頼むから【13話】
翌朝、宿の一室にがろの怒号が響いた。
「ガッデムさん!起きてください!!」
「んん……あと五年……」
「長すぎるわ!!」
がろは毛布を引っぺがし、ガッデムの肩を揺さぶった。昨夜あれだけ飲んだせいか、当の本人は頭を抱えてうめいている。
「うぅ……頭痛い……昨日なんかした……?」
「ええしましたよ!酒場で酔っ払って、出発しなきゃいけないって言っても全然聞かないし!」
「えぇ……我輩そんなことしたの……?」
「いいから起きてください!勇者が来てるんですよ!」
その言葉を聞いた瞬間、ガッデムの目はぱっちりと開いた。
「……えっ!?もう来てるの!?」
「昨日からそう言ってるでしょうが!!」
それからの準備は慌ただしかった。がろが荷物をまとめ、ガッデムは着替えを済ませ、忘れ物がないか確認する。ガッデムは二日酔いの頭を押さえながら、半分寝ぼけた状態で部屋を右往左往していた。
「財布持ちました!?」
「持った!」
「杖は!?」
「持った!」
「着替えは!?」
「……着替え?」
「もういいです!行きますよ!!」
なんとか宿を出たところで、謎の少女がひょいと顔を覗かせた。
「そうだ、魔王城に行こう」
「……はい?」
がろが間の抜けた声を出した。
「魔王城、跡地だけどね。あそこなら身を隠すにも都合がいいんじゃない?」
「いやいやいや!魔王城って、あの伝説の魔王城ですか!?」
「他にどこの魔王城があるのさ」
謎の少女はあっけらかんと言い放った。
「……待て。魔王城って、今もあるのか?」
ガッデムがおそるおそる尋ねると、謎の少女は首を傾げた。
「あるよ。正確には跡地だけど」
(魔王城……!なんか響きがいい!いや待て。俺、魔王名乗ってるのに魔王城の場所知らないんだけど!?)
ガッデムは一瞬だけ魔王らしい威厳に心を躍らせたものの、すぐに現実へ引き戻された。
「でも、魔王城ってことは……遠いのか?」
「うん。めっちゃ遠いよ」
「めっちゃ……?」
「めっちゃ」
謎の少女は笑顔で頷いた。
「いやちょっと待ってください!どうやって行くんですか!?そんな遠い場所に徒歩で行くつもりですか!?」
がろの疑問に、謎の少女は少し考えるような仕草を見せた。
「うーん……そうだねぇ」
そして、何かを思いついたように顔を上げた。
「とりあえず、人目につかない森に戻ろうか」
「……え?森?」
困惑する二人をよそに、謎の少女はさっさと歩き始めた。
街を離れ、とりあえず人目につかない森へと戻ってきた。
謎の少女は周囲を見回すと、突然指笛を吹いた。
ピィーッ!
すると、頭上に巨大な影がかかった。
バサバサバサッ!
木々の葉が激しく揺れ、風が巻き起こる。やがて目の前に降り立ったのは、巨大で丸っこい鳥だった。
「……でっか」
がろが呆然と見上げる。
謎の少女は慣れた様子で鳥に近付くと、その体をぽんぽんと叩いた。
「じょっぴー、魔王城までお願いね」
「ぴぃ!」
じょっぴーと呼ばれた鳥は、嬉しそうに鳴いた。
「えっ、ちょっと待ってください!これに乗るんですか!?」
「うん。歩くより早いでしょ?」
「いや、それはそうですけど……!」
がろが戸惑う一方、ガッデムはぽかんと巨大な鳥を見上げていた。
(すご……こんな鳥いるんだ……そして魔王城に行くのにも人の手を借りるのか…仮にも魔王名乗ってるのに…。)
「ほら、二人とも。早く乗って!」
謎の少女はひょいと鳥の背に飛び乗った。がろも恐る恐る続き、最後にガッデムがよじ登る。
(落ちたら死ぬよな、これ……。いや魔王たるもの、こんなところで怖気づいてはいけない!)
「よし!出発だ!」
ガッデムは精一杯の威厳を込めて宣言した。
じょっぴーは大きな翼を広げ、勢いよく羽ばたいた。
「うわあああああっ!?」
森の木々がみるみる小さくなっていく。
(怖い怖い怖い!思ったより高い!誰か助けて!!)
「ガッデムさん、しっかり掴まってくださいよ!」
「わ、わかっている!我輩を誰だと思っているのだ!」
(頼むから揺らさないでくれぇぇぇ!)
こうしてガッデムたちは、巨大な丸っこい鳥じょっぴーに乗り、はるか遠くにある魔王城跡地を目指して空へと旅立った。




