帰りたい【6話】
勇者は困っていた。
先輩冒険者とはぐれてしまい、途方に暮れていたらしい新人冒険者二人に泣き付かれたのだ。
話を聞けば、先輩冒険者は逃げ出した魔物を追って森の奥へ消えていったらしい。
「こちらの方角です!」
新人冒険者が指差した方向へ、でぃんたちは向かうことにした。
しばらく森を進むと、巨大な狼のような魔物の死体が転がっていた。
「……これは」
でぃんはおそるおそる魔物へ近付く。
身体には大きな傷がいくつも残っているが、頭部だけが妙に陥没していた。
「鈍器のようなもので撲殺されています。これも魔王の仕業でしょうか」
「さすが勇者様!そんなことも見抜いてしまうとは!」
「い、いえ……誰が見てもわかることだと思います…」
でぃんは改めて周りの戦闘痕を見た。足跡は三人分。
魔王と冒険者と……もう一人。
「しかし、なぜ魔王が魔物を殺すのでしょう……はぐれた冒険者は攫われたんでしょうか。」
「分かりません。ここを抜けると街に出るようです。我々も追いましょう勇者様」
「そうですね。行ってみましょう」
王都で魔王に遭遇し、そのまま追ってきたため、物資もすっかり底をついていた。食料も必要だし、旅に必要な道具も買わなければならない。
新人冒険者二人を魔王討伐に連れていくわけにもいかず、護衛の一人に任せて王都まで送り届けてもらうことにした。
そして再び森を進む。しばらく歩くと、ようやく街が見えてきた。
(やっと休める……)
シャワーを浴びたい。暖かいお布団で寝たい。もう帰りたい。
街へ入ると、護衛たちはすぐに物資の補充へ向かうことになった。
「勇者様はご自由に街を見て回ってください!買い物は我々にお任せを!」
「そう言われましても……」
でぃんは財布の中を確認する。
入っているのは、ほんの少しのお金だけだった。
「これじゃ何も買えないよ……」
結局、でぃんは毛玉と一緒に、とぼとぼと街の中を歩いていた。
少し歩くと、立派な教会がある場所へたどり着いた。
「……そうだ」
でぃんは足を止める。
「女神様にお願いしよう」
もう帰りたい。勇者なんてやりたくない。
教会の中へ入ると、誰もいなかった。
しんと静まり返った礼拝堂には、ステンドグラスから差し込む光がきらきらと輝いている。
とても神秘的だった。
でぃんは兜を脱いで女神像の前へ跪いた。
「女神様!どうか、どうか私を家に帰してください。勇者なんてやりたくありません」
それから、どれくらい祈り続けていただろうか。
「きゅっ」
毛玉の鳴き声で、でぃんははっと我に返った。
「きゅきゅっ!」
「そうだね毛玉ちゃん。そろそろ行こっか」
その時だった。
ガチャ。
教会の扉が開き、司祭の格好をした男が入ってきた。
「おや、その白銀の鎧に白髪の三つ編み……勇者様ではありませんか」
「ひぇっ、なんで分かるんですか?!」
「伝説の勇者様も白銀の鎧を身にまとっていたと言われております。すぐ分かりましたよ」
朗らかに笑う司祭に、でぃんは少しだけ警戒心を解いた。
「よろしければ勇者様、教会で昼食をお召し上がりになっていきませんか?」
ぐう。
静かな教会に、腹の音が響いた。
「ははは。豪華ではありませんが、この街の特産品である芋を使った料理がとても美味しいんですよ」
「はい、ぜひ……お願いします」
(ひゃあああ恥ずかしいいい……!)
教会の食堂へ案内され、でぃんは出された料理をひたすら食べた。このコロッケ美味しい。
毛玉は司祭からもらった木の実をかじっている。
(かわいい……)
もぐもぐと食べながら、でぃんはふと思った。
「そういえば私、勇者の伝説について詳しく知らない……司祭様に聞けば何か分かるかな」
「きゅっ」
「帰る前に聞いてみよっか」
毛玉はもう一度「きゅっ」と鳴き、木の実をかじった。




