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異能力探偵ハチミツ  作者: 春山ルイ
異能力館の殺人
40/63

1つ目の真実

 3階に戻った。現場の前には特能が門番のように構えており、中に入るのに問題はないが、じろりと睨まれてしまった。真洞がさっきと同じ場所に座っている。体勢もそのままな気がする。



「ひとまず、もう1回真洞に話を聞いてみねぇか? 時間が経って、話してくれる気になってくれたかも……」


「そう、ですね……」


 綴はさきほどと同じく、椅子を持ってきて真洞の対面に座る。


「真洞さん」


「……」


 気が変わったようにはまったく見えない。


「やっぱり、あなたが哀根さんを殺した、と主張するんですか?」


「……はい」


「大地さんはあなたが犯人じゃないと考えています」


「お爺さんは……」


 そこまで言って、言葉は続かない。


「真洞さん、事件が起こったとき、停電が発生しましたよね」


「はい……」


「あなたが哀根さんを刺した……として、停電が起こったときに刺したんですか? 起きる前? 起きた後? どちらか教えてください」


「……」


 答えない。根気強く粘っても、無為に時間を過ごすだけのように思えた。無理矢理証言を引き出すつもりはないし、綴の性格上、そもそも不可能だ。


「では、別の質問です。真洞さん、額の傷は事件の時にできたんですよね? 争いがあった、と見ていいですか?」


「……」


「……ええと、では、また別の質問を」


 ここまで捜査を続けて、納得できない点、疑問が多い。その中でも、特に辻褄が合わない点があるのだ。


「この事件は、不可能犯罪に近い」


「……不可能犯罪、ですか?」


「ええ。ある一点がどうしても、納得できません」


「それは……」


「何故、被害者である哀根さんは、この部屋に来たのでしょうか?」


「……!」


 真洞の目の色が変わった。


「答えられませんか?」


「……叔母さんは、俺が、殺した。それで、いいでしょう? 早く逮捕してください……」


「それはできません」


「え……」


 この事件の真実、それは真洞が哀根を殺した。そう結論づけるには、とてもじゃないが納得できない。


 そのためには、真洞が口を閉ざす理由を明らかにしなければならない。



「……もしかして。本当は、哀根さんだったんじゃないですか?」


「……え? 叔母さんが……なんだって?」



「殺人を犯そうとしていたのは、哀根さんの方だったんじゃないですか」



   ***


「ちょ!」ここで声をあげたのは、究助だけだ。「ちょい待て待て! 俺を置いていくな!」


「説明します。究助さん。真洞さんはなにかを隠そうとしています。彼が黙っているのは、彼が庇っているから」


「庇う? それって……誰?」


「もちろん、哀根さんです」


 言っている意味が分からない、と究助は変顔をしている。


「哀根さんがどうやって3階に上がってこられたのか。あの灰色の壁をどう攻略したのか。その理由を推察するに、考えられる可能性は、そう多くありません。

 電子錠を開けるカードキーは管理室にあります。簡単には持ち出せないとのことで、この屋敷の人間である哀根さんですら難しかったのではないかと思います」


「じゃあ、どうやって?」


「哀根さんの異能力、《磁力操作》です。彼女の磁力はかなり強い。異能力を使い、錠の内部の金属を動かしたのだと思います。それで、強引にドアをこじ開けたんです。ただし、そのせいで受け手が故障してしまったんです」


「あ……それは、まあ、納得いくけど……だからって……! 被害者が殺人を!?」


「……はい。おそらくは。動機もあります。『ユグドラ』のブランドを守るため。ここに幽閉するだけではいつか《洗脳》が世にバレるかもしれない。その前に、存在をなかったことにしてしまおうとしたのではないでしょうか」


「ああ!? そんな理由……クソッ、俺みたいな庶民には理解できねー……」


「哀根さんのあの行動にも説明がつきます。薪原さんに頼んだ紅茶の件です」


「さっき聞いたぜ。21時30分に頼んだんだよな。でも薪原の時計がズレてたから、実際には21時20分に紅茶を運んだ……」


「あれはきっと、アリバイ作り。薪原さんにアリバイを証言させるためです。事件発生時刻に自分は薪原と一緒にいた、紅茶を飲んでいた……と、後から主張するため」


「ん? じゃあなにか? 薪原の時計は哀根にズレさせられたのか? どうやって?」


「それも磁力です。時計の近くで強力な磁力を発生させると、時計の針は狂ってしまうんです。きっと頼んだときに手を時計の近くにかざし、能力を使用。時計をズラした。10分ほど、進ませたんです」


