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12話 颯太

 あっという間にもう冬だ。

雪がちらちら舞っている。

「さっむ。今年も冷えそうだな…。」

列車のドアが開く。

中から暖房の温かさがあふれ出てくる。

「おはようございまーす。」

「おお東雲君。おはよう。今日も部活かい?」

「そうですね。今日は多分走り込みだと思います。」

「そうかい。怪我しないように気をつけてね。」

広野さんと挨拶をかわす。普段通り、優しい口調だ。

ただこの前の話の残像が今でも残っている。

「でも私はさようならとは言わなかった。」

あの時の遠くを眺めるような目。

きっとずっと忘れられないだろう。

「発車しまーす。」

列車が動き出す。

徐々に加速して、降り注ぐ雪を置いていく。

「大人って、大変だなぁ…。」

座席に座ってボソッと呟く。

その言葉は列車の走行音にかき消されて消えていった。


あの後、月川からラインがあった。

「ごめん。大丈夫?私たちも寝ちゃっててさ、気づいたらもう発車間際だったの。何回かゆすったんだけど全然起きなくて…。私たちも降りなきゃいけなかったから置いてくことになっちゃった。本当にごめん。」

…仕方がない。起こしてもらっていたのに気づけなかった俺が悪い。

「全然大丈夫。気にしないで。」

そう返信した。

結果、リアクションがついただけで終わり。

もっとこうなんか、もう一回ぐらい謝罪してくれるもんかと思っていた。

が、しょうがない。

それに広野さんの話も聞くことができたし、有意義な時間ではあった。

「ドア開きまーす。」

広野さんの声が響く。

どうやら隣の駅に着いたようだ。大勢の生徒が乗りこんでくる。

その中に月川もいた。

月川が横を通り過ぎたとき、軽く会釈。

挨拶をした。しかしなんの反応もない。

「…ま、そんなもんか。」

若干ガックリ来たが、そんなもんなのだろう。

どうもこの前帰った後、微妙な空気になってしまっている。

本当はあの時のように、いろんな話で盛り上がりたいのに。

「…そううまくはいかないよな。」

列車はカーブを曲がって高校の前の駅に到着した。

そういえば前、ここで鞄飛んできたな…。

「ドア開きまーす。押さずに一列になって降りてくださーい。」

俺は座席を立ち上がった。

そして列の後ろに並び、列車を降りた。


 「っしゃこーい!」

カーン、と快音残して曇り空に打球が舞い上がる。

落下点まで走っていって、勢いをつけてキャッチ。そしてそのままの勢いで内野へと返球する。

「ナイスプレー尚!ええやん。」

颯太が後ろから声をかけてくる。

ようやく硬式の打球にも慣れてきた。

「おっしゃこーい!」

颯太が打球を呼ぶ。

「カキーン!」

鋭い打球音がグラウンドに響き渡る。

大きなあたりだ。颯太が全力で背走しながら打球を追う。フェンス際まで行った。ただまだ打球は落ちてこない。

「よっしゃ捕ったる!」

落ちてきたところを狙って大ジャンプ。

「おぉー。」

颯太のグラブの中には、確かにボールが収まっていた。

「すげー!流石颯太だわ。」

先輩たちが次々に颯太を褒める。

「ははは、ありがとうございます。」

颯太はまんざらでもなさそうだ。

そんな表情を見て、やはり多少なりとも劣等感に駆られた。

「…やっぱ、そうだよな…。」

颯太はいつもそうだった。

俺が少年野球に入った時も、中学の時も。

いつもずっとチームの中心にいて、主軸として皆を引っ張っていた。

声も大きく、野球も抜群にうまい。

それでいて性格もいいとくれば、頼られないはずがない。

そんな颯太の陰に、俺はいつも隠れていた。いや、隠されていた。

颯太が四番なら俺は五番。

颯太がエースなら俺は二番手。

常に後塵を拝してきた。おいしいところは、全て颯太に持っていかれた。

でも俺は知っている。

颯太がその姿を周りに見せるために、裏でどれだけ努力しているかを。

毎日走りこんで、自作のマシンでバッティングして筋トレをする。とてもじゃないけど真似できたもんじゃない。

「…非の打ち所がないってのも、あれだ、大変だね…。」

悔し紛れに呟く。

わかっている。

颯太は並大抵の努力じゃない。

自身を限界まで追い込んであの姿を手に入れているんだ。

そんなのわかっている。

でも羨ましいし、妬ましい。

「おーい東雲!打つぞ!」

いつの間にか俺の番になっていた。

「しゃこーい!」

フラフラと打球が上がる。前方の弱い当たりだ。

「っしゃ見せたる!」

全速力で落下地点を目指す。打球はもうすでに落ち始めている。

「届けぇぇぇ!」

グラウンドに頭からダイビングする。

砂煙で前が見えない。しかしグラブに、確かな感触があった。

起き上がってグラブの中を見る。

確かにボールが入っていた。

「おっしゃ!捕ったぜ!」

握りかえて内野へ返球する。勝ち誇った顔で颯太を見ると、嬉しそうな顔で拍手をしていた。

「尚いいじゃん。ナイスガッツ!」

「へへありがと。」

…面と向かって褒められると、ちょっと照れ臭いような感じもある。

「はいノック終わり―!お前ら急いで戻ってこーい!」

顧問の声が響く。俺らは急いでベンチへと走っていった。

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