あと少し【8話】
謎の少女は一人で教会へ向かっていた。
ガッデムとがろには眠過ぎて無理と置き手紙を残してきた。まあ大丈夫でしょ。
さくさくと早足で歩いていると、ドンッと人にぶつかった。
随分重そうな甲冑を着ている。あれ?この子勇者じゃない?
「あっ、すみません!!」
「こちらこそ。大丈夫?」
「はい、私は大丈夫です…うぅっ…」
「えっそんな痛かった?ほんとごめん」
兜を腕に抱えながらボロボロと泣き出した少女に、謎の少女は困惑した。
「ちょっとそこの教会で話そっか」
「すみません…」
「大丈夫大丈夫、話せば楽になるよ?」
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勇者と別れたあと、謎の少女は祭壇の前まで歩いていった。
目の前にあるのは、この世界で信仰されている女神セラの像だった。
少女は像を見上げると、口を開いた。
「来たよ」
その瞬間、視界が白く染まった。気づけば少女は、真っ白な空間に立っていた。
しかし驚く様子はない。
少女は慣れた足取りで、そのまま前へ歩いていく。
しばらくすると、白い空間の中に建物が見えてきた。
その姿は冒険者がよく通っているような酒場だった。
少女は扉の前まで行くと、ガラガラと音を立てて扉を開けた。
「飲みすぎじゃない?」
酒場には不釣り合いなほど真っ白な女性がいた。
女神セラである。
セラはジョッキを片手に、豪快に酒をあおっていた。
「んぐ……ぷはぁ!あー!やっと来た!」
セラは嬉しそうに顔を上げた。少女はその向かいの席に座る。
「ねえ、さっき面白い話聞いたんだけど、勇者と魔王があらわれたって!」
「ふーん」
少女の目の前に、セラがジョッキをどんと置いた。少女は何のためらいもなくそれを持ち上げ、喉を潤す。
「ふーん、じゃないよ!魔王は謎ちんじゃん!!!」
「あーあ。それ爆弾発言ね」
「何があったのかくらい話してよー!」
「はいはい」
少女はジョッキを置いた。
「そういえば勇者は?」
「今日は来れないって断られちゃったあ」
「また夢でお告げしたの?」
「うん!」
「あれやめて欲しいんだよねー」
「いーじゃん!楽なんだもん!」
「だって最近毎回バリエーション変えてくるじゃん」
少女は少し呆れたように言った。
「昨日はめっちゃホラー展開だったし血糊メイクしてたし」
「あはは!何千回もやってたら、いつもの飽きちゃってさ!」
セラは楽しそうに笑った。
「てへぺろ!」
「バナナ投げるぞ」
「それよりさ!」
セラが身を乗り出す。白いシルエットがふわふわと揺れた。
「聞かせてよ!自称魔王があらわれたんでしょ?!」
「そう」
少女は頬杖をついた。
「なんか魔王が復活したって噂を聞いて、気になって会いに行ったんだよね」
「うんうん!」
「そしたら超面白くてさ」
「ほうほう」
「今、一緒に勇者から逃げる旅してるとこー」
「なにそれ!!!」
セラが机を叩いた。
「なんで私も混ぜてくれないの?!!」
「あなた一応女神でしょーが」
「けち!」
「威厳を持て、威厳を」
「だって楽しそうじゃん!」
「神様が勇者と魔王の旅についていったら駄目でしょ」
「じゃあこっそり行く!」
「もっと駄目でしょ」
セラは少し考えるように首を傾げた。
「でもさ、信者達が『魔王がついに復活した!勇者様ご一行に女神様のご加護を!』とか言ってたから、謎ちんがまた表舞台に戻るのかと思ったよ」
「そんなめんどくさいことするわけないじゃん」
「だよねー!」
セラはケラケラ笑いながら、またジョッキをあおった。
「勇者の方も自称なの?」
「や、あっちは不本意らしいよ」
「なにそれ!」
「なんか白髪の三つ編みだから、偶然勇者に間違えられて、そのまま周りの勘違いが加速したっぽい」
「あはは!」
セラは腹を抱えて笑った。
「それ、あの子が聞いたらめっちゃ笑うと思う」
「それがさ」
少女はジョッキを傾ける。
「今、一緒にいるらしいんだよね。」
「まじー?!」
セラが目を輝かせた。
「あの子らしいわ!」
「そうだね」
「ほっとけなかったんだろうねー」
「たぶんね」
少女は小さく笑った。世界平和まで、あと少し。




