表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異能力探偵ハチミツ  作者: 春山ルイ
探偵ハチミツ
52/65

VS峯岸

「さて……なにから話そうか?」


 峯岸が静かに口火を切った。


「峯岸さん。椿さんは最上階に行ったとのことですが……」


「エレベーターの監視カメラから、そのことは確かだよね」


「それは……そうだと思います」認めざるを得ない。「でも、事件現場は18階ではなく20階です。椿さんが20階に上ったとは限りません」


「苦しいね」


 自分でも苦しい反論だと分かっている。しかし、ここから始める必要がある。


「20階の廊下、それから東博士の研究室前には監視カメラがあります。そのカメラに椿さんが映っていたんでしょうか」


「いいや。映ってないね」


 心の中でほくそ笑む。これで映っていたら大事だが、逆に言えば、映っていないなら彼女の潔白が色濃くなる。


「残念だが、君の望みは叶わない」


「へ?」


「彼女の潔白はまるで証明されていない。何故かって? 椿さんの異能力は何だったかな?」


「……! 《縮小》……」


 自分自身の身長を縮める。そのとき、身につけたものや手に持ったものも一緒に小さくできる。


「そう。それで監視カメラに映らないように廊下を移動できるね。おまけに、彼女の能力なら爆弾も小さくして持ち運べる」


「……で、ですが、紅花博士がおっしゃっていました」


《ヤツの研究室は厳重なセキュリティによって何人たりとも入れないようになっているんだよ》


《最後に、部屋に入るための《パスワード》だ。どうだい? 気味が悪いくらいの徹底ぷりだろ?》


「いくら監視カメラに映らないようにできても、パスワードは突破できません」


「ああ……君は、事件発生数分前に、東博士が外に出ていたのは知っているかい?」


「えっ、あっ……」


 白滝が言っていた。東博士は自販機に飲み物を買いに外へ出た。5()5()()に、白滝が目撃している。椿がエレベーターに乗っていたのは50分……。


「は、はい。でも、それがなにか……」


()()()()だよ。東博士のポケットに、小さくなった身体を滑り込ませるんだ。それならパスワードを入力することなく、部屋に侵入が可能だ」


「……! うっ……」


 バツを付ける余地がない。今すぐ、反論すべきだ。しなくてはならない。

 それなのに、結末は変わらない。


 綴は調子の外れてしまった声で、疑問を絞り出す。


「で……であれば、彼女はどうやって研究室から脱出したんですか? 脱出する際、いくら小さくなろうと、研究室のドアを開かなくては脱出できないはず。監視カメラに、ドアが開く瞬間とか……う、映ってなかったんですか!?」


「爆発で研究室のドアは吹き飛んでいた。吹き飛んだドアから出てしまえばいいのさ。

 ……そもそも」


 言葉を遮りたかった。最後まで言わせてしまうのは、嫌な予感がする。


 まるで悲嘆に暮れるように、峯岸はこめかみに手を当てた。その割には、表情からは辛苦が一切浮かんでいない。


「申し訳ないね。これを最初に言えば、君がそんな必死に無意味な反論をすることもなかったろうに」


「え」


「最優先で調べさせて貰ったんだ。上の警備室に捜査員を数名送り込んで、監視カメラの記録を、さ」


「な……映ってたんですか」


「いや? 一切、なにも映っていない。」


 峯岸は両手を広げた。降伏宣言をするかの如く。


「え……なにも?」


 一瞬、喜びそうになった。しかしぬか喜びであることにすぐ気がつく。研究室のドアが開く瞬間どこか、なにも映っていないという、不自然な言い回し。


「本当に、()()()映っていない。そう、爆破の数分前から、なんと警備室の監視カメラのレコーダーが改ざんされていたようで、記録が残っていないんだよ。正確には、監視カメラの機能がオフにされ、録画されていなかったんだ」


「お、オフにされていた!? じ、じゃあ……事件発生前、監視カメラは稼働していなかった……ってことですか!?」


「そのとおりだね。犯人は廊下を悠々と通れたんだよ」


 犯人は18階の警備室でレコーダーを改ざんし、カメラを停止させた。白滝によれば警備室は施錠されていないことが多かったため、簡単に突破できたはずだ。

 仮に施錠されていたとしても、突破する方法はある。警備主任を警備室の外に呼び出し、気絶させる。事実、警備主任は……。


「原因はこれから調査するけど、警備主任は何故か昏倒していた。犯人は何らかの手段を使い、主任を眠らせ、警備室に侵入。レコーダーの細工を行ったんだろう。監視カメラをオフにして、東博士が通るのを待った。ポケットの中に入るか、ドアが開いた瞬間に一緒に入ったかして、研究室に侵入。そして爆弾を元の大きさに戻し、爆破……東博士を殺害したんだ」