「ああ……そうか! もしかして、哀根は犯行を実現させた後、針を戻すつもりだったのかもな。薪原はボケてたし、実際に時刻のズレに気づいたのはついさっき。バレない自信が、哀根にはあった」


 それだけではない。時間に関するトリックはもう1つある。



「現場に落ちて壊れていた時計、あれはわざと破壊されたんです。争いがあり、その際に破壊されたと思わせるため。犯行時刻が21時30分付近だと、僕たちに強く認識させるためです。

 そこで哀根さんのアリバイが輝くはず、でした。でも哀根さんは倉庫で殺害され、時計は落ちて計画通り破壊できましたが、薪原さんの時計の狂いは戻せない。哀根さんのアリバイはこうして、崩された」



 そして、もっとも重大な問題だ。哀根が真洞の元に行った結果、何故哀根が被害者になったのか?

 言いたくなかった。これが、真実だとでも言うのか。


 あのタイミングで、哀根にとって予想外の事態が起こったのだ。



()()です。哀根さんにとって予想外の、停電が発生し、倉庫は暗闇に包まれた。そして暗闇の中で真洞さんは、正当防衛を行った。哀根さんを……刺したんです」


「なんてこった……」


 真洞は大人しく綴の話すことを聞いていた。弛緩したかのように口元を緩める。


「だから、言ったじゃないですか。俺が叔母さんを殺したって……」


「でも、だからってよ……」


「真洞さん、改めて、話してください。なにがあったのかを」



「……ここ、内線は繋がるんです。ある日、叔母さんから電話がかかってきて、今月の会議の後、話があるって。カードキーは借りるからって言ってたけど、嘘だったみたいだ」


「鍵を壊して来ましたからね」


「21時30分、この倉庫で、って。叔母さんが来たとき、あの人はなにも持ってなかった。だからっていうのもあるけど、まさか俺を殺すつもりだなんて思ってもみなかった」


「……明らかに殺人だと、容疑は王樹家の人々に向かう。ブランドを守りたいというのが動機ならば、真洞さんの死は事故でなければならない。つまり、倉庫にあるもの、それが不運にも真洞さんの頭に直撃したという形にしたかったはず。現場にある時計を使うつもりだったんでしょうね」


「あの人が時計に手をかけた瞬間、嫌な予感がした。で、手を振り上げたんです。そのときになってやっと、あの人の思惑が分かった。殺されると……思った瞬間。暗くなった……」


「停電……」


「俺はパニックになっちゃって……それで、じっとしてたら殺されると思って……ナイフで……刺したんだ。刺した、というか……ナイフに偶然、刺さってしまった感覚だったけど。俺が刺したことに変わりはない。

 大きな悲鳴が上がって、次に、頭に衝撃を受けた。殴られた、と思った。それで気を失って……目が覚めたら、風馬と塔十郎さんが俺を見ていた。遺体も、そこにあった」


「相打ちになったんですね。でも、亡くなったのは哀根さんだけ……」


 正当防衛だ。罪に問われない。真洞の発言が真実なら、だ。



「解答編は終わったか?」


 冷たい声がして、ぱっと振り向けば、彼がいた。白金解だ。


「白金さん。あなたは……分かっていたんですね」


「無論だ。微に入り細を穿つ調査によって、自ずと明瞭になることだ」


 少し鼻につくが、事実として優れているのは認めざるを得ない。


「真洞さんの正当防衛……だったんですね」


「……」


 解は腕を組んで、目を瞑る。一瞬の沈黙ですら、非常に重苦しい。



「この事件の真相。王樹真洞氏が哀根氏を正当防衛により殺害した……。

 果たして、それだけが真実なのか?」



「え?」


 気づいてないのか、と言いたげに、解は目を開けて睨んできた。


「真洞氏の発言には、曖昧模糊とした点がある。分かるか?」


「え、えーっと、ど、どこでしょう……」


 大きなため息。それが胸にぐさりと突き刺さる。


「真洞氏の談によれば、哀根氏が来訪した際には、()()()()()()()()()()()()のだよ」


「……あっ」一瞬、思考が止まり、息を吹き返した。「ナイフは……?」


「そう。凶器のナイフは何処から出てきたというのだ?

