勘弁してください【4話】
ガッデムが王都から逃げ出したその頃。勇者一行もまた、魔王を追って王都を出ていた。
「勇者様!魔王は街道を外れたようです!」
「そうなんですか?」
「はい!おそらく、人目につかない場所へ逃げ込んだものと思われます!」
「それなら……森でしょうか」
「さすが勇者様!魔王の逃走経路までお見通しとは!」
「いえ、そこまででは……」
(お願いだから少しは私の話を聞いて欲しい)
森へ入ったところで魔物が飛び出してくる。この魔物はこれまでより明らかに強かった。
「勇者様!前方に魔物です!」
「……多いですね」
「しかも強い……!これも魔王復活の影響でしょうか……」
「そうかもしれません。皆さん気を付けてください」
「承知しました、勇者様!」
激しい戦いの末、なんとか魔物を退けた一行は日が暮れ始めた森で夜営の準備を始めた。
「勇者様、薪をお願いできますか?」
「はい。では拾ってきますね」
でぃんが一人で薪を拾っていると、足元の茂みが小さく揺れた。
「……?」
覗き込むと、そこには小さな灰色の生き物がいた。丸い体にふわふわの毛。
「きゅ?」
「…………かわいい」
小さな生き物は逃げるどころか、でぃんの足元へ近付いてきた。
「人懐っこいんですね」
しゃがみ込むと、そのまま膝の上へ乗ってくる。
「ふふ……。毛玉ちゃんって呼んでもいいですか?」
「きゅ」
「ふふ、かわいい」
動物好きのでぃんはすっかり気に入ってしまった。
「そろそろ戻らないと。毛玉ちゃんも一緒に行きますか?」
「きゅ」
毛玉は当然のように、でぃんの肩へ乗った。
夜営地へ戻ると仲間たちが出迎えた。
「勇者様!お帰りなさいませ!」
「こんなに薪を……!さすが勇者様!」
「いえ、拾ってきただけです…」
「しかも小さな魔物まで手懐けておられる!」
「魔物じゃなくて、毛玉ちゃんです」
「さすが勇者様!魔物すら従えるとは!」
「……魔物じゃないと思います」
その夜、でぃんは毛玉を抱いて眠った。
(明日になったら、全部終わっていればいいのに……)
翌朝、一行が森を進み始めてすぐのことだった。
「勇者様!前方に魔物の群れです!」
「えっ」
昨日と同じように魔物たちが一斉に襲いかかってくる。
──しかし。
「……あれ?」
でぃんは一体の魔物を斬り伏せた。昨日よりもずっと弱い。
「なんだか……昨日より弱くないですか?」
「勇者様がさらに強くなられたのです!」
「一晩でそんな急には……」
「さすが勇者様!」
不思議に思いながらそのまま進んでいく。昨日苦戦していた魔物たちは今日は妙にあっさり倒れていった。
その足元を毛玉が楽しそうに走り回っている。
そして最後の魔物を倒したとき、地面が大きく揺れた。
森の奥から巨大な魔物がこちらに向かっていた。
「勇者様!恐らく群れのボスです!」
「……怖いです」
「勇者様なら大丈夫です!」
「無理です!勘弁してください……!」
巨大な魔物が襲いかかる。でぃんは必死に攻撃をかわし仲間たちも援護する。しかし、魔物は強かった。
「くっ……!」
その瞬間、死角から爪が迫る。
「勇者様!」
でぃんが振り返る。間に合わない。
「きゅっ!」
ドゴッ!
小さな毛玉が飛び出し、魔物の顔面へ頭突きをくらわせた。
「グオッ……!」
巨大な魔物が地面へ崩れ落ちる。
「…………え?」
でぃんは何が起きたか分からなかった。足元には何事もなかったような顔の毛玉がこちらを見上げていた。
「きゅ」
「勇者様!」
「お見事です!」
「勇者様が一撃で仕留められた!」
「勇者様万歳!」
「えっ?」
でぃんは慌てて毛玉を見る。どうやら仲間たちは毛玉の頭突きを見ていないらしい。
「いや、今のは……」
「さすが女神様の加護を授かった勇者様ですね!」
「…………」
「これほどの魔物を一撃で倒されるとは!」
「勇者様!万歳!」
でぃんはそっと毛玉を抱き上げた。
「きゅ」
毛玉は嬉しそうに腕の中で丸くなる。
でぃんは小さく笑った。
(女神様、ほんと無理です。勘弁してください……)
頑張れ勇者でぃん




