勘弁して【3話】
王都から逃げ出した二人は、ひとまず街道を外れ、日が暮れる前に人目につかない森を目指していた。
「とにかく、人目のつかない場所を歩きたい」
「そうだね。勇者一行も追いかけてくるだろうし」
「…………」
ガッデムはちらりと隣を見る。
当然のようについてきている謎の少女。
(なんでこいつついてくるんだよ。俺は魔王だ。魔王ともあろうものが、女一人に「ついてくるな」と懇願するわけにはいかない……)
「………ついてくるな!」
「えー、そう言われてもついてくって言ったじゃん」
「ええい、我輩は魔王だぞ!」
「わかったわかった」
少女はくすくすと笑った。
(全然わかってない……)
「別に邪魔しないし、メリットもあると思うよ?」
「どんなメリットだ!」
「んー……これから遭遇するであろう魔物が弱体化するとか?」
「……魔王が魔物に襲われるわけないだろう」
「えー?どうなんだろ」
少女は楽しそうに笑う。ガッデムは頭を抱えた。
(頼むから余計なことを言わないでくれ。今の俺は勇者一行から逃げてる最中なんだぞ)
その直後、ガサッと茂みが揺れた。
「………まさか…」
「グオオオオッ!」
森の奥から魔物が数匹飛び出してきた。
「…………なぜだ!」
ガッデムは再び頭を抱えた。
(なんで本当に出てくるんだよ!)
「ほら、私の言った通りじゃん」
「嬉しそうにするな!」
魔物が唸り声を上げながら迫ってくる。
(どうする。俺は魔王だ。ここで逃げたら威厳が死ぬ。)
ガッデムは覚悟を決め、自前の杖を取り出した。
(俺は今まで冒険者をやってきた男だ。この程度の魔物、俺の手にかかればちょちょいのちょいだ!)
「へー、どんな魔法を見せてくれるの?」
「ふん。今に見ていろ」
(魔法だ。華麗な魔法で一撃だ。炎か雷か……)
刹那、魔物が飛びかかってきた。
「ぬおおおおおっ!」
ドゴッ!
「ギャッ!」
バキッ!
「グゲッ!」
ボコッ!
「グオッ……!」
数秒後。魔物は地面に伸びていた。
「…………」
ガッデムは杖を肩に担ぐ。
「どうだ」
(……よし。倒した。勝った。問題ない)
少女は倒れた魔物と杖を見比べる。
そして──
「物理じゃん!」
少女は腹を抱えて笑い転げた。
「魔法じゃないじゃん!杖で殴っただけじゃん!」
「うるさい!」
「魔王なのに!」
「我輩は魔王だ!」
「魔法使わないのに?」
「杖を持っているだろう!」
「その杖鈍器じゃん!」
「うるさーい!」
笑い続ける少女。
ガッデムはこめかみを押さえた。
(……勘弁してくれ)
ようやく少女が笑いを収めた、そのとき。
「で、これからどうするの?」
「どうする、とは?」
「追手から逃げないとでしょ?」
「…………」
そうだった。王都から逃げてきた。勇者たちにも追われている。魔王を名乗ってしまった以上、今さら戻るわけにもいかない。
そして──隣には、勝手についてきた謎の少女。
(……俺、これからどうすれば?)
ガッデムは空を仰いだ。日が傾き始めている。
「……とりあえず、森で夜を越す」
「じゃあ、寝る場所探さなきゃね」
「そうだな」
二人は再び歩き始めた。
その直後。
ガサッ。
「…………」
二人の前で、茂みが揺れた。ガッデムの足が止まる。
「また魔物かな?」
少女が楽しそうに覗き込む。ガッデムはゆっくりと杖を構えた。
「…………」
茂みから、小さなウサギが飛び出してきた。
「…………」
(神様お願いします、勘弁してください)
次は勇者サイドです。




