第2話 出生直後の超成熟
何度も、何度も。生まれては、眠り。目を覚ましては、再び生まれる。
最初は、ただ泣くことしかできなかった。
目を開けられてもわずか。隙間からぼんやりとした光が見えるだけ。耳に届く声も、意味の分からない音でしかなかった。
けれど、繰り返すうちに、少しずつ変化が現れた。
声が聞こえると、そちらへ顔を向けられる。
目の前で動くものを、目で追いかける。
手足を動かし、周囲の感触をかすかに感じられるようになっていた。
言葉の意味は分からない。
目に映るものが何なのかも、理解できない。
それでも、以前より少しだけ、外の世界に順応できるようになっていた。
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生まれたばかりの身体が、温かなタオルに包まれた。
濡れた肌を拭われる。
背中をさすられる。
小さな身体に、次々と触れる感覚があった。
「……泣かないわね」
「呼吸を確認して。刺激を続けましょう」
背中をさすられる感触が続く。
それでも、喉から声は出なかった。
「先生、呼吸がありません!」
『■ま■■だ泣■■くな』
「心拍を確認して! 人工呼吸の準備を!」
周囲の声が、一気に慌ただしくなる。
その合間に、聞き覚えのない声が混ざった。
身体を支えられる。背中をさすられる。
何かを顔に当てられ、口元を覆われる。
「マスクを密着させて!」
「はい!」
シュッ、シュッ、と空気が送り込まれる音がした。
「胸の上がりを確認!」
『まだ■■■■だ■■』
「上がりが弱いです!」
「マスクの密着を調整して。換気を続けて!」
大人たちの声が、次々と耳に飛び込んでくる。
身体に触れる感覚も、顔を覆うものの感触も、何が起きているのか分からない。
「いち、に、さん!」
「胸の上がりを確認して!」
「まだ弱いです!」
背中をさすられ、身体が揺れる。
小さな背中に、刺激を与える手が触れた。
『■■■今■■■だ!』
頭の中に、突き刺さるような大声が響いた。
パンッ!
軽く振りかぶった手が背中に当たり、刺激が走る。
それと同時に、耳をつんざくような声が重なった。
びくり、と身体が跳ねる。
突然の刺激と大きな声に驚き、口が大きく開いた。
そして――。
「おぎゃああああっ!」
小さな産声が、部屋いっぱいに響いた。
「泣きました!」
「自発呼吸を確認して!」
「呼吸が安定しています!」
周囲の声が慌ただしく行き交う。
張り詰めていた空気の中に、安堵の色が広がっていった。
「よかった……本当に、よかった……」
母親の声は、安堵に震えていた。
「頑張ったな……よく頑張った……!」
父親の声も、どこか震えていた。
やがて、温かな腕に抱き上げられる。
柔らかな感触に包まれ、すぐそばから優しい声が聞こえた。
「あなた……この子、本当に頑張ってくれたのね」
「ああ……。君も、この子も、本当によく頑張った。よかった……本当によかった」
「永遠……生まれてきてくれて、ありがとう」
額に、柔らかなものが触れた。
頬に伝わる温もり。すぐそばから聞こえる、優しい声。
顔を見たいのに、もう目を開けていられない。
「ゆっくり休ませてあげよう。きっと、疲れたんだ」
「そうね……。おやすみ、永遠」
身体を包む温もりが心地よい。
声も、音も、少しずつ遠ざかっていく。
私は温かな腕の中で、静かに眠りについた。




