13話 空虚な妄想
「あー降ってきちゃったよ。」
「俺傘ね―!終わったわ。」
更衣室。雪が降ってきたため練習が打ち切りになったので、急いで着替えて帰る準備をしている。
颯太がこちらを見てきた。
「ねー最近どうよ?」
…いやな予感がする。
どうせロクな話じゃない。
「何のこと?」
とぼけてみる。
無駄だとわかっていながら、それでも一応試してみた。
「何って…、月川のことだよ。進展あった?」
「全く?何もないよ。」
相変わらずの微妙な空気。
それは今日も変わらなかった。
「本当に~?絶対なんかあったでしょ?」
「いやマジで何もないってば。なんかあってくれればよかったのに…。」
つい本音が漏れた。
もちろん颯太が聞き逃してくれるはずもない。にやけた顔でこちらを見てきた。
「あーあ聞いちゃった。何もないとがっかりしちまうよなー。」
「うるせえ。ちょっとだまらっしゃい。」
「もう早く告っちまえよ。一番手っ取り早いで?」
「やだよ恥ずかしくて言えやしないさ。」
「そんなんだとほかのやつにとられちまうぞー?」
…本当に腹が立つ顔をしてやがる。
一発ストレートを入れたくなるのを必死に堪えながら、俺は言い返した…かった。
「やかましいわ。一回黙っとれ。」
「ま期待しとくよ。あー楽しみだなー。」
「お前らさっさと帰れー!」
顧問の声が聞こえた。俺らは慌てて荷物をまとめて更衣室を飛び出した。
「…ふう、疲れた…。」
風呂あがり。自室のベッドの上に寝っ転がる。
机の電気はつけたままだ。ただぼんやりと、天井を眺める。
「…まったく颯太の奴め…。」
更衣室でのやり取りを思い出す。あのにやけた顔。
「…いいよなあいつは気楽でさ。」
口に出して呟いてみる。
性格も顔もいい颯太はいつも女子からモテていた。
しかし本人は野球に集中するため、特に相手にしていなかった。
「…ったくよ…。」
声が明かりに吸い込まれるように消えていく。
唐突な虚しさに、思わずスマホを開いた。
「…ユーチューブでも見るか…。」
ショート動画を漁り始める。
ゲーム実況。
野球雑学。
様々な種類の動画を垂れ流す。
ふと、目に留まった動画があった。
「片思いは六ヶ月以上だと実らない!」
スクロールする手を止める。
本当は見たくもなかった。が、どうしても指がいうことを聞かない。
「六ヶ月以上の片思いは、そのまま進展せずに終わることがほとんどです!」
スマホから音声が流れる。
明るい書体とキラキラした画面が見える。
ようやく動画が終わった。
わずか三〇秒ほどの短いショート動画。それなのに何時間にも感じられた。
スマホを閉じ、天井を見る。
心拍数が跳ね上がっている。
「…今、何月だっけ…。」
カレンダーを見る。
十一月だ。
「…で会ったのが…。」
四月だ。
そして意識し始めたのが…。
「…六月だ…。」
まだ一か月猶予はある。
ただ現状、どういうわけか気まずくなってしまった。
「何が悪かったかね…。」
思い当たる行動を根こそぎ上げてみる。
小説を渡したのが悪かったか?
それともそのあとのラインに対する返事がまずかったか?
「うーん。一体なぜだ…?」
別に無視されたり、一人だけよそよそしいわけではない。
ただなぜか気まずい。
パソコンを広げてワードを開く。
この何とも言えない思いを、どうにか言語化できないものか…。
「…あ、充電忘れてた。」
パソコンの画面が暗くなる。
「…言語化、失敗と…。」
残念だった、が同時にどこか安心してしまった。
言語化したら、何かネガティブな言葉がたくさん出てきそうだった。
「…もしかして、月川は何も思っていないんじゃ…。」
つい口をついた。
その言葉に、どんどん心が支配されていく。
「…多分そうだよな。きっと俺の思い込みすぎだ。勝手に盛り上がってるだけ。そうだろう?」
誰もいない天井に問いかける。
もちろん何も返ってこない。
自分で答える羽目になった。
「…そもそも颯太が乗せてきただけだろ。俺自身は本当は何も思ってないんじゃね?」
思いついたことを口に出す。
どこからか声が聞こえてくるような気がする。
「そうだそうだ!お前は別に何も思ってないだろ!」
「空虚な思い込みはやめろ。向こうが何か思っているわけないだろ。考えたらわかることだ。」
誰もいない。
誰一人俺の前にはいないのに、声が聞こえてくる。
きっと心の中のそういう考えを持った部分が活発に動いているのだろう。
「やっぱり、俺の思い込みでは?」
この言葉が頭の中に反響する。
急にすべてがばかばかしくなってきた。
そうだ。
俺はただ颯太に乗せられて思い込んでいただけだ。
向こうも何も思っていないだろうし、迷惑になるからこのぐらいにしておこう。
スマホを開く。
さっきの動画が開きっぱなしだった。
俺はいいねボタンを押し、そのまま画面を閉じた。
窓の外を見る。曇り空だった。
雪はどうやら止んだらしいが、うっすらと地面につもり鈍く光っている。
「明日の朝、凍ってそうだな…。」
俺は電気を消して、布団にもぐった。




