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異能力探偵ハチミツ  作者: 春山ルイ
探偵ハチミツ
53/62

推理

 椿の逮捕から5時間が経過した。その間、解は茫然自失となって椅子に座っていた。そんな彼のことなどお構いなしに、事態は否応なく動き続ける。


 如何野博士の助手が、意識不明状態で、センター1階の男子トイレの個室から発見された。警備主任と同じ症状だ。おそらく同様の方法で眠らされたのだと考えられる。また、所持品から2枚のカードキーが奪われていた。犯人はこれでエレベーターを起動させたものと推測できる。

 犯人の姿は目撃していない。


 警備主任と如何野博士の助手は病院に搬送された。命に別状はないものの、話を聞くには時間が必要とのことだった。



 時間が経ち、消防隊によって現場の安全が一旦、確保された。長時間はいられないが、現場の検証が可能となる。


 エレベーターは念のため、稼働を停止させている。そのため、綴たちは20階まで非常階段を使って上った。到達する頃には、息も切れ切れ、脚も棒になっていた。おまけに季節は冬で、日も落ちている。寒さで手が凍るような思いだった。


 非常階段を必死に上る道中、階段を見張るカメラを発見した。エレベーターを使わず、非常階段を使えば20階まで行けるではないか、と希望を持ったのも一瞬で、カメラがあるだけであっさり否定される推理だった。

 当然、映る人影はなしと報告されている。非常階段のカメラは18階とは別の場所で管理されているらしく、機能は生きている。


「ひい……ひい……う、うわっ……」


 19階の時点で、爆発の衝撃で荒れていたが、20階は流石に酷い有様だった。爆心地は研究室だが、火の手は廊下から外に広がっていた。焼け跡と消火時の水が広がっている。


 廊下の天井と壁の間に、煤けた監視カメラが設置してある。


「レコーダー、改ざんされていたんだってな。犯人は警備室に侵入し、堂々と廊下を抜けた」


 もちろん、椿の犯行なわけがない。犯人は彼女に罪を着せようとしたのだ。


「……でも、警備室で改ざんを行ったとしても、そこにたどり着くまでに、エレベーターの監視カメラには映るはず。このカメラと違って停止もされていませんでしたし」


 されていないからこそ、忌まわしき椿の写真が提出されたのだ。


「エレベーターのカメラには、椿しか映っていなかった……あ、エレベーターは2基あって、もう1つには白滝が映っていたぜ。17階の研究室に用があったって言ってたし、そのときのだよな。それ以外には、エレベーターが稼働していた記録はない」


「非常階段のカメラにも映っていない。つまり、事件発生前、18階に向かったのは白滝さんを除けば椿さんだけ……うぅ……」


 考えれば考えるほど、椿に不利な情報が導き出される。いっそのこと考えるのをやめてしまいたいくらいだ。分かっていても、辛いものがある。



「……究助さん。そういえば気が動転してたので忘れてたんですけど、爆発って……2()()ありませんでした?」



 花火のような爆発は、確かに2度あったはずだ。 


「ああ、あったぜ! 俺、センターの中にいたからよく分からなかったが、振動が2度あったのは覚えてる」


「僕は外にいました。1度目の爆発で、最上階の壁が壊され、その後に2度目の爆発が起きた、と記憶しています。……なぜ犯人は、2度も爆破したんでしょう?」


「それは分からんけど。つまり、犯人は2個の爆弾を持ってここまで上ってきたってことになるよな? んー、ここまで上ってくるリスクを冒して、意味のない行動をするとはまったく思えねぇ。2度爆破させたのは、ちゃんと意味があってやったことだ。その意味が見当もつかねぇんだけど……なあ、どう思うよ──」