 ──担当直入に訊ねよう。真洞氏、あなたが使用したナイフはどこにあったのか?」


「そっ……倉庫、木箱の上に、置いてあったんです」


「嘘偽りはないな? 貴方が持ってきたりはしていない、と」


「と、当然です。理由がないし……」


「ふむ。殺意があったのは状況から見て哀根氏であるのは間違いない。哀根氏が所持していたのでないとすれば、貴方の言葉は真言である……」


「俺もこの倉庫に頻繁に来るわけじゃないので、自信があるわけじゃないんですが……ナイフなんてあったかな? と思ったのを覚えています」


「停電時、それを手に取ったのだな?」


「手が届く距離にナイフがあったのを思い出して、咄嗟に手に取ったんです」


 解は浮かない顔をしていた。その様子は考え込んでいるときの椿と似ていて、やはり兄妹なのだと再認識する。


「偶然ですよ」真洞は首を横に振る。「俺が殺したのは……あの感触と、悲鳴で間違いないんだ。ナイフが何故あったかなんて些細な問題じゃないですか」


「否……だ。真洞氏。私は真実を追い求める。たとえ些末な問題であろうと、不確かな事柄は残せない。八見綴、貴方は如何に思う?」


 綴は顎に手を当てて考える。一度は見えたと思った結末が遠ざかるのを感じる。

 そうだ。解の言うとおりではないか。疑問の余地があるのに、終わらせていいとは思えない。


「疑問なら、僕も感じているものがあります」


「言ってみろ」


「停電です。事件のタイミングにぴったり発生した停電……これも偶然でしょうか?」


 解は鼻で笑うが、嘲笑の笑いではなさそうだ。


「停電1つでは偶然かもしれない。だが、出処不明のナイフの件といい、偶然で始末できる範疇はとうに超えている。この事件には裏がある。真洞氏の正当防衛自体が真実だとしても、だ。

 そうと決まれば……ん?」



「白金さん!」


 刑事の1人が解を呼んだ。解は怪訝な顔で呼ばれた方に向かう。


「何用だ」


「たった今、連絡が……」


 極限まで温まりかけていた空気が、急速に冷えていくのを感じた。

 ふっと息を吐き、綴は所在なげにして解の帰りを待った。



「なにか、裏が……? 俺が刺したのは間違いないのに……」


 真洞はうなだれている。背が高いためか、柳の葉を連想させる。

 


「……なんだと?」


 解の声が聞こえた。何度か問答を交わした後、こちらに戻ってきた。その顔から、納得した様子は伺えない。



「……白金さん。どうしたんですか?」


「──王樹真洞氏。あなたを哀根氏殺害容疑で緊急逮捕し、署に連行する」


「え!?」


 なんの脈絡もなく、唐突な宣言に、綴たちは揃って声を上げた。

 わけが分からない、と究助は食ってかかる。


「お、おい! どういうことだよ! あんた今まさに、捜査を続けようとしてただろ!」


「……無論、捜査は続行する。だが、真洞氏の身柄は拘束される。これは決定事項だ」


「な、なにがあったんだよ……!」


「──峯岸(みねぎし)部長の指示だ」


「は? み、峯岸部長!? って、特能の班長だよな!? なんで……」


「正直なところ、私も疑念を抱いている。わざわざ峯岸部長が手を煩わすとは。しかし、あの方の命ならば致し方ないだろう……」


 解が大仰に指を鳴らす。すると部下と思しき刑事たちが真洞を囲み、手に錠をかけた。


 真洞はこちらを一瞬だけ見やり、しかしすぐ諦めたように顔を伏せた。反論をするつもりもないらしく、無言で刑事に連行されていく。


「何故、部長自らが……」


 解の呟きが、綴の耳に届く。解は逡巡するように眉間に皺を寄せ、視線を床に落としていた。


「……ふん。私はしばらく席を外す……貴方が真実を(こいねが)うなら……いや……なんでもない」


「……」


 そう言い残し、彼は出ていった。やや傲慢で、堅苦しいきらいがあるが、彼もまた、事件の真実を求める味方のようではある。


 しかし、場は大混乱だ。

 その収拾をつけてくれる存在は、この場にいない。


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