たちはあのマッチではただの1ポイントも獲得できなかった。

 わずかでも得点できれば精神的にもラクなのだが、どうしたって不慮の事故は起きてしまうゲーム性だ。

 実際、あのマッチにもたいした反省点はなかった。マップを移動中、とあるキャラクターのスキルで空をダイブしていたチームの降下とドンピシャでかぶってしまい、物資が足りていないなかの突然のファイトで負けてしまったのだった。


 ——なのだが。

 これまでの付き合いでわかったことだが、赤城さんは自分が悪くない負け方をしてしまったときでも、過度に考えこんでしまう性質があるようだった。


「——やっぱ第1試合だ、あれ取んなきゃやばかったかなあ。あと第3、あれもあたしの悪いとこ出てたなぁ。視野狭いんだよなぁ、あたし。なんでこうヘタなんだろ、ばかばか、ほんとにもう」


 赤城さんは自分の頭をわしゃわしゃと掻いた。

 われ関せずという様相でいた翠は、赤城さんに横目をやると、次に俺をみて、くちの動きだけでこう告げた。


 だめになってる。


 ……どうやら、そのようだな。

 だが、理解できることだ。どうしても優勝したい大会の出場切符をかけたこの戦い、上位5チームに入るくらいは難しくないと息を巻き、実際に個人の実力でいえばまちがいなくトップ3には入るというのに、現実がついてきていないのだ。

 落ち込みたくもなるだろう。

 声をかけねば。委員長として――。


「その、赤城さん……」

「——ごめん、へらってた」


 俺が励ます前に、赤城さんはむくりと顔を上げた。そのまま、頬をぺしゃりと叩く。


「これもあたしのよくないとこなんだよね。負けるとメンヘラになっちゃう。まだあと半分も残ってるのに、あと半分しかないって思っちゃうんだよね。よくないよね」

「まあ、俺もどちらかといえばそう考えてしまうほうだが……」

「いいんちょくんも? あは、似た者同士だー」


 いかにも無理して笑い、赤城さんは席を立った。


「あたし、顔洗ってくるね! 次のマッチ、三十分後だよね? ちょっとバカ頭冷やしてくんね。戻ってきたら生まれ変わってるから、期待して待ってて!」


 アセロラジュースをちゅごーと飲み干して、赤城さんは廊下の向こうにたったかと走っていってしまった。

 廊下は走らない、という校則一条の注意喚起をする間もなく消えてしまう。

 その後姿を見送った俺と翠は、顔を見合わせた。


「あれはたぶん、トイレでもっと落ち込む」

「……だな」


 赤城さんといえば底抜けに明るい女子というイメージだったが、こうした競技でチームを組むと、知らなかった一面も目に映るようになるものらしい。


「それにしてもクマのサンドイッチは最高」


 翠は食べ終わると、満足げにそう言った。

 そのとおり、このサンドイッチは俺が作ったものだった。今朝、自分の朝飯兼昼飯用に作ったものの余分を持ってきていた。

 翠は気に入ってくれているようで、たまに与えると喜んでもらえる。


 ちなみに、念のため赤城さんのぶんも持ってきていたのだが、丁重にお断りされていた。いわく、大会がある日は食べないらしい。集中力が落ちるのだそうだ。


「赤城さんが食べなかったら、まだあるぞ」

「残念。食べたいのにおなかがいっぱい。お持ち帰りとさせてもらう」

「それでも構わないが、持つかな、夏場だし。まあ、冷蔵庫にでも入れておけば平気か」

「なら、わたしが部室の冷蔵庫に入れておく。すぐに戻る」


 嬉しそうに口元をわずか緩めてタッパーを持つ翠に、俺はたずねた。


「翠は、変わらず平常心なんだな」

「大会のこと? わたしは、練習で要求されていたことはできているつもり。なら、それ以上のことは考えてもしかたない」

「……そのとおりだな。やっぱり、翠は賢いな」


 ひとりになって、俺は腕を組んで考えた。

 準備しただけのことができていれば、結果を受け止めることができる。翠の言っていることは、いつだって正しい。

 では、俺はどうなのだろうか。

 ここ最近努力していただけの練習内容が、きちんと出せているのだろうか。


 後半のマッチ、このままでは勝てないのではないか――。


 そんな不安な考えが胸に去来したが、どうにか無視して、俺はテーブルの片づけをはじめた。

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