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7話 熱中症

 テストが終わって少ししたら夏休みになった。

その間に夏の予選もあったが、初戦コールド負けで敗退。

俺の出番もなかった。

夏休み初日。

課題の山を前に、俺は呆然と立ち尽くしている。

「…休みになったのはいいんだ。休みは最高。でも…。」

どうしても文句が言いたかった。

「なんだよこの課題の量!人間がやる量じゃねえよ!」

数学九〇ページに国語五〇ページ、さらに社会が四〇ページ。

一体人をなんだと思っているんだ。

課題の山は、富士山のように高く目の前にそびえている。見たことないけど。

俺はとにかく一心不乱に課題に取り組んだ。

運動は、週末の野球でしよう。

ニュースは連日三〇度越えと言っている。

外に出たくない。

今日も冷房ガンガンの涼しい部屋の中で、わかりもしない問題を延々と考えている。

「…ま、今日は飽きたしここまででいっか。」

俺は諦めてユーチューブを開いた。


夏休みに入って最初の週末。

俺は野球部の練習に行くために駅に行った。

ほんの数日使わなかっただけなのに、ずいぶん変わったように見える。

向こうから見慣れた黒い気動車が来た。

定期券を見せて乗り込む。

「おお東雲君じゃないか。久しぶり。元気にしてたかい?」

運転手の広野さんが話しかけてくる。

「いやー課題が多くて大変っすよー。」

笑いながら返してガラガラの座席に座る。

窓から見える水田は青々と、空は隅々まで晴れ渡り、これぞ夏といった風景になっている。

カーブを曲がり、列車は高校の前の駅に到着した。

「じゃ行ってきまーす。」

「おお、頑張ってな。」

広野さんに軽く挨拶して列車を降りる。

刺すような太陽の日差しに、思わずクラっとする。

「よう尚。暑いな。」

颯太が後ろから話しかけてくる。

暑い。暑すぎる。汗がだくだくと流れる。

「だな。やっぱ暑いな。ところで颯太、課題はやってるか?」

意地の悪い質問をする。

「俺か?俺結構やってるで。国語もう終わった。」

「マジかよお前。俺まだ数学手つけただけやで。」

「これができるやつとできないやつの違いか~。」

颯太がこっちを覗き込んで煽ってくる。

ちょっとうざい。

「いてっ。」

その頭を軽くはたいてやった。

そうこうするうちにもう学校だった。

「おはよーございまーす。」

勢いよく挨拶をして正門を通る。

そしてそのまま更衣室に直行して着替える。

「よっしゃ、今日もやるか。」

グローブとバットと水筒を持ち、二人でグラウンドへと走って向かった。


 「じゃお疲れさん。」

「あざました!」

ようやく練習が終わった。

普段の数倍疲れた気がする。

あまりの暑さに、頭が痛くなってきた。

「尚、お前顔赤いぞ?どうかしたか?」

颯太が聞いてくる。

こいつ、またあの話を蒸し返すつもりか。

悪いけどその手には乗らない。

「いや別に?ま暑かったから多少火照ってんじゃないの?」

「そうか。それならよかった。」

…あれ?

どうも颯太の反応が思っていたのと違う。

別にニヤついてもいない。

汗でぐっちょり濡れた野球着を脱ぎ、制服に着替える。

しかし暑い。

暑すぎる。

あまりの暑さにめまいもしてきた。

「お前、本当に大丈夫か?」

颯太が聞いてくる。

いや、幻聴だろうか。

視界が二重になる。

あまりに強いめまいと吐き気に、思わず後ろに倒れこんでしまった。

「おい、しっかりしろ!」

遠くから颯太の声が聞こえる、ような気がする。

「誰か氷を!いや救急車を!こいつ熱中症です!」

遥か遠くで颯太の声がこだまする。

「…暑い…。」

とうとう視界が真っ暗になった。

すべての音が聞こえなくなった。


 「…―い。おーい。」

どこかから呼びかけられているような気がする。

俺に対してだろうか。

「…はい?」

「おお目が覚めたか。体調はどうだ?」

見知らぬ人が聞いてくる。

誰だ?

何が何だかわからないがとりあえず立とう。

と思って起き上がろうとするも、足に力が入らない。

「待て、無理に動くな。君は熱中症だったんだ。」

その人は続ける。

状況を理解しようと周囲を見渡すと、部屋の端に颯太を見つけた。

「颯太、これはいったい…。」

「お前あそこで意識失ってたんだよ。だから救急車呼んで、俺が付き添いでここの病院に来たわけ。まったく、熱中症対策ぐらいしっかりしろよな。」

なるほど、そういうことか。

ようやく理解した。

どうやら俺は練習後に熱中症で倒れ、病院に搬送されたらしい。

「それはすまなかった。久しぶりに外出たから…。」

「えお前自主練してなかったのかよ。そんなの熱中症になるに決まってんだろ…。」

「まじごめんて。次からクーラーボックス持ってくるから。」

さっきの人、おそらく医者であろう人物が口を開く。

「まあ容体は安定してるから大丈夫でしょう。しっかり休んで、気をつけながら家に帰ってください。」

「はい。ありがとうございました。」

俺は立ち上がって荷物を持った。

まだ少しフラフラするが、まあ歩けないことはない。

颯太に支えられながら、俺は病院を後にした。

帰りの列車内で、ふとさっきの颯太との会話を思い出した。

顔が赤い、か…。

そういえば月川とは、あの繋いだ時以来何も話してないな。

ま暑いの気をつけた方がいいし、一応ラインしとくか。

「熱中症なった。外暑いから気をつけてね。」

気動車に揺られるぼんやりした頭で、考えられた文面はこれだけだった。

「…よし送信っと。」

颯太は向こうの席でゲームをしていてこちらなど一切見ていない。

「しっかり対策しないとな…。」

最寄り駅に着いた。

俺は颯太にお礼を言い、列車を降りた。

日は沈みかけているが、それでもまだ暑い。

家に向けて歩き出そうとしたとき、スマホに振動があった。

月川からの返信が来ていた。

「へー大変だったね。お大事に。私文化部だからこんな暑いときに外で活動なんて想像もつかないよ。」

俺はスマホを閉じ、家へと歩き出した。

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