第2話
「さすがにこの時間では起きてないだろうな」
私は使っていたギフトを解除しながらそう呟く。夜通し歩き続け、ようやく村に着いたのは月が頭上に上がりきった頃だった。
手紙で指定されていた日が今日だったので、それに間に合わせるべくギフトを駆使して夜道を歩いてきた。それがユーリからの希望——夜中になってもいいからこの日までに村に来てほしい——だったからだ。
まだ月が傾いていないので日付は変わっていないはずだが、さすがに村は寝静まっている。
魔王が健在の頃であれば、村の入口に見張りの夜営などがいただろうが、平和な世になりそのような習慣もすっかり減っていた。
野盗などが現れる地域では今でもそれなりに警戒態勢を続けているであろうが、ここは周辺には他に集落がない辺境ともいえる場所。野盗としても、わざわざここを襲いに来るには効率が悪すぎると判断しているのだろう。
私は村の入口に着くと、それを予期していたかのように、目の前から若い男が歩いてきた。
「やあ、待ってたよ。今回もいろいろ教えておくれ」
それユーリの最初の言葉だった。
***
「はじめまして。私はノラ=ノーマン。第2級学者だ。さまざまな採取物から新しいアイテムを作り上げる研究をしている」
ユーリの言葉に引っかかりを覚えはしたが、夜中に外で話し込むのもなんだからと彼の家に招かれた。私はそれを丁重に断り、どこかに宿がないかを尋ねたが、この時間から宿に入るのは難しいとのことだったので、彼の申し出を受けることにした。
照明のコモンギフトで照らされた彼の部屋は、仕事をしていると思われるデスクの周囲こそさまざまなものが乱雑に置かれているものの、部屋自体はとても綺麗に整頓されていた。
私は招かれるまま、私のために用意されていたと思われる椅子に腰をかけると、彼が出してくれたティーをすする。
ユーリは私の前に座ると、自分もティーを飲みながら、私がティーをすする様子をニコニコと眺めている。
「これは……!」
「美味しいだろ? 君の好物のティーなはずだ」
私は彼の言葉にまたも引っかかりを覚える。
私は研究者だ、気になることは確認しなければ気が済まない。だからそれを確認してみることにした。
「私はユーリさんとは初対面なはずだ。なのになぜあなたは私の研究のことを知っていたんだ? それにさっきも今も、まるで私とは何回も会っているような言い方をしている。それはなぜだ?」
そう言った私の言葉に、それまで終始穏やかだった彼の顔がほんの少しだけ悲しみがにじむ。
ユーリは飲んでいたティーを置くと、デスクまでいき、乱雑に積まれていた書類の一番上に置かれていた分厚いノートを持ってくる。
「今からする話をきっと君は信じない」
「なにを……」
「しかし話が終わるころには……君は私の話を信じる」
そう言って分厚いノートを膝の上に置き、ゆっくりとその重そうな表紙を開く。
「君はいつもそうだったからな」
ここから、私は生涯忘れられない話を聞くことになる——。




