6話 LINE
期末テストが「終わった」。
フィニッシュの方じゃない。
もちろんエンドの方だ。
「数学、六割行ってないだと…。」
返ってきた答案を見て絶望する。
少なくとも中学の頃は、七割を下回ることはまずなかった。
「まあでも、ほかはいいし問題はないだろ。」
自分に言い聞かせる。
手元に返ってきたバツまみれの答案用紙を鞄の奥底に押し込み、記憶から消去する。
周りの反応も悲喜こもごもだ。
高得点をとって喜ぶ人。
点数が悪く絶望する人。
そして俺みたいに隠蔽する人。様々いる。
横をちらりと見る。
月川はいたって冷静だった。
「いいなー頭がいい奴は…。」
誰にも聞こえない声でボソッと呟く。
きっとさぞかし点数が良かったんだろう。
…ちょっと待て俺。
何を考えているんだ。
この前の颯太の言葉が頭に浮かぶ。
「顔に出てるんだよお前は。」
慌てて俺は前を向きなおした。
きっと顔には出ていないはずだ。
「はーいじゃあ、ここの説明を始めまーす。」
先生の気の抜けた声が響く。
「あーねみー。」
わざとらしくそういいながら、俺は別のプリントを机の上に広げた。そしてその上に突っ伏して寝た。
「…というわけで今、各パートのパートリーダーを決めたいと思います。」
学級委員である高橋の声が聞こえる。
どうやら合唱祭のパートリーダーを決めているらしい。
ただ正味どうでもいいっちゃどうでもいいような気もする。
高校になってまで合唱祭とは、この学校もなかなか狂っている。
「誰かテノールのパートリーダーをやりたい人はいませんか。」
前方で手が挙がる。
それを眠気交じりの目で眺めながら、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
「じゃ次、サブパートリーダ―やりたい人。」
どうやらまだ続きがあるらしい。
今日はテスト返しの後で早く帰りたいのに。
空に浮かぶ雲をぼーっと眺めていたら、突然右腕をつかまれた。
「おい、何すんねん。」
俺はつかまれた手を振り払うために右腕を伸ばした。
その瞬間クラスから拍手が巻き起こった。
「じゃあサブパートリーダーは、東雲君にやってもらいましょう。」
「え?」
いまいち状況が理解できない。
俺はいったい何をして…?
…そうか。
右腕を伸ばしたのが立候補の挙手と認識されたのか…。
「じゃあ次はアルトのパートリーダーを…。」
訂正するのにはもう遅そうだ。
それにいちいち変えるのも面倒くさい。
仕方がない。
この役職を受け持つか…。
おとなしく仕事をすることを決めた。
「…はい全ての役職が決まりました。じゃあ後でリーダーの人たちは誰かしらグループラインを作っておいてください。」
高橋の一言で帰り学活は終了した。
ここで嫌な予感がして、ちらりと駅の方を見る。
…気動車が、いた…。
「起立、気をつけ。礼。」
「あざしたー。」
その声に合わせて気動車が駅を離れていく。
「あー待って待って…。あーあ、一時間半待ち確定やないか。」
「まじ萎えるわこれ。」
クラスがにぎやかになった。
平日の真昼間なんて、列車は二時間に一本程度しか来ない。
「外は暑いし、教室の中で待つか…。」
机に突っ伏しながら呟く。
マジで萎える。
とその時、左肩を軽くたたかれた感触があった。
「ねえ東雲君。さっき言ってたグルラ作りたいからライン教えて。」
月川の声だ。
俺は起き上がって声の方を見た。
「自分ですか?はい。」
ラインを開いてキューアールコードを提示する。
「ありがとね。じゃグルラ作っとく。」
月川はそのまま別のパートリーダーのところへ去っていった。
スマホの画面を見る。
「月川澪」
の文字が確かにあった。
「サブパートリーダーね…。悪くはないな。」
招待されたグルラに入って挨拶のスタンプを送りながら、俺はまたボソッと呟いた。
窓の向こうの雲は、いつの間にか全て流されて快晴になっていた。
「ただいまー。」
家に着いた。
耳からイヤホンを外し靴を脱ぐ。
ユーチューブを見るのをやめて通知を確認すると、一件着信があった。
画面にはラインのアイコンが表示されている。
送り主は、月川澪。
「なんか用事か?」
ラインを開いて確認する。
ただの挨拶のスタンプだった。
安心したようながっかりしたような?感覚に包まれた。
「…ま、返信しとくか。」
俺はシマエナガのスタンプを選び、それを送信した。
「ま、当たり障りないだろ。」
スマホを閉じる。
直後、振動があった。
「今度はなんだ?」
またスマホの画面を開く。
月川からのラインだ。
もう一度ラインを開きトークルームを確認する。
「そのスタンプかわいいね!」
…。
…これはどう返すのが正解なのだろう。
でしょ?はちょっと馴れ馴れしいか。
ならありがとうございます、はどうだ。
いやこれは堅苦しい気もする。
「マジでわかんねえ…。」
一五分間悩んだ末、俺の出した答えは…。
「あざす。」
…。
…まあ無難だろ。
きっと。




