15話 デジャヴ
年が明けていつの間にか一か月が過ぎている。
この間に学校は始まり、部活も忙しくなってきた。
窓の外に浮かぶ雲をぼんやりと眺めている。
地面には雪が積もっている。太陽の光を反射していて眩しい。
「あーまじ眠いわー。」
あくびが止まらない。
だって仕方がないだろう。六限目に数学をやる方が悪い。
「はい。じゃあこの問題東雲!」
…どこか見覚えのある展開だ。
しかしあの時の俺とは違う。
何しろ数学は真面目に授業を受けないと非常にまずい状況だから。それぐらい自覚している。
…ところが残念。
起きてはいたものの、別に話を聞いていたわけではない。
まって、やばいかもしれない。
「おーい東雲?ここの問題だぞ。」
先生が黒板を指さして教えてくれる。
が、そんなことはとうにわかっているのだ。
そうじゃない。答えがわからない。
「…えーと…。」
苦しい時間稼ぎで考える時間を捻出する。
しかしこの方法もそろそろ限界だろう。
ダメもとでちらりと横を見る。
もしかしたらわんちゃんあるか…。
そして絶望した。
そういえば俺、今端の席だった…。
左は窓。
右は休み。
前は居眠り。
これは四面楚歌ということなのだろうか。
こうなればもう、勘に頼るしかない。
「五分の二ですか?」
「正解だ。しっかり話は聞いておけよ。」
…あー助かった。
幸い確率の復習問題だったから何とかなったが、やはり真面目に話は聞いた方がよさそうだ。
「はーいじゃあ今日の授業終わり。再来週課題提出だから頑張ってねー。」
眠気から解放される。
いや突き放されたといった方が正しいか。
カダイテイシュツ?ちょっと何言ってるかわからない。
「…嘘、だろ…。」
クラスルームを確認して絶望する。
問題集、六〇ページ。
とんでもねえ話だ。
誰がやるってんだい。
そんなことやったって…。
「…やらなきゃな…。」
そうだ。
課題をやらないと成績三をキープできない。
ただでさえテストの点数が壊滅的なんだ。せめて課題だけでも出さなくては…。
「座ってくださーい。」
いつの間にか日直が前に立っている。
やれやれ、片づけに行こうと思ったのに…。
「明日の予定の確認です。明日は一時間目数学、二時間目英語…。」
…マジか。
六時間目の数学も嫌いだが一時間目もだるい。
なにも一日の頭から人を憂鬱にする必要はないだろう。
そして続く英語も問題だ。
中学時代真面目に授業を受けていなかったつけがここで出ている。
まず文法が分からない。
もちろん単語も分からない。
あまりにもずさんな成績に、親が見かねて通信制の講座を受けさせてきた。
こちとら忙しいのに。
そんな英語に裂くような時間もないというのに…。
「各係、委員会からお知らせはありますか。」
やめてくれ。
なくてくれ。
早く帰りたいんだ。
せっかくのオフ。家でゆっくりとテレビでも見てダラダラしたい。
先生は平日二時間、休日五時間勉強しろとか言ってくるけど、そんな勉強バカになるつもりはない。
せいぜい平日三〇分、休日二時間が限度だろう。
もちろん今日も、勉強する気は甚だない。
課題なんか明日から始めれば問題ないだろ、きっと。
「はーい。」
…空気が読めないのだろうか。
手を上げた奴がいるようだ。
「颯太か…。」
颯太だった。
こいつ、いったい何を言い出すつもりだ。
「網走方面宿泊研修実行委員の佐伯です。」
そうだ、こいつ実行委員までやってたんだ。
「今回はオリジナル曲制作班の募集にきました。今この場で決めたいと思います。やりたい人、手を上げてください。」
なかなか手が挙がらない。
まるで風のない穏やかな水面のようだ。
二〇秒、三〇秒と時間が過ぎていく。
立っている颯太の表情が曇っていく。
見ていられなくて、思わず手を挙げた。
「お、三人手を挙げてくれましたね。他にはいませんか。」
…え?
三人?
慌ててあたりを見渡す。
まず最初に目に入ったのは窓。
そりゃそうか。左は窓だった。
右を見る。しかしもう手をおろしてしまったらしい。手を挙げた人が誰だかは分からなかった。
「はーいじゃあ、東雲さん、福田さん、月川さんにやってもらいましょう。それでいいですね。」
颯太が席に座る。
今こいつなんて言った?俺と、福田と…。
月川⁉
「ほかに連絡がある人はいませんかー。」
「あやっべ言い忘れてた。今の三人は放課後ちょっと残ってくださーい。」
…俺の休みを返せ。