 そう言ってから究助は後ろを振り返り、「なぁ!」とわざとらしく大声を出した。


「……」


 解は、非常階段を上りきっても疲れを見せず、その代わり、絶望の表情を貼り付けていた。


「しっかりしろよ解! あんたも頼りなんだからよ! いつまでも落ち込んでねぇで……」


「無論、理解している……」解は死人のような顔色で、綴たちの背中をかろうじて追いかけている。「椿を助けるためには……現場の検証が必須……」


「……そんなんでできるか? 杖が必要になったら言えよな」


「……峯岸部長……何故、椿を……」


 究助の皮肉にも答えない。


「昨晩、彼と言葉を交わしたんだ……私が非番ということを知り、『羽を伸ばせ』と、背中を叩かれた……まさか、こんなことになるなんて……」


 駄目だこりゃ、と究助は呆れ顔を見せた。



 廊下の角を曲がると、研究室の入口……だったものが現れる。爆発でドアは吹き飛んでいて、ドア枠は焦げて黒ずみ、歪んでいる。

 側にはパネルが鎮座している。ドアのロックを解除するためのテンキーがタッチパネル式のモニターに表示されていた。ドアが破壊されたせいで、無用の長物になっているが。


 警察が門番のように立っていた。


「お疲れさん」究助が手を挙げる。「20階はこの研究室以外に部屋がねぇのか」


「はい。このビルは鉛筆みたいな形をしていますが、ここは芯の先端部です。ビル内でもっとも狭いフロアとなっています」


「博士みたいな人種には、狭いところがお似合いってイメージあるよな。そのための構造かどうかは知らんけど」


「最上巡査。理解しているかと思いますが、この部屋での検証は注意してください。見てのとおり爆発でボロボロで、急に崩れるかもしれない。それから、奥の壁一面が崩壊しています。近寄らないように柵を設置しましたが、間違っても覗き込もうと思わないように! 風が勢いよく吹き込んできますからね、落ちますよ。容易く」


「……お、おう。怖ぇ……」


 王樹家の屋敷を思い出す。現場は3階で、豪邸だったために地上まで10メートルはあった。だが、今回は地上から60メートル近くある。比べものにならない。恐怖もまた、数倍以上だ。


「あ。ドアの上にあるの……あれが、異能力者を発見して警報を鳴らすっていうカメラですね」


 警報は生きていたらしいが、現在は捜査のために停止している。


「たとえば縮小なんかで豆粒サイズになればカメラが認識しない、か……」


「我が妹がそんなことをするはずがないだろ!」


 解の怒声に、場が静まりかえった。


「……んなことは分かってんだよ! 急にキレんなよ怖ぇから!」


「ぐ……済まない……」


「このシスコンが……」


「気持ちは分かりますよ。家族が犯人と疑われていたら、僕だって必死になります。……シスコンとか関係なく……」


「私をシスコンと言うな!」

 

 カメラを充分に観察した後、綴は研究室に足を踏み入れた。外からすでに見えていたが、奥の壁が崩壊し、空がすぐそこにあった。今すぐ駆け出して設置された柵を跳び越えれば、あっけなく、なんの抵抗もなく、60メートルの高さから落下できてしまう。ぞわりと腰から背中にかけて寒気が襲った。


「やっぱ、風が強いな……寒っ! ……この部屋にあった小さなものとか、紙とか、ぜんぶ外に吹き飛んじまったんだろうな……いや、その前に焼けたか?」


「東博士の論文もな」


 解の言葉に2人は振り向く。


「論文?」


「私が落胆しているのが妹の件だけだと思ったか? ……博士が執筆していた論文やそれに関わる資料が、おそらく焼失した。言わずとしれた、特能の未来、それから世界中の異能力者の未来を照す研究結果が消えた。……非異能力者と異能力者が共に歩む未来が、これで遠のいたのだ……」


 綴はここに訪れたであろう犯人の姿を、思考を、想像した。


「もしかして……動機はそれだったりして」


「なに?」


「東博士を恨むような人はいないという話でした。東博士を殺すと、損失の方が大きいとも。裏を返せば、その大きな損失が目的だったと考えられませんか? 解さんの言う、東博士の論文と資料。それらごとまとめてこの世から抹消すること、それが犯人の動機……」


 ただ爆弾を使って騒ぎを起こしたり、テロのようになにか訴えるつもりなら、センターの最上階まで上る必要はない。一般公開フロアで爆破しても、世界に訴えかけることはできるはずだ。

 わざわざ20階の東博士の研究室を爆破したのは、この研究室に意味があるから。そして東博士を殺害したいから。爆破の動機は、間違いなく東博士と彼の研究室にあるのだ。


「……一理あるな。しかし、博士と論文を焼失させることが、犯人にとってどんな益に繋がるというのだ? 倫理も損得勘定も壊れた狂人の犯行と考えた方が、まだ説明が楽だ」


「うーん……」


 不気味に笑う犯人の影が、虚ろに浮かび上がってくるようだ。その顔を、一刻も早く曝かなくてはならない──綴はペンを強く握りしめる。


 椿のことを考える。どういうわけか、彼女は記憶が曖昧のようだった。理由は分からないが、不安なのは確かだろう。


 急がなくてはならない。助けられるのは、自分たちだけだ。



5章に人物紹介はありません。ご了承ください。

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