第3話
「この村は魔王の呪いに冒されている」
ユーリの話はにわかには信じ難い言葉から始まった。
「呪い? だって魔王は8年前に……」
「ああ、そうだ。今や子どもだって知っていることだ」
「それなら今さら呪いなんて残ってるはずがないと思うけど……」
私の言葉に部屋の明かりがわずかに揺らぐ。
コモンギフトで作られた照明はロウソクと違って本来揺らぐことはない。しかしそれでは味気ないと、照明のオリジンギフトを作った人はロウソクのような揺らぎをギフトに組み込んだ。
そしてそれを解析した学者は、その揺らぎをそのままコモンギフトに組み込んだのだろう。おかげで照明のコモンギフトは術者の感情につられて照明の揺らぎ方が変わる。
今、部屋の明かりはわずかに暗くなった。それが彼の感情を表しているということになる。
「かの魔王の二つ名は覚えているかい?」
「ああ、それこそ子どもでも習うことだ。確か時を統べる魔王と……」
「そう、あれは時を統べる魔王。討たれてもなお、その呪いは時を超えて今でも続いてるんだ」
魔王がなぜそう名乗ったのかは誰も知らない。
私が生まれた頃にはすでにこの世界にそう名乗っていたから、誰もそれを深く知ろうとはしなかった。
もしかしたら当時の学者にそれを研究するものもいたかもしれないが、魔王がいたころは冒険者に就くものが圧倒的に多かった。記録がないということは、特に研究されてなかったということなのだろう。
「それは……どんな呪いなんだ? なぜこの村が呪われてるんだ?」
語り始めるときにユーリが言ったとおり、私はすでに彼の話を信じ始めていた。しかしそれでも私は研究者だ。その真偽を確認するためにはまずは材料がいる。この場合の材料とは、すなわち情報だ。
魔王の呪い——。
聞くからに恐ろしいそれはいったいどんなものか。
なぜこの村が呪われたのか。
「この村は静かで目立たない村だけど、1つだけ世界で誇れるものがあるんだ。分かるかい?」
「……いや、済まないが……」
「いや、無理もないよ。世界を支える裏方なんてそんなものだからね」
この村が世界で誇れるもの?
ユーリには申し訳ないけど聞いたことがない。私が浅学なだけかもしれないが、この村のことはユーリから手紙をもらうまでは存在自体知らなかったのだ。
「それはね、この村の付近で採れる鉱石だ」
「鉱石?」
「そうなんだ。この辺りの土地は特にエーテルを多く含むわけでもないのに、なぜかこの付近の鉱石でないと作れないものがあるんだ」
私はその話に少しだけ興味を惹かれる。
対象が鉱石であろうと、自然環境から採取できるものという点においては私の研究と近しいものであったからだ。
この付近で採れる鉱石でしか作れないものがあるならば、その他のものにも似たようなもの特徴があるのかもしれない。私の研究欲は今の言葉だけでも大いに刺激されていた。
脳内でそんなことを思い描いていると、そんな私の様子を察したのだろうか。彼はコホンと咳払いをする。
「ああ、すまない。君の話が私の研究にも大いに役立ちそうだと思い、ついあれこれ想像してしまったよ」
「いや、構わないよ。君はいつもそうだったからからね」
そう言って優しく微笑むと、冷めてしまったティーを一気に飲み干す。
いつものこと——彼はなぜ私のことをそう評するのだろうか?
再び疑問が首をもたげ、その真意を解くべく彼に質問投げかけようと口を開きかけるが、元々は彼に疑問を投げかけてから始まった話だ。最後まで聞けばきっとそこに答えがあるのだろう。疑問を投げかけるのはそれからでも遅くはない。
私は疑問を口にするのは辞め、彼に話の続きを促すことにする。
「そうそう、それでその鉱石だけど、それを使って作られた武具にはなぜか強大な魔を祓う力が宿るんだ」
「祓う……?」
ユーリの口から出てきたのは聞いたことのない言葉だったが、なにか特別な力が宿るということは分かる。
「えっと、分かりやすく言えば、魔王をはじめとする魔に属するものを消し去る力だ」
「消し去る……とは?」
「言葉のとおりだよ。この村で作られた武具は魔に属するものを消し去る力が宿る。同じ武具職人が同じ製法で作っても、この村で採れた鉱石でしかそれは作れないんだ」
ユーリの言うことが本当ならば、人類は魔に対して優位なんて言葉では生易しいほどの強大な力を得ることになる。
いったいどういう原理でそうなるのか。
恐らくユーリはそれを研究しているのだろう。
私も明日にはその鉱石が採れる場所に連れて行ってもらおう。ぜひともこの目で鉱石が採れる場所を見てみたい。
「この村の鉱石でないと作れないもの、それはつまり魔に消し去る武具なんだ」
「なるほど、そんなものがあるなら魔王はひとたまりもないなかったんだろうね」
「うん、そうなんだ。だからこそ——この村は呪われたんだ」
魔王がこの村に呪いをかけた理由はなんとなく分かった気がする。でもなぜ討たれたのに呪いをかけたのだろう。
私はここからが話の本題であることを悟った。




