無理です【9話】
「勇者様、お食事はいかがでしょうか?」
「司祭様! とても美味しかったです! ありがとうございます。改めまして、でぃんと申します」
「これはご丁寧に、私はアロワナと申します。お食事を楽しんでいただけたなら幸いです」
にこにこと笑う司祭アロワナに、でぃんはおずおずと聞いた。
「あの、司祭様、お聞きしたいことがあって……」
「なんでしょう?」
「勇者と魔王の伝説について詳しく知らないので、教えてもらえませんか?」
「もちろんです。では少し移動しましょうか」
礼拝堂に移動し、アロワナに促されでぃんは長椅子に腰掛けた。
アロワナは祭壇の前に立ち、話し始めた。
「千年前、世を混沌に染めようとする魔王と、それを阻止しようとした勇者がいました。二人の戦いは熾烈を極め、魔王が優勢でした。不憫に思った女神は勇者に加護を授け、その力を使って魔王を打ち倒し、世界が平和になった……というのが、一般的に語られている伝説です」
「一般的……?事実は違うんですか……?」
「……ええ。事実は少し異なります。そもそも勇者が魔王を倒して世界が平和になったというのは、人間側の勝手な解釈なのです。実際は魔王と勇者が手を組み、光と闇をうまく分けて平和になった……というのが正しい伝説ですね」
「手を、組んだ……?」
でぃんは思わず聞き返した。
「じゃ、じゃあ、次代の魔王の復活を阻止するために毎年選ばれていた勇者って……」
「魔王という絶対悪に立ち向かうため、形式的に、あくまで象徴として勇者を立てるのです」
「そうだったんですか……」
でぃんは呆然とした。
「あの、私はこの髪のせいで勇者に間違われているんです。伝説の勇者様も私と同じ髪だったんでしょうか?」
「白髪に三つ編み。確かに伝説の中の勇者もそうでした。もとより神に愛されている者は白髪が多いとされています。きっと、でぃんさんもセラ様に愛されているのでしょう」
「……なるほど」
でぃんは自分の三つ編みに触れた。
(髪のせいで勇者に間違われたうえに、神様に愛されているだなんて信じられない……)
どうやら、自分の意思とは関係なく勇者という役目から逃れられなくなっているらしい。
「女神教では古より光があるから闇が存在し、闇があるから光は輝く。どちらも欠けてはならず、永遠に均衡を保たねば世界は崩壊する、と教えられています。これは勇者と魔王の対立のことと言えるでしょう」
「つまり、魔王と勇者の戦い、という概念が世界平和ってことですか……?」
でぃんは全く知らなかった事実を聞いて、目を白黒させた。
アロワナは微笑んだ。
「ええ。そういうことになります。片方しか存在しなければ無秩序となり世界は崩壊するでしょう。
でぃんさん。あなたが勇者に選ばれたのは女神セラの意思であり、運命でしょう。我々女神教はいつでもあなたを手助けし、見守っています」
「そんな……運命だなんて……私は……っ」
でぃんは言葉に詰まった。
「私には無理です!」
でぃんは教会を飛び出した。
「きゅっ?!」
灰色の毛玉は置いて行かれたことに気づいたが、追いかけはしなかった。
「おやおや、行ってしまわれましたか。」
アロワナは毛玉に歩み寄り、両手で小さな体をすくい上げた。
「…こうして会うのは約三百年ぶりですね、伝説の勇者様」
「きゅっ!」
一部表記を変更しました。




