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18/23

18話 盗塁死

 二回の裏の攻撃。先頭は俺からだ。

低めのボールを見送る。

ボールだ。

高めも見逃してボール。

この横のも見逃してボール。

ワンバウンドを見切ってボール。

フォアボールだ。

やっとリベンジの機会が来た。

なにがなんでも成功させてやる。

リードをとる。一歩、二歩と徐々に広げていく。絶対に…。

「バック!」

ランナーコーチの声で慌てて一塁に滑る。

間一髪セーフだ。

ファーストがボールを返球したのを確認してから、俺は立ち上がった。

もう一度リードを取り直す。

一歩、二歩…。

突然ピッチャーが足を上げた。

急なタイミングにスタートが遅れる。

が、もう止まることはできない。

二塁に向かってがむしゃらに走る。

しかしセカンドがボールを捕ったのが見えた。

「ただじゃ終わんねえぜ!」

俺はタッチをかいくぐるように姿勢を低くした。

そしてそのまま足を曲げた状態でスライディングする。

体を右に倒し、タッチをかわしながらベースに足をつける。

間違いない。セーフだ。タッチされた感触がなかった。

「…アウト!」

…え?

今、なんて言った?

アウト?

そんなはずがない。

「いやいやタッチされてません!かわしました!」

審判に向かって抗議する。

向こうの高校のコーチだ。

おかしいだろう。

いくら自分のチームが勝ちたいからって、セーフをアウトにするのは。

「いやアウトだから。」

「そんなわけ…。」

「東雲!早く戻ってこい!」

顧問の怒号が響く。

まじこいつ何言っちゃってんの?

セーフだし。本当に意味がわからない。

「なんでですか!セーフですよ!」

「いや審判がアウトだと言ったらアウトだ!」

「でもタッチされてません!」

「でも審判がアウトと言ったらアウトなんだよ!」

ふざけるな!

と口に出したかったが、さすがに自重した。

後続も倒れ、チェンジだ。

ベンチに置いていたグラブをつかんで守備位置に向かおうとしたとき、顧問に呼び止められた。

「東雲、交代だ。」

「………。」

交代、か…。

それもそうだ。

あれだけ感情的になっていたら、代えられるのも仕方がないだろう。

頭では理解している。

だがどうしても悔しい。

「いいな?」

「はい…。」

返事は何とか返した。

しかしどうしてもこの感情の行き場がない。

せめて守備に就けたら。もう一度チャンスがあれば。

そうすればこの感情を発散させられたかもしれないのに。自分の別のプレーで自分をなだめられたかもしれないのに。

グラブを乱暴にベンチに置き、俺はベンチの後ろのスペースに出た。

試合に背を向けてひたすらにバットを振る。

悔しい。

とにかく悔しい。

三盗だけならともかく、二盗まで失敗するだなんて。

足にだけは自信を持っていたのに。守備でもだめ走塁でもだめ。もう一体何なんだ。

絶対にグラウンドの方は向かない。

泣き顔だなんて見せたくない。

恥だ。

とにかくバットを振って、この感情を処理しなくては。

「おい東雲。」

だれかにバットをつかまれる。

そちらを見ると、そこにはコーチがいた。

元甲子園球児で、現在プロとして活躍している投手に投げ勝ったことのあるコーチだ。

「なんですか。」

つっけんどんに返す。

邪魔されたくなかった。

「お前、あれはいかんよ。審判がアウトと言ったんだから。」

「だってあれセーフですもん。」

「確かにセーフだったかもしれない。だがあそこで抗議して何になる。判定を覆すわけにもいかないし、チームとしての印象が悪くなるだろう。」

「でも…。」

「お前があそこで抗議すれば、確かにお前の気持ちは晴れるかもしれないが、明らかに審判からの印象は悪くなる。それはつまり、際のプレーでうちが不利になるということだ。自分のわがままでチームに迷惑をかけるつもりか。」

「それは…。」

「わかっただろう。なら最後までしっかり試合を見ろ。お前は代わって試合から退いたかもしれないが、お前のチームメイトたちはまだ試合をしている。お前のミスの分まで頑張ってくれている。それを最後まで見届けるのはチームメイトとしての使命だ。泣くのはそのあとにしろ。全力で声を張り上げて応援しろ。」

「…はい。」

涙で視界がぼやける。

でも本当にその通りだ。

俺は試合から退いたが、その分仲間たちが頑張ってくれている。しっかり応援しなくては。

「ナイスプレー!」

代わったサードが鮮やかな守備を見せる。

コーチが誰よりも大きな声で、そのプレーを祝福する。

俺はバットを置いてサングラスを外し、コーチの横に座った。

そして真似して声を出し始めた。

日差しが目に刺さって痛い。

涙が滲むのは、砂埃がひどいからだろう。きっと。

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