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4話 仮入部

グラウンドはきれいに整備されていた。

「一年一組、東雲尚です!ポジションはどこでも守れます!よろしくお願いします!」

仮入部の自己紹介を済ませ、俺はアップに加わった。

中学野球の時の同級生は俺含め二人しかいない。

他は野球をやめるか、もっと別の学校に進学していった。

「よっしゃ颯太、キャッチボールしようぜ。」

その中学時代からのチームメイト、佐伯颯太を誘い、二人でキャッチボールを始めた。

「やっぱ硬式は重いな。」

「だな。でかいなこれ。」

キャッチボールをしながらだんだん距離を伸ばしていく。

六年間軟式に馴染んだ肩には、硬くて重い硬式が響く。

「あー肩重いわー。ってやべ、ごめん。」

力を込めて投げたボールは、颯太の頭を遥か越える大暴投になった。

「まじごめーん。抜けたわ。」

「まったくよ…。やっぱ硬式慣れねえな。」

颯太は明るい。

その明るさで中学時代も何度も助けられたことだろうか。

そんなことを思っていたら、いつの間にか塁間まで距離が離れていた。

「おーい。体験の子たちは故障しちゃうからそんぐらいにしときなー。」

向こうから顧問の先生の声が聞こえる。

「わかりました。じゃあこのぐらいにしておきます。」

本当はもう少し行けただろう。しかし怪我をしては元も子もない。

俺と颯太はおとなしくキャッチボールを終えた。


「よっしゃ、こい。」

ノッカーが打った打球がフラフラと上がる。

俺は全速力で前進。

迷わず頭からダイビングをかます。

「おぉー。」

ダイビングキャッチ成功。周囲から感嘆の声が上がる。

「よっしゃ俺も負けるもんか。しゃこーい。」

颯太も負けじと声を張り上げる。

今度は後方への大きなあたりになった。

颯太が必死に背走しながら打球を追う。

そして…。

「わーお。まじか…。」

見事なスライディングキャッチを披露。

プロ顔負けの素晴らしいプレーに、周囲の先輩たちがざわめく。

「こいつらただもんじゃねえぞ…。」

「俺らも真面目にやらなきゃまずいな…。」

触発されたのか周りのプレーもキビキビとしたものになる。

野球部員全員が必死で白球を追っていた。

いつの間にか日が暮れて、完全下校の時刻になった。

「じゃお前ら、さっさと着替えて帰れ。お疲れさん。」

顧問の先生の号令で俺らはグラウンドを飛び出し、更衣室に向かった。

帰り道は、まだ涼しかった。

帰りの列車を降りるとき、運転手のおじさんに話しかけられた。

「この前は待ってあげられなくてごめんな。あまりに乗客が多くて待つわけにはいかなかったんだよ。すまんね。」

…おお。

この人、めっちゃいい人だ。

遅れた俺が悪いのに、それを謝ってくれている。

「いえいえそんな…。遅れた自分が悪いんで。わざわざすいません…。」

「そうかい。ま、足元に気を付けて帰りなよ。」

おじさんはそういうと、笑って定期を確認した。

足元、か…。

あの転倒、まさか見られていたとは。

そしてそれを、嫌味なく笑いながら言える様子。

この人、もしかしたら面白い人かもしれない。


 季節は廻り、いつの間にか夏になった。

ようやく雪も消え、どこからか蝉の声が聞こえてきそうだ。

「…東京では、連日三〇度を超える真夏日が続いており…。」

ニュースからは遥か遠くの東京のニュースが流れてくる。

俺が住んでるのは北海道なのに。

日本の中心?

そんなの関係ねえ。所詮「東」の都やんけ。

俺が勝手な東京嫌いをぶつぶつ呟いている横で、陽が母親と話している。

「ねえ母ちゃん。今日どんぐらい暑くなんの?」

「えっとね今日はね、ここ最高二〇度だってさ。暑くて体融けちゃいそうだね~。」

「ね~。陽もう暑くて丸焦げになっちゃう。」

「丸焦げになったらこまるね~。」

…ああ馬鹿らしい。

何と意味のなく下らない会話だろう。

ここで丸焦げだったら東京はいったいどうなってるんだよ。

ツッコミを心の中で入れながら、通学用鞄を背負って玄関で靴を履く。

「じゃ行ってきます。今日も部活だから帰り遅くなる。」

「あいよ行ってらっしゃい。帰る時連絡してね。」

お決まりのフレーズをお互いに繰り返し、俺は家を出発する。

駅までの一本道の脇には草花が咲き誇り、まるで花道のようになっていた。

足元には、黄色いタンポポが咲いていた。

「おはようございます。」

「おはよう東雲君。今日も元気そうだね。」

「そうですね。最近しっかり運動できているるんで。」

「それはよかったね。じゃ発車しまーす。」

最近運転手のおじさんと話すことが増えた。

最初は向こうから挨拶してきていただけだったが、挨拶されたらこちらも挨拶しないわけにはいかない。そうこうするうちに、軽く会話するようになっていた。

そしてやっとおじさんの名前が分かった。

広野さんというらしい。

まあわかって何?ということではあるが。今度JR北海道に「広野さんという運転士さんが素晴らしいです。」とでも送ってみようか。

いや面倒くさいしいいや。

列車は減速し次の駅に停車した。

たくさんの生徒が乗ってくる。大体の生徒はこの駅の付近に住んでいて、皆通学でここを使う。

山一つ越えたところに住んでいる俺が珍しい方だ。

「そろそろ発車しまーす。」

広野さんの声が響く。

…と、窓の向こうに走ってくる人影が見えた。

デジャヴかな?

「…なんか見覚えがあるぞこれ…。」

間違いない。月川だ。

「すいませーん。待ってくださーい。」

月川は全力ダッシュで駆け込んできた。

「はーい。乗ったね?じゃドア閉めまーす。」

乗ったのを確認して広野さんはドアを閉めた。

列車は発車した。

列車は発車直後、この路線屈指の急カーブに差し掛かる。

なんだろう。嫌な予感がする。

いやきっと気のせい…。

「うわっ。」

…やっぱり。月川は案の定揺れに対応できずよろけた。

そしてその拍子に鞄が飛んで…。

俺の顔面にクリーンヒット…。

「ごめん!大丈夫?」

ただ予想していたため、被害は少なかった。

「ああ全然大丈夫です。むしろ大丈夫ですか?」

「あ私?全然大丈夫。あ鞄ありがと。」

そういうと月川は列車の後ろの方に行き座った。

列車は川を越え、高校の前の駅に到着する。

高校からは、威勢のいい掛け声が聞こえてくる。

…そうだ…。

今日、野球部朝練だった…。

列車が止まった。

ドアが開くと同時に、俺は飛び出した。

急いでグラウンドに駆け込み、大声で謝罪をする。

「すいません遅れましたー!」

「まそんな日もあるよ。」

…優しい部活で本当に良かった。

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