「ええっと……」


「ああ……ただし、停止されていたのは()()()()()()。異能力者を判別する特別なカメラの、警報を鳴らす機能は生きている。だからどっちみち、カメラの目からは逃げなくちゃいけないね」


「え、えっと、えっと……ば……バツ……」


「ハチミツ! 声が小せぇぞ!」


 究助がたまらず声をあげる。ロープ際でタッチするレスラーのように、究助は前に躍り出た。


「そうは言うけどよ部長さん! ハチミツがさっきも言ったが、部屋の中にいたら爆発に巻き込まれるだろ? つーことは爆弾を研究室に仕掛けて、犯人は外に出て遠隔で爆破したってことになるけどよ! 東博士はじっと爆破されるのを待ってたってのか!? 爆弾が仕掛けられてんのを黙って見てたって? おかしいだろ!」


 究助の怒声にも、峯岸は動じない。


「おかしくないよ。警備主任を眠らせたように、博士も眠らせたんだろう。そして爆破したんだよ」


「う」


「どうだい? 矛盾は解消された?」


「……ぐぐ」


「究助さん! 撃退されるのが早すぎますよ!」


 綴は息を吸い込み、体勢を立て直そうとする。


「ですが! あなたの推理はぜんぶ証拠がありません! た、確かに椿さんなら可能……かもしれませんが、憶測に過ぎません!」



「ははは……」峯岸は乾ききった笑い声を発する。「なんだか、犯人の悪あがきみたいだね」


「でっ、でも、そうでしょう?」


「その通り。でもそれは当たり前だよ。現場はまだまともに捜査ができていない。検視も済んでいない。僕たちは憶測で推理するしかないじゃないか」


「そうですけど……」


「すると、どうだい? 嫌疑をかけるには充分だと思うんだ。椿さんが謎の理由で18階に向かったのは事実なんだ。しかもどういうわけか、彼女は理由を語らない」


 未だに椿は当事者の意識がないかのように、茫然と座り込んだままだ。


「峯岸部長!」


 解が焦燥の叫びを上げた。しばらく黙っていたせいかしゃがれている。


「納得がいかない……! 突飛だ! よりによって妹が……」


「事件とは納得のいかないものばかりだよ。解くん。言っただろ? 私情を挟むな、と」


「しかし……動機が、どうしたって考えつかない! これは明確に悪意を伴った事件だ! だというのに、椿は東博士となんの接点もないんだ!」


「そうだな……たとえば、誰かに脅されたり、指示されたというのはどうだろう?」


「指示ですって? そんなの……だ、誰に!」


「それは分からないよ。でも、あり得るだろう? 君の大切な妹が、殺意を持って行動した……と考えるよりはさ」


「く……うう……」


「なにも椿さんが犯人で確定と言っているんじゃないんだ。覆る可能性は十二分にある。……まあ、このままだと、どうなるか分からないけどね」


 解は振り返り、椿に駆け寄った。


「椿! 本当に答えられないのか!? 自分が犯人ではないと、証明できないのか!」


「兄さん……」消え入りそうな声だ。「分からない……」


「分からないわけが……」


「覚えてないの。わたしは……センターに来て、外でハチミツくんたちを待ってた。でも、なんか……そこから思い出そうとすると、あやふやになるの。はっきり覚えているのは、警備室にいて、倒れている人を助け、非常階段から下に降りた……」


 椿はそこで、泣き出しそうに目尻を下げた。わけの分からない不条理に巻き込まれ、自分の力ではどうすることもできない。幼い少女のように、椿は弱り切っていた。


「……椿」


 解の手が椿の肩に置かれる。



「解くん。椿さん。しばらくの間、お別れの時間だ」


「そんな……!」


 椿を守るための議論は、圧倒的な敗北で終わった。捜査が足りない。推理が足りない。けれどそんなの、言い訳にはならない。未だに突破口を探そうとするが、なにも打つ手がない。


「ハチミツくん」


「はっ……はい!」


「──真犯人を見つけて。お願い……」


「……!」


「わたしを……」

 

 そこで椿は口をつぐむ。言葉の続きを発する勇気が出ない、とでもいうように。


 ──なにもないが、確かなことは1つある。


 椿がこんな事件を起こすはずがない。彼女は無実だ。


「分かりました。必ず、見つけ出します。僕は、あなたを信じています……! あなたを……」


 椿は峯岸の部下によって立たされる。

 連行される背中に向けて、綴は言い放った。


「必ず、助けます」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