8話 夏休み明け
北海道の夏は短い。
あっという間に夏は終わりだ。
涼しくなったころ、夏休みが終わってしまった。
「あー今日から学校やん。まじだるいわー。」
「はいはい。さっさと行ってらっしゃい。」
追い出されるようにして家を出る。
駅までの一本道は、黄金に輝く稲穂に囲まれて光り輝いている。
「おお東雲君。夏休みの宿題は終わったかい?」
「まあ何とか形にはしましたよ。量が多くてやばかったです。」
広野さんと一言交わす。
久しぶりの光景だ。
「ドア閉めまーす。」
気動車が動き出す。
遠くに見える山は、すでに紅葉がはじまっている。
「…もう秋か…。」
誰にともなく、ただ呟く。
一面に広がる黄金の水田。
真ん中に立ち尽くす案山子。
「黄色、か…。」
口に出した途端、頭の中に一輪のタンポポがフラッシュバックしてきた。
「黄色、か…。」
タンポポと同時に、黄色い服がフラッシュバックしてくる。
「ドア開きまーす。」
広野さんの声が響き、ドアが開く。
「あ。」
次々と乗ってくる人の中に、月川がいたのが見えた。
「ドア閉めまーす。」
列車がホームを離れる。
カーブを曲がり、もうすぐそこは学校の最寄り駅だった。
「ありがとうございましたー。」
そう言って列車を降りる。
ホームを降り学校へ向けて歩く途中、道端に黄色いものを見つけた。
「…なんだ、季節外れのタンポポか。」
俺は前を向きなおし、学校へ向かって歩き続けた。
「…はいじゃあ、この課題を提出してください。」
先生の声が聞こえる。
俺は鞄をひっくり返して該当のものを取り出す。
「…よし、全部あるな。」
幸い忘れ物はなかったようだ。
後ろから回されてきた課題に、自分の分を重ねて前に回す。
単純作業の繰り返しだ。
「…あ。」
七個目の宿題の時、ついうっかり手を滑らせて、全て落としてしまった。
落とし方が悪かったらしい。
滑り落ちたプリントは向こうの机の下にまで届いてしまっている。
「…はー、だる…。」
立ち上がってプリントを拾う。
動き自体は大したことないが、とにかく億劫だ。
淡々と拾っている最中、左からプリントが差し出された。
「はい。」
月川だった。
「ありがとうございます。」
お礼を言い、そのプリントを受け取った。
「遅れてさーせん。」
全てを集め終わり、今度こそ前に渡した。
やれやれ一苦労だ。
「はーい全て集め終わりました。提出してない人は明日必ず持ってきてください。」
先生の声で授業は終わった。
次の時間は札幌研修のしおり読み合わせだ。
「あーねみー。」
睡眠不足がたたっている。
ちょっとこの休みの間、昼夜逆転で過ごしすぎたようだ。
「ちょっと仮眠とるか…。」
そう呟いて、目を瞑った。
目が覚めたら、そこに誰もいなかった。
…いや正確には、なぜか野球着の颯太がいた。
「…お前さ…。」
颯太が呆れたように言ってくる。
「…一体何時間寝てるんだよ…。もう夕方だぜ?」
おかしい。
確かにさっきまでは昼間だった。
昼食の後の提出物回収を終えて、休み時間に仮眠を…。
「やっべぇ!寝てた!」
「あほ、今更か!」
空っぽの教室で、俺と颯太の笑い声だけが響いていた。
「あー文化祭行きたかったなー。」
「うるせえ颯太!これから試合だろ!」
グラウンドに向かうバスの車内で、俺は颯太に突っ込んだ。
「あー合唱歌いたかったのにー。」
「お前そんなキャラじゃないだろ。」
颯太がボケ続けている。
呆れてきた。
これから秋大会の初戦だというのに。
「えーほんとはお前文化祭行きたかったんだろー?」
「いやまあ行きたかったっちゃ行きたかったけどさ…。」
「だよねー。なんで被っちゃったかなー。」
女々しい。
颯太、そんぐらいにしとけ…。
「お前の進展も期待してたのにさー。」
…ん?
音が止まった。
こいつはいったい何を言っているんだ。
「な、何のことだよ…。」
「あれれー?自覚ないですかー?」
にやけた顔をして颯太が聞いてくる。
まさか、な。
本当にこいつは性格が悪い。
「だからなんのことだってば。」
「あれいいの?自分から言わないならこっちから言っちゃうよ?」
…とんでもない野郎だ。
しかし俺だって引き下がるわけにはいかない。
「いいんだな颯太?俺だって何もないわけじゃないぞ?」
颯太の表情が一瞬引き攣る。
が、すぐに元に戻ってこちらを見てくる。
「じゃ言っちゃうよ?いいのね?」
非常に性格が悪い。
恐ろしいやつだ。
「いやちょっとま…。」
「お前、月川のこと好きだろ。」
…。
………。
…まじでいうやつがいるか。
「おーい?大丈夫かー?」
…止まっていた思考がもう一度動き出す。
「え?なんて?」
「もう一度言ってほしいのか?お前月川のこと…。」
「もういい。黙れ。」
颯太はにやけた表情のまま、まあこんぐらいにしといてやるよ、と言って前を向きなおした。
しかしすぐにこちらを向きなおし、また質問をしてきた。
「お前月川のどんなところが好きなん?」
…本当に鬱陶しい。
…まるで俺が月川を好きなのが事実のような発言だ。
しかし否定しようにもうまい言い訳が考えられない。
「…まあ、話をしていて楽しいところとか。」
「お前そんな話してたっけ?」
…この野郎…。
どこまで無礼なんだ…。
「…正確には、話を聞いてくれるところとかかな。」
「ふーん。」
人に質問しといてなんだその態度は。
ただこのまま話を終えると、月川を好きだということを認めることになってしまう。
「…ま別に、この感情が『好き』なのかはわかんないけどね。」
「とか言っちゃってさ。ほんとは好きなんだろ?」
「うっせーなお前。あ、あれ球場じゃね?」
「うわこいつ話題変えやがった。厳しいって尚―。」
「今試合前だぞ。お前のくだらない話に付き合ってる暇はないんだよ。」
「そういいながら結構答えてたけどな。」
「っしゃついたぞー。後ろのやつから先降りろー。」
顧問の声が響く。
俺は荷物を持ってバスを降りた。




